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6月24日(木)(後)

6月24日(木)(後)



「あたし、龍太に話したいことがあるの。聞いてくれる?」


「ああ」


「まず、お礼言っとくね。多分、後で言い忘れちゃうと思うから」


「……」


「1ヵ月半の間、どうもありがとう。初めて付き合った人が龍太で良かった」


「何だ、それ?」


「えっと、最初は何か訳分からないうちに付き合うことになっちゃったけど、途中から龍太のこと本当に好きになった。だけど、龍太は好きな人がいるんでしょ?知ってたけど、あたしはそれでも龍太の側にいたかった」


声が震えてしまう。


我慢していた涙が溢れてくる。


話し終わるまで泣いちゃいけない。


唇を噛んで耐えた。


「…何で」


何か言おうとした龍太を遮った。


「最後まで聞いて!!!龍太はあたしのこと、すごく大事にしてくれたよね。あたし、龍太といて幸せだったよ。毎朝一緒に登校したことも、屋上でお弁当食べたことも、龍太の試合の応援に行ったことも、いっぱいキスしたことも、抱き締められたことも、全部大切な思い出だよ。龍太とずっと一緒にいたかった。でも、もう無理。…限界だったの!!あたしが龍太に好きって言ったら、あたし達の関係は終わりだって分かってた。だけど、これ以上、自分の気持ちが抑えられなかった!!!……だから…別れてください」


龍太はずっと黙ってあたしの話を聞いてくれた。


話し終わると、今まで我慢していた嗚咽が漏れ、あたしは子供みたいにしゃくり上げた。


「花」


龍太が立ち上がる気配がする。


「……」


あたしも立ち上がる。


これで、全てお終いだ。


最終判決を聞く被告ってこんな気持ちになるのだろうか?


龍太の気持ちを聞くのが辛い。


龍太の顔が見れなくて、俯いて、両手できつくスカートを握り締めた。


流れ続ける涙がポタポタとコンクリートの地面に黒い染みをつける。


唇を噛んで嗚咽を耐え、龍太の最後の言葉を待った。


…………


…………!!!!!!!!


どう…し……て?!!!


気が付くと、龍太に息もできないほど強く強く抱き締められていた。


「おまえ、何勝手にしゃべって、勝手に終わらせてんだよ!!!」


頭上から聞こえる龍太の怒った声に抱き締められている体がビクッとする。


頭が混乱する。


そして、耳元に囁かれた言葉に心臓が止まった。


「好きだ」


「…うっ、嘘…」


「花が好きだ」


「……ふぅ…」


「…花」


「…うぅ…」


「花」


「……ひっく…」


「泣くな」


龍太はあたしを抱き締めていた腕をちょっと緩めると、あたしが泣き止むまでずっと優しく頭を撫でてくれた。


そして、あたしがやっと落ち着くと、あたしの涙でグショグショの顔を上げさせて笑った。


「ひっでえ顔」


「…龍太」


「ん?」


「さっきのもう一回言って?」


「花が好きだ」


「本当に?」


「ああ」


龍太の顔が近づいてくるのを見て、あたしは目を閉じた。


龍太のキスが好き。


龍太が好き。


啄ばむ様な優しいキスの合間にあたしも伝える。


今までずっと胸の中に溜め込んでいたあたしの気持ち。


「…龍太」


「ん?」


「好き」


「ああ」


「龍太が好き」


「ああ」


「龍太が大好き」


「うん」


溢れ出した気持ちは、止まることを知らず、あたしの唇から龍太の唇に伝わっていく。


「俺も」


「うん?」


「好きだ」


「うん」


「花が好きだ」


「うん」


そして、龍太の気持ちも、龍太の唇からあたしの唇に伝わってくる。


また涙が溢れてくる。


今度はあまりにも嬉しくて。


次第にキスは深く、激しくなり、あたし達は飢えている様に互いの唇を貪り合った。


そして、最後にチュッと音を立てて触れるだけのキスを何度か繰り返しているうちに、どちらともなく笑い出し、龍太はあたしの額にコツンと自分の額をくっつけた。


あたしは午後の授業をさぼりたかったんだけど、龍太が許してくれなかった。


でも、まだまだ話したいことがいっぱいあるのに。


今夜、電話すると約束させて、やっと教室に向かうことを承諾した。


途中、トイレに寄って、自分の顔がどの位酷くなっているのかチェックする。


だけど、あたしが鏡の中に見たのは、紅潮した頬にキラキラした目、微笑んだ口、幸せそうな自分の顔だった。


まだちょっと目は赤いけど、泣きはらしたっていうほどでもない。


まだ胸がドキドキしてる。


あまりにも嬉しくて、スキップでもしたい気分。


周りの景色が急にモノクロからカラーに変わったような気がした。




龍太は約束通りにちゃんと夜10時頃に電話をくれた。


だけど、龍太が無口なのは相変わらず。


会話が続かない。


「ねえ」


「ん?」


「何か話してよ」


「…何かって、何だよ」


「彼女に電話したんだからさあ。それなりに会話してよ」


「……」


「ねえってば」


「そっちが電話しろって言ったんだろ」


「そうだけど」


だけど、龍太の声を聞けるだけで嬉しい。


心の中がホコホコ暖かい。


気持ちが繋がっているって何て幸せなことなんだろう。


「龍太?」


「ん?」


「ありがとう」


「…何が?」


「急にお礼言いたくなった」


「何だそれ」


「…電話してくれて」


あたしを好きになってくれてありがとう。


「おやすみなさい。また明日ね」


「ああ。おやすみ」


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