6月24日(木)(前)
6月24日(木)(前)
また地雷を踏んでしまった。
これで、タブーな話題は2つになる。
1つ目は初恋の話だった。
今朝、学校に行きながら、いつもの様に眠そうな龍太に話しかけていた。
「ねえ、龍太っていつから剣道やってるの?」
「…8歳から」
「そっか、そんなに小さい頃からやってるから強いんだ」
「……」
「見てみたかったな。ちっこい龍太」
「……」
「中学の時も剣道部に入ってたの?」
「ああ」
「そう言えば、龍太って何中出身なの?」
「…N中」
「N中か。電車で通っていたの?」
「いや」
「歩き?」
「チャリ」
「ふーん。あたしはS中だけど、歩いて通ってたよ。自転車通学禁止されてたし」
「……」
「龍太って、中学の時、暴力沙汰起こしたって本当?」
龍太は一瞬ハッとした顔をしてあたしを見たが、直ぐに普段の顔に戻った。
「…まあな」
あんな顔するなんて、一体何したんだろう?
龍太は女は殴らないって言ってたよね。
龍太は人に酷いことなんてできないよね。
龍太の悪い噂。
だけど、その噂はデタラメばかりだった。
だから、暴力沙汰もてっきり嘘だと思っていたのに。
「何したの?」
「…喧嘩」
「誰か怪我させたの?」
「…尋問かよ」
「そうなんだ」
「もういいだろ。そんな古い話」
嫌々ながらあたしの質問に答えていた龍太は段々不機嫌になってくる。
もう黙れっていう眼で、睨みつけてくる。
「だけど…」
「おまえだって他人に触れられたくない過去があるだろ!!」
初めて龍太に怒鳴られた。
…他人。
そう、あたしは他人なんだ。
泣いちゃ駄目。
あたしは、龍太に隠したい過去なんてないよ。
あたしは龍太が好きだけど、龍太はあたしが好きではない。
龍太は誰か好きな人がいるのね?
その時、あたしは直感的に龍太の隠したい過去が、龍太の初恋と中学時代の暴力沙汰に関係していると分かったんだ。
そして、その過去に今も龍太が傷ついていることを。
学校に着くまで、もう何も話さなかった。
あたしは、涙を抑えるのに必死だった。
頭では分かっていたつもりだったのに。
それでも、はっきりしてしまうと、こんなにも辛いんだ。
廊下で別れる時に龍太はあたしに謝った。
「さっきは怒鳴っちまって悪かった」
何で謝るの?
あたしが悪いんじゃん。
あたしがあんたのこと傷つけたんでしょ?
あんたが忘れようとしていることを無理やり思い出させて。
お昼休み、屋上に向かうのが辛い。
今日は久し振りに晴れたからお弁当作ってきたのに。
でも、決着つけないと駄目だよね。
頭の中を「ジ・エンド」の文字がグルグル回ってる。
授業中ずっと考えていた。
もう、どうにもならないよね。
どこにも行けない、あたし達の関係。
あたしが決着をつけよう。
屋上の扉を開けると、まだ龍太は来ていなかった。
もしかして、もう来ないのだろうか?
自然消滅?
でも、あたし、龍太に自分の気持ちを伝えていないよ。
ちゃんと振って欲しい。
そうじゃないと、前に進めないから。
扉の音に膝に埋めていた顔を上げる。
…来てくれた。
龍太に黙ってお弁当を渡した。
口きいたら絶対涙が溢れてしまう。
下を向いてお弁当を食べた。
おかずの味も何も分からない。
それでも、無理に食べ続ける。
腹が減っては戦ができぬ、なんて思っている自分がいて苦笑いする。
やっとお弁当箱が空になり、いつもの様に龍太が手渡してくれた紅茶を飲む。
がんばれ、あたし!!!
龍太の方に向き直って話し始めた。