6月16日(水)
6月16日(水)
龍太に会う度に色々質問してやることにした。
龍太のことをもっと知りたい。
彼女なのに、あたしはあいつのことを知らなさすぎる。
そして、あたしのことも話す。
あたしのことも、もっと知って欲しい。
「ねえ。龍太って料理できる?」
「……」
「そんなに嫌そうな顔するってことは、できないのね」
「ちっとはできる」
「えー!!!本当?!!」
「何だよ、その反応。俺が料理しちゃ可笑しいかよ?」
「うん、何かイメージが違うっていうか」
「……」
「得意な料理って何?」
「……」
「教えてくれたっていいでしょ!ああ、何だ、本当は料理できないんだ」
「…ハンバーグ」
「へえ。じゃあさ、今度作ってよ」
「……」
「ねえ。龍太って兄弟いるの?」
「…ああ」
「えっ、いるの?何人?女?男?上それとも下?」
「うるせえな」
「…だって、知りたいんだもん」
「…中3の弟がいる」
「ふーん。龍太に似てるの?」
「いや」
「会ってみたいな」
「……」
「あたしは妹がいる。小学校6年生で香代っていうの。姉が言うのもなんだけど、結構可愛いよ。生意気だけど」
「俺はガキには興味ねえぞ」
「ちょっと、睨まないでよ。そんな意味で言ったんじゃないから」
「……」
「ねえ。龍太って剣道の他に何ができるの?」
「何って何だよ?」
「スポーツだよ」
「……」
「柔道とか、空手とか、合気道とか、ボクシングとか、カンフーとか…」
「できねえよ。何でそんなんばっかなんだよ」
「いや、イメージっていうか」
「……」
「じゃあ、泳げる?」
「…普通に泳げる」
「あ、あたしも普通に泳げる。龍太はクロールと平泳ぎどっちが好き?」
「…バタフライ」
「サーフィンは?」
「2、3回やったことある」
「あたしも試してみたことあるけど、一度もボードの上に立てなかった」
「鈍そうだもんな」
「スキーは?スノボは?アイススケートは?」
「水の次は雪かよ」
「いいから、答えてよ」
「何のアンケートだよ」
「あたしが龍太のことを知りたいの!!!」
「……」
龍太は、嫌々ながらもあたしの質問に答えてくれる。
こうして、毎日ちょっとずつ、龍太のことを知っていく。
でも、今日、あたしはタブーな質問があることに気付いてしまった。
「ねえ。龍太の初恋っていつ?」
「……」
直ぐに無表情に戻ったが、あたしの質問を聞いた時にビクッとした龍太。
「相手は誰?やっぱり、幼稚園の先生とか?あたしは幼稚園の頃、かかっていた小児科のお医者さんだったよ」
「もう黙れ」
これ以上聞いちゃ駄目だと思うのに口が止まらない。
「それって幼稚園の時、それとも小学校?」
「……」
「何よ、もしかして照れてんの?あんたから告って振られたとか?何か恥ずかしい思い出があるとか?」
「……」
もう何も答えてくれなかった。
怒鳴ってくれた方がよかった。
あたしは龍太の心の中は覗かしてもらえない。
あの時一瞬、龍太の目が悲しそうに見えたのは、気のせいだったのだろうか?
あたしは龍太の仮の彼女でしかない。
仮の彼女は赤の他人に限りなく近い。