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6月20日(日)(中)

6月20日(日)(中)



龍太の試合の度にあたしは緊張しまくって、興奮しまくって。


まるで自分が試合に出たみたいに疲れてしまった。


龍太は本当に格好良くて、改めて惚れてしまったみたい。


そして、宮田さん達の予想通り、龍太は決勝戦まで残った。


宮田さん達も、森さんの彼氏が負けちゃってから、龍太を応援してくれていた。


決勝戦。


龍太の相手は結構小柄で。


あんた、そんなにでかいのに小さい子苛めちゃ駄目でしょとか言いたくなった。


でも、相手だって決勝戦まで勝ち残ってきたんだから強い筈。


何か悪い予感がする。


頑張って、龍太。


相手が小さくたって、手加減すんなよ。


今までの試合とは違って、龍太は直ぐに攻めなかった。


互いに距離を取って、動かない。


・・・と龍太が動いた。


気合と共に振り上がる竹刀。


そうそう、その調子。


そして、また、向かい合って動かなくなった。


互いに様子を窺っている様だ。


何で、今までみたいに攻めないんだろう。


疲れちゃったの?


あっ、相手が素早く攻め込んできた。


ちょっと、何やってんのよ、馬鹿龍太!!!


負けちゃうじゃん。


それからも、龍太は相手にかかって来させてばかり。


「あ、延長戦になっちゃう」


宮田さんが言った言葉に、


「サッカーの試合みたいにですか?」


と聞いたら、どうもそうらしい。


延長戦で龍太は元に戻った。


打って変わって、激しく打ち込む龍太に相手は受身になり…


二人の竹刀が同時に跳ね上がり…


…凄い拍手が沸き起こる。


「え?えっ?どっちが勝ったの?」


キョロキョロするあたしに宮田さんが審判を指差して言った。


「黒澤君」


やったー!!!


すっごい、すっごい、すっごいじゃん、龍太!!!!!




「藤本さんは、お昼どうするの?」


「何も持ってきてないので、コンビニ行ってきます」


「私達、お弁当持ってきてるから。ここの席取っといてあげるね」


お礼を言って、外に出る。


もしかしたら、うちの高校の人達に会えるかも。


コンビニは結構混んでいて、買い物に時間がかかってしまった。


会計の列に並びながら、キョロキョロするけど、知っている顔はいない。


おにぎりを食べながら、体育館に戻る。


校門の所でクラスの前田に声を掛けられた。


「藤本、来てたの?見当たらないから、来てないのかと思ってた」


「うん、ちょっと遅れちゃって」


「黒澤先輩、インターハイ出場決定じゃん。マジすげえな、あの人」


「うん」


「うちの部の奴ら、あっちの教室で休憩してるよ。行ってみないの?」


「午後の試合の準備で集中力とか養ってるんだったら、邪魔しちゃ悪いかなって」


「いや、ファンの女の子とか差し入れ持って来てたし、大丈夫だろ。一緒に行くよ」


やっぱり、顔見たいな。


だから、前田についていった。


コンコン!!


「黒澤先輩。藤本、連れて来ました」


と言って教室に入っていく前田の後に続く。


うわっ、汗臭!!!


男ばっかり。


じろじろ見られて思わず後ずさりをしてしまう。


龍太はどこにいるんだろ?


あっ、いた。


防具を外し、着物と袴姿で机に腰掛けて、スポーツドリンク飲んでいた奴がこっちを見た。


「優勝おめでとう」


「ああ」


何だ、試合終わったら、元の龍太か。


ニヤッと笑ってあたしの顔に手を伸ばしてきた。


ギョッとして後ずさるあたしの頬に人差し指で触れ、


「米粒ついてる」


と言った。


うわーん、恥ずかしい。


まさか、歯に海苔とかついてないよね?




「トイレ行ってくる」


あたしは慌てて教室を飛び出した。


龍太はあたしの後をついて来る。


廊下に出たあたし達に何とか先輩が怒鳴る。


「おい、龍太!後15分だぞ」


「すぐ戻る」


女子トイレの前まであたしについてきた奴は、そこの壁に寄りかかって、


「3分で出て来い」


と言いやがった。


急いで用を足して、手を洗いながら鏡で歯をチェックする。


大丈夫、海苔はついていない。


一応口を漱いで出て行くと、ダルそうに立っていた奴は一言、


「遅い」


と言って、あたしを抱き寄せた。


「ちょっと、ここ廊下だよ?!誰かが通るかも知れないじゃん!!!」


「時間がねえ」


奴はそう呟くと、あたしに口付けた。


いつもの龍太の匂いに僅かに混じる汗の匂い、そして優しくて深いキスに胸が苦しくなった。


やっと、奴があたしを離す。


「どうした?」


「え?」


「俺のキスで濡れちゃった?」


あたしの顔がボンと音を立てて赤くなる。


「この糞馬鹿エロ龍太ー!!!!!!」


確かにエッチな気分になってしまった。


でも、奴に気付かれちゃうなんて、ものすっごく恥ずかしい。


龍太は立ち止まってるあたしに振り向いて、無言で手を差し出してくる。


手を繋いで教室に戻った。


扉の前で奴を見上げて言った。


「頑張ってね」


「ああ」


「試合、凄く格好良かったよ」


扉を開ける前に触れるだけのキスをされた。


「あっ、そうだ。忘れてた」


バッグから手帳を出し、メモを一枚破る。


「ここに名前書いて」


「あ?」


「あんたの名前、書いて」


「何で?」


「どうしても。時間ないんだから、早く書きなよ」


ひらがなで「りゅーた」と書きやがった。


教室の扉を開くと、案の定、皆にからかわれてる。


「おっかえりー!!」


「15分なんてとっくに過ぎてるぞー!!!」


「トイレで彼女と何してきたのかなー?!」


「黒澤、試合に集中できるのかよ?!!」


馬鹿龍太。


でも、体育館に戻りながら、頬が緩んでしまうのを止められない。




朝の席に戻ると、宮田さん達がちゃんと食べれたと心配してくれた。


龍太のサインが欲しいと言っていた若林さんに「りゅーた」と書いてある紙切れを渡す。


「サイン慣れていないそうです」


「えー、本当にもらって来てくれたの?ありがとう」


と言われてしまった。


宮田さん達に見せて、可愛いとか言われてるよ。


後で龍太にあれサインだったって言ったら怒るだろうな。


午後の団体戦が始まった。


あたしは午前中だけで疲れちゃって、龍太が出てる試合だけちゃんと観た。


龍太はやっぱり強くて、格好良くて。


宮田さんが龍太は大将だって教えてくれた。


何だかよく分かんないけど、大将は勝ちに行くんだって。


将棋かよ。


そして、うちの高校は決勝戦で負け、2位になった。


つまり、団体でもインターハイ行けるんだって。


流石うちの剣道部。


その後、何かセレモニーがあったみたいだけど、一日の応援で疲れきってしまったあたしは家に帰った。

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