6月20日(日)(後)
6月20日(日)(後)
「ただいま」
「おかえりー。ちょうど、今からご飯食べるところだったのよ」
手を洗って、テーブルにつくと、お母さんが色々聞いてくる。
「それで、試合はどうだったの?」
「勝った。個人と団体でインターハイ出場決定だって」
「へぇー、強いのね。今度、家に連れてらっしゃいよ。週末とか」
「うーん、難しいと思う。あいつ、土、日も練習あるって言ってたし」
「そうなの?でも、食事はするでしょ。夕飯食べに来るように誘ってみたら?」
「…今度、聞いてみるよ」
「お姉ちゃんの彼氏見るの楽しみー。初めてだもんね」
生意気な香代を睨む。
「来週の土曜の夜とかどうだ?」
やだ、お父さんまで。
「だから、聞いてみるって」
急いでご飯をかき込むと自分の部屋に引き上げた。
まだ早いけど寝ちゃおう。
寝る前に龍太にメールする。
「To :黒澤龍太
Sub :お疲れ
団体戦準優勝おめでとう!!!今日一日お疲れ様。ゆっくり休んでね」
暫くして、返信があった。
「From :黒澤龍太
Sub :RE お疲れ
差し入れサンキュ。美味かった」
…差し入れ?
あたし、差し入れなんかしてないよ。
誰かと間違えてんの?
…そして、思い出した。
クラスの前田が、ファンの女の子が差し入れ持ってきたとか言ってた。
じゃあ、誰か他の子と間違ってメールしてきたの?!!
酷いよ。
鼻がツンとして、目頭が熱くなってきた。
龍太があたしに誰かと間違えてメール送ってきたことより、龍太にこんなメールをやりとりする子がいるってことがとても辛い。
龍太からのメールは、何も書いていないやつ以外、全部保存してある。
でも、こんなに優しいこと書いてあるの一つもないよ。
龍太の馬鹿!!!
電話して怒鳴ってやればいいと思うのに、あたしにはそんな勇気ない。
でも、間違えられているの嫌だからメールした。
「To:黒澤龍太
Sub:RE RE お疲れ
差し入れ??」
返事なんか期待してない。
なのに、暗闇の中で机の上の携帯が光っているのが見えたから、慌てて飛び起きた。
「From :黒澤龍太
Sub : RE RE RE お疲れ
キス。おやすみ」
キス?!!
何よ、キスって?
まだ、誰かと間違えてんの?!!
差し入れ持って来てくれた子にキスしたいってこと?!!!
…それとも、差し入れ=キスってこと?
トイレの前でしたキスのことだろうか?
勘違いじゃないよね?
あたしに送ってくれたメールだよね?
すっごく疲れてんのに。
こんなメールもらったら、眠れないよ。
何度も繰り返し、メールを見てしまう。
あーもう、モヤモヤして眠れない!!!
よしっ。
初めて龍太に電話してしまった。
呼び出し音にドキドキする。
あっ、出た。
「はい」
「…龍太?」
「どうした?」
「ん。大したことじゃないんだけど…」
「……」
「えっと。あ、あのさ、差し入れってキスのこと?」
「そうだ」
「……」
電話だから顔見えなくてよかった。
「……」
「…龍太に…キスしてほしいな」
うわー、言っちゃった!!!
「……」
「……」
あー、もう、この沈黙に耐えられない。
「えっと」
「俺も」
「え?」
「花にキスしたい」
…………!!!!!
龍太、好き。
あんたが好き。
だけど、あたしがそう言ったら、終わっちゃうんだよね。
あたし達の関係。
「…今、どこにいるの?」
「ベッド」
「あたしも」
「……」
「疲れた?」
「ああ」
「あたしも疲れた」
「……」
電話線だけでも、ずっと、こいつと繋がっていたいって思うあたしは重症だよね。
「おやすみなさい」
「ああ、また明日」
電話を切ってからも、ずっと携帯を握り締めていた。
まるで、それが龍太の手みたいに。