バンドリ~雪山ドリーム~
なろうラジオ大賞用小説第十二弾!
『ここから、はよ逃げぇ』
夢の中でそう言われ、目が覚めた。
と同時に、夢の中で誰がそう言ったかすぐ思い出し「嘘でしょ」思わず呟く。
私の名はユキ。
獣人国王家に仕える霊媒師の猫獣人。
そんな私は、最近国内に流通し始めた謎の呪具――使用者に死をもたらす装備の出処の調査のため、隣国の人間の国との国境にある雪山までやってきていた。
運良く売人を見た獣人の目撃者によると、この辺に売人がいるらしい。
しかし途中から。
失せモノ探しの術も使ってるのに。
売人を見つけられなかった。
捜索を妨害する魔術が周囲にかかってるのか。
だが私は諦めず。
捜索を続け、過疎化が進んだ人間の村を発見。
国境線があやふやな地域だ。
だから人間がいてもおかしくないが……どうも怪しいので、私は周囲に気を配りながらその村の、とある家に住むお婆さんに「道に迷った」と嘘を吐き一晩世話になり……そして夢の中で先ほどの台詞を聞いた。
何度思い返しても身震いする。
あの声や喋り方。
私の同僚で、半月前に里帰りのため休暇を取った鼯鼠獣人のリキではないか。
そして夢の中でその声を出したのは。
この家の居間に掛けられてるバンドリだった。
まさか、この家は売人の家で。
そしてリキは売人によって呪具に……バンドリにされてしまったのか。
「ば、売人はッ?」
私はすぐに、売人の様子を窺うべく。
音を立てずにゆっくりと部屋を抜け出し売人を捜し……リキが掛けられてる居間に売人が!
「ヒッヒッヒッ。今度の獲物は三味線の皮にしようねぇ」
ッ!?
売人の独り言で思い出す。
確か人間の国には三味線という楽器があり猫の皮はそれに使うと……許せんが、その前に脱出だ。無論、リキ共々な!
「御免!」
私はドアを蹴破りそのままドアを売人に当て気絶させ。
リキであったバンドリを掴むとそのまま家を飛び出した。
※
「リキ……絶対元に戻すからな!」
私はリキを掴んだまま、夜の雪山を下る。
だがどうした事だろう。途中から、力が……入らない。
馬鹿な。
まさか、使用どころか……触れているだけで、呪具は効果を発揮するのか。
だが、獣人の村まであとちょっと。
あともう少し、歩き続ければ私達は――。
「さぁお食べ」
次に目覚めた時。
私の目の焦点は定まってなかった。
でも、温かくて。
居心地が良くて。
何が周りにあるかなんて気にならなくて。
「お食べ」
だからこそ、どこかで聞いたその声に素直に従い。
苦い丸薬を飲み。
体が熱くなり始めて――私は皮だけになった。
中国妖怪『チー』が作った妖怪を反物に変える丸薬みたいなイメージです。