ep.06 フルール様のご訪問
マリアナ神皇国王都 ケスラー伯爵領 辺境伯都市ラウル
*)お祭りと……新しい女の子モニカ
俺は伯爵婦人が釣れるとは考えもしていなかった。あのキツい顔の伯爵様だから奥様も同じく悪鬼じゃないのか? と思っていた訳だ。事実……苛烈な性格で魔術の達人だったか、でも俺に優しいのは少し解せない。
今日は村人の全部を集めてお祭り騒ぎを行う。農民の都合なんてこれっぽっちも考えていないぞ、全部が全部を俺様の思考でやり抜くだけだ。
銭湯を終日の無料開放としてやって、お昼のご飯を振る舞う。夕方からは酒宴も設けてやるからには、ジビエ料理の食肉調理に雄志を募って鹿の五頭を解体した。準備をするのも農民らに任せている。
「ご主人様、村の人たちはとても活気があっていいですね。」
「だな、俺が食い物を分けてやったから、随分と栄養状態も良くなったのだろう。」
酒宴を行おうとしてら大きな問題があった。
「どうしたリリー。」
「ルイさま、この村は禁酒されていたのでしょう。」
「禁止はないだろうが、酒の払い下げなんて無かった。それだけだろう?」
「えぇ、村に一つもジョッキが在りませんでした。」
「木皿だけかぁ~?」
「はい、これでは誰も飲めません。」
「この前に俺が寄付した酒樽は……?」
「銭湯の代金となって返ってきたようです、あの酒樽はご主人の思いやりだったねですよね。凄いな~。」
「いや、そうだねリリー。あは、アハハ……、」
俺が村にきた時に食い物と酒樽を寄付してやったが、酒樽は街に行って売っぱらいやがったのか。それはそれで許すしかない。
「アハハ……笑えね~冗談かよ。」
「ジョッキは私が用意しましたわ。ご機嫌よ~ルイさま!」
「うわ~突然に現れて驚くでは……驚きました。シャール様。」
俺の魔力探知の警報が鳴らなかったが、はて、魔法を解除した覚えもないが……?
「ごめんなさいルイさま。魔法は私が勝手にいじっています、もう私が飛んで来ても警報はなりませんわ。」
「な~んだ、それならそうだと仰って頂きませんとですね、寿命が縮む訳ですし……?」
「うふふ……やはり面白いお方ですわ。クスッ!」
「だったら風呂にお湯を張っておいたがよかったな。」
「あ、いえ、無くていいんですよ? お昼からはお母様が来ますので、それからで構いませんわ。」
「寧ろ遅くから準備しろってか。」
「はい。」
後ほど風呂場を覗けばここにシャール様が転移してきたと分かった。俺の魔力探知の警報は切られていたのではなくて、ただ音声の警報音を切られていただけと理解した。慌ただしい水が散った跡はジョッキを洗ったのだと理解できて、その意味は館では沢山のジョッキを洗えば逆に不審がられてしまうから。
……あ~ぁ~……あ~ぁ……と、魔法の言葉が頭に響いてきた。
「……チャポン……。ヒットしました、こん後からはシャール様が転移されても音はなりません。」
「どうしてだ。」
「はい、♡……されたから解除となりました。」
「あ?……あ~昨日のキスはやはりシャール様だったのか。」
「……そういう事です。」
「だったら風呂場に舞い降りていたのはどうしてだ?」
「恐らく……そういう事です。」
「あ~着替えでもしたのか。」
「……そういう事です。」
俺の脳内の人は少しずつだが知恵が付いてきたように思えた。それだけ俺の魔法が上達してきた訳か。
「……そういう事です。決して私が悪いのではありません。」
「理解したした、できたよ。これならばシャール様の部屋を用意しなくてはならないが、お前、シャール様に手なずけられたのか?」
「そういう事です。……懐柔済み……です。」
「ご主人様、お呼びですか?」
「あ、そうだねリリー。飛び散った水の清掃を誰かに頼んでくれ。リリーは引き続き手伝いを頼むよ。」
「はい、承知しました。」
リリーは会場に戻るとキョロキョロして相応しい女の子を探した。別名が壁の花みたいな女の子を見つけ出して仕事を押しつけた。ここで壁の花とは、自分が何をしていいのかが分からないドジっ子と言う意味だろう。貴族のパーティー会場みたく同じな訳か、リリーはパーティーにも慣れているのか?
ドジっ子の前に転移してきた三人に驚いて腰を抜かす。また、大きな悲鳴を上げてもいたが?
「キャー~~~、」
……ドテリ……。
「あらあら……この子があの男の嫁なのかしら?」
「コレは違います。メイドではありませんわ。……あんた驚かせたわね。立てる?」
「は、はい。申し訳ありません。失礼いたしました。」
「急に出て来たこちらが悪いわよ、だから怒ったりしないわ。でもね、」
「はい?」
「何時まででも引きつった顔は直しなさい。それとお湯も張っておきなさいよね。」
「……はい~~~承知しました~お屋形様。」
優しそうなシャール様も農民の前では威厳を見せるのだろうか、それとも後天的に染み付いた癖なのか。
「命拾いを出来て良かったわ……しっかりと掃除をなさい。」
「ヒェ~……はい、が、頑張ります!」
この女の子は恐怖に駆られて掃除とお湯張りに専念していて、お昼ご飯なんて頭に浮かんでこなかった程にだ。お陰でズボラなリリーのやり残しておいた汚れが綺麗になった。
元々は農家なのは仕方が無いとしても、この家は魔法を使って魔改造を施している。所謂現代風に改造しておいた。張りぼて改造でも綺麗に見えていたらそれだけで充分なんだぞ。
この女の子は男も怖いと言い出すから農婦にはなれない、ならばとリリーが俺に進言してくる。
「ルイさま、この女の子は村では使い物になりません。子作は疎か農作業も出来ません。如何いたしましょうか。」
「ヒェ~……はい、今後は頑張ります!」
「リリー?」
「いえ、とても私の下でも使えないと思いますが、奴隷商に戻しますか?」
「お前が教えてやれ、使えるみたいだぞ。」
「あ、ありがとうございます。奴隷に戻されないのですから……頑張ります。」
「よろしいので?」
「あぁ置いておけ。長老には言っておく。」
「はい、よろしくお願いします。」
この子は出来ないのではない、ただやり方が分からないだけだった。リリーが教えた事は何でも熟したし、台所でも飲酒が出来たそうだが?……リリーよ全部を教えるなかれ。時期にリリーの裁量を超えてしまった。
名前はモニカと言い可愛らしい十五歳だ。
さてさて今日は貴人を迎える事となって大変な一日となる訳だ。
*)フルール様のご訪問
「お前、ルイと言うのか。話しがある。」
「はい……?」
「お前には心当たりはないだろうが、私には大事なんだ。そう顔を顰めるな。」
「はい、」
今から楽しいお祭りだとういうのに、これでは気分がモチベーションが下がって行く~。
「ルイ、お前の仕事はなんだ?」
「はい、泥棒にペテン師に銭湯に……はて?」
「そういう事だ、定職を見つけろ。」
「実入りがないので言えないのでしょうが、この村の経営ですね。今は投資に傾注させてもいますが、考えていますよ……それは未来の収穫に心を躍らせています。」
「ハッハッハ~……これは愉快だ。収入が無ければ無職と言うのか。なるほどよの~。」
「ま、未来は領地経営ですね。戦争で溢れた農民らを集めて一稼ぎを目論む……詐欺師でしょうか?」
「それでこの村は何時になれば潤うのだ?」
「未来永劫……潤う事はありません。」
「おや、不思議な事を言うが、はて?」
「私が領主ではないからです。沢山の食料を増産した処で徴発……蒸発する未来しか見えておりません。」
「ハハハハ……なるほどアハハ……言えているわ。アハハ……、」
「お母様! はしたないですよ。」
「いや実に笑えるではないか、シャルロットよ。」
「笑えません!……フン!」
「次の戦いまではご支援は致しましょうが、出来れば死なれて欲しいと考えております。」
「ルイ、お前を徴発する方が早いな、軍旗に入らぬか?」
「旗持ち……太鼓持ち……私には無理でございましょう。味方を後から襲うような人間でございます。」
「お~こわ。そうか、ならばこの村はお前に授けよう、好きに使うといい。だが、収穫物は一番に売ってくれるように頼みたい。」
「はい……喜んで。今年は地ならしで終わりますが、来春からは……しかと。」
「どれ、ルイの自慢の風呂に入りたい。」
「喜んで。ですがお湯の持ち逃げはご遠慮下さい。私が入れなくて困ります。」
「アハハハ……、シャルロットよ。」
「んも~もう持ち帰りは致しませんわ。」
「もう一つお願いがありまして、北側の森の開墾をお許しいただければ幸いでございます。」
「良かろう、許すから禿げ山にするが良い。」
「はい、ありがとうございます。」
「ルイ、お前は不世出だ。シャルロットを貰ってくれぬか。」
「勿論でございます。ご支援も致しましょう。」
「シャルロットよ。」
「はい、お母様。」
交渉は成立し俺の自由に出来る村と山林を手に入れる事が出来た。これならば明日からでも農地改革が行える。
群雄割拠の乱世のマリアナ神皇国で王侯貴族が生き残る術は……より強い男を見つけて嫁になる事だと、後々になってフルール様から教えて貰った。俺はそんな男の中でも有望株と見られていた。誰に? シャール様にだ。
今日は覚えめでたくフルール様のお眼鏡にかなった訳だ。……シャルロットの婿にしたいと。
不世出とは、この世に滅多に出てこないくらいの優れた人材と言う意味だ。この世ならざる者……最高の評価を得た泥棒さんが出来上がる。今後の泥棒稼業はよその地で行え、と言うことか。
「王都に転移門を築きあげないといけなくなったか。」
フルール様は急転直下で街や館から職人と技術者に労働者を寄越してきて、俺の家ではない娘の館を造り始めるのだった。
「お前は下男として入居を許そう、シャルロットを守って欲しい。」
「はい、お任せ下さい。」
シャルロット様の館が出来て直ぐに王都から戦の支援要請が入った。ハリー・ケスラー伯爵は戻らぬ人となり、翌年にはここ衛星都市ラウルが攻められる事へとなった。
もう農業云々とのんびりと暮らせない日々へと変わっていく。伯爵婦人のフルール様は亭主が死んでも澄まして領地経営を行っていたのは……どうしてだ?
「行き先変更にバスを乗り換えただけだわ。」
言い替えると役に立たない亭主は見捨てましたわ、これだな。新しい獲物は俺だと暗に仄めかすからな~、どっちの女の婿にされるのかが気になるわ~。
この大陸で農民は虐げられている。貴族には理解不能、町民にも理解不能なのは察しが付くも、毎日を必死になって生き抜く根性は素晴らしいと思う。感心さえしてしまった。
作物を大事にして育て上げ、自分が喰らうものは作物の葉が朽ちる前を採取して煮込んで食べている。筋だけで喰えないと思うも食べているのだった。貧弱ではいけない、人は生きていくにも貧弱ではいけない、そう考える。
俺は……人々が逞しく生きていける村を造ってやるぞ。
村の魔改造を始める。