妄想の帝国 その91 秘密計画I国再建 東方に新たなる国家建設を
矛盾した条約やら協定やらの上に成立したI国は、周辺と諍いは絶えず、地域住民を追い出し、泥沼の戦争状態。最悪の未来を回避しようと、新規出直しの先に選んだのは、アホが支配する東の島の西の地域だった…
西方の某I国。建国当時から矛盾した条約だの協定だのがてんこもりで、さらに周辺諸国に受け入れられず、しかも無茶な入植を続けたおかげで、何度も戦闘、戦争状態。しかも平和的解決を望む隣国の組織より、過激化テロ組織が育った方が、遠慮なく戦えると内心考えたらしい極右の首相だの閣僚だのが政府を牛耳ったおかげで、血気盛んというか、穏やかな暮らしだの共存だの望みも薄くなっている。さらに仕掛けたんだか、仕掛けられたんだが、わからない争いをきっかけに泥沼状態。ついに相手のテリトリーにいるのは子供だろうが、国境なき医師団だろうが、国連職員だろうが皆敵対勢力扱い。さすがに、国民もSNS他の情報により政府公認歴史のデタラメぶり、政府の非道ぶりに停戦、闘争終結をインターネットで訴えるようになった。
一時的停戦合意はなされたものの、政府は相手組織せん滅を宣言、そんなことできるわけないだろう、ちょっと考えたらわかるよねえ、実際は首相他の汚職。政策失敗の矛先を相手にむけてるだけじゃなーいと思った国民も多数いたものの、戦時下で統制の効きすぎたなかでは全く届かず。
真っ当なI国民たちはお先真っ暗の泥沼状態を憂いていた。
「ああ、ようやく悲願のY民族の国を建国したというのに、しょっぱなからケチのつきどおしだ」
「やっぱり、P民族がいるところに、しかもY民族とともに比較的穏やかに暮らしていたところに無理に国をつくったのがまずいのでは。せめて金で土地を買い上げるとか、Y民族の大財閥ならそんな金ぐらい出せるのに」
「このままでは永遠に争いは続く。相手を完全に滅ぼすことなどできるわけはわかっているのに」
「そのうえ、わがY民族を殲滅させようとしたあの集団と同レベルに成り下がったと思われているのだ、我々は。Y民族を消滅させようとしたのは正しかったとか恐ろしいことを言い出すものまででている」
「他の国のY民族たち、宗教指導者たちでさえ今の我が国、政府を非難しているというのに、政府は突き進む気だ、いったいどうしたら」
悩む彼らに、一人の若い男性が声をかけた。
「大丈夫、このようなこともあろうかと手を打っておきました。新たな土地に再生するのです。カナンの地、もともとの我々の発祥の地にこだわりすぎたのがよくなかった、国を新たに作り直すべき地はあります、東方に」
一同、驚いて尋ねる。
「おお、君はかの有名なR財閥の後継者のノンバリ君か。確かにこの地にこだわる必要はないが、一体どこに建国しようというのだ。地球上で人が全くいない地など無いに等しい」
「あったとしても極地で、とても何十万という人口を支えられるところなどない」
彼らの心配などなんでもないようにノンバリは断言した。
「いいえ、あります。温暖で住みやすくインフラも整備された土地が。C国の東の島国が」
I国の住人達は驚愕した。
「ええ!まさか、あ、あの国か、あそこには1億の人間が」
「た、確かにすでにインフラも完璧。何は米国基地の乱立と何重もの原発ぐらいだが、一応先進国の一つ」
不安がる人々に対しノンバリは
「ええ、確かに多くの人がいますが…。なんの問題もありません。ご説明しましょう。わがR財閥はすでに土地をいくつか、手に入れております。さらに長い年月をかけてあの市マグの民を愚かにしています。彼らはメディアに洗脳され、思考力をなくすようになっています。周囲にしたがい、低俗な娯楽で満足するように、政治的関心を失い、批判するどころか、腐った政府を擁護する阿呆も多くなりました。政府が国土を実質売り渡そうとも、政府の曖昧模糊とした言い訳を国民の大半が信じて従うでしょう」
「た、確かに民主主義政府を主人と勘違いしている言動をSNSで発信している自称識者なども少なくないという。だが、なかには鋭い指摘をする人間や民主主義を機能させようと奮闘するものもいるだろう」
「そうですね。だが、彼らの絶対数はいまだ少ない。そして政党の名をかりた無法者が蔓延し、その無法者に大半の住民が付き従おうとしている地域もあるのです。頭の良い人よりも声が大きいだけのアホを自称する者たちを重視し、批判的で鋭い言葉より、威勢のいいだけの中身も論理もない与太話を信じ込む市がある地域。かの島国で西といわれる、あの国際博覧会を強行しようと無駄なあがきをしているあの地域」
彼の指す地域に思い当たるところがあったのか、何人かが口を開いた。
「ああ、この工期そしてかの国の現在の職人の数では、とうてい建設できないような建物を無理に作ろうとしている、開催前から破綻している博覧会をなんとかやろうとしているアノ地域か」
「あの地域も昔は政治的批判もさかんだったが、とある政党が牛耳るようになってからおかしくなったと聞いている。今回の博覧会強行もその政党の利権がらみのゴリ押しとか。そのせいであの地域の借金は天井知らずになる…ハッ!もしや、その借金を」
I国の大人たちの言葉に、ノンバリはニヤリとしてうなずく。
「そうです、我らR財閥はひそかに彼らに対し借金の肩代わりをする契約を結ぶ準備をしております。通貨安なので実質かなりお得な買い物になりそうです」
「し、しかし、あの地域がいくら身売りするといっても、土地が不足…」
島国でしかもその島国の一地域の面積に懸念があがるが
「ご安心を。いずれ、土地をひろげるつもりです。現在のI国の入植よりもスムーズにいくでしょう。なにしろ厚顔無恥で愚かなのはあの連中だけではなく、あの国の政府もですから。すでに国債は膨らみ、さらに無駄な防衛費につぎこもうとしていますので」
「だが、借金のかたに国土を売るなど、そんな馬鹿では…」
「いいえ、このからくりを見抜けるような知者はすでにあの政府には存在しません。それに我々はまずあの西地域からの建国を考えております。それを徐々にひろげるのです」
自信ありげなノンバリに対し、さらに質問があがる。
「あの地域ぐらいなら購入可能だろうが、しかし地域住民はどうなる、あの地域はあの国有数の人口密度の高い地域といわれている」
その質問に、ノンバリは首を振って
「今の首長と前の首長の無策のおかげで人口はだいぶ減っています。しかも増える見込みがほとんどない。なにしろ女性や若者を実質虐げていますから、子供が増えそうにない。あの政党の設立者はいまだに若い女性を特に冷遇しています、ああいった支離滅裂な主張をあちこちに喚き散らすような輩がなぜ人気があるのかはわかりませんが。テレビなどのメディアへの露出の高さが親近感に比例する効果とはいえ、酷いものですよ、あんな輩が蔓延るとは。あの政党の首長のせいで新型肺炎ウイルス対策も大失敗して最大の死者数を記録し医療も崩壊しかけているというのにね。」
「確かに人口は減少しているだろうが、まだ住民はいる。我らの建国、いわば支配に抵抗するのでは」
さらなる懸念を払しょくするようにノンバリは答える。
「その点も心配いりません。無知、無能、無策のトップ連中や経済界にさすがに憤りつつありますので彼らを倒し、今よりもほんの少しマシな暮らしを住民たちに与えるのです。さらにマスメディアを買収し我々に好意的な報道を行えば十分でしょう。今までの娯楽を禁止せず、さらに何も考えないような娯楽を増やせばなおいい。どんどん馬鹿になり何も考えず主人に従う民も増える。そして、そんな彼らを我々が使えばいいのです、双方が幸せに暮らせますよ」
「安価で真面目で優秀な働き手を使いこなし、我々は安楽に暮らせる、か。しかし彼らは異民族の支配をうけいれるのかね」
ノンバリは笑って答えた。
「それはもう。同じアジア系民族のC国よりも、コーカソイド、いわゆる白人系民族の支配は喜んで受けるでしょう。同民族より白人をあがめる国ですよ、実質米国の属国ですし。カジノ誘致をちらつかせたのも、そのための布石です。借金まみれになり無策の行政に苦しむあの地域の住民を、ろくでもないマフィアのような政党の首長らから救うホワイトホースになるのですよ、我々は」
自信ありげに答えるノンバリ。彼につられ、懐疑的だった人たちも徐々に同意しだした。
「そう上手くいくかな。しかし、この泥沼状態を続けるよりはマシか。あくまでも一つの案として、実行に移すということでならよいかもしれない」
「すでにI国は国際的な非難をあびている。相手テロ組織を壊滅などできようもない、やればやるほど恨みをかい、反対勢力は増えていく。そんな永続的な憎しみの応酬に区切りをつけ、新天地でやりなおすのもよいかもしれない」
「I国建国は長年の悲願だったとはいえ、このような悲惨な事態なら考え直し、もっと支配しやすい、もとい、友好的に受け入れられそうな地域に行くのも一つの手だといえるな。では、さっそく、そのプランで進めてもらえるかな」
ノンバリは嬉しそうに
「はい、すでに皆さんの受け入れ準備は進んでいます。国際博覧会会場と称して皆さん方一族の住居などを建設する手はずは整えています。金融市場など主要産業の拠点を移すため、あの地域の経済界の弱体化はほぼ完了。関連会社含め円滑に運営できる人材はあの地域にはほぼおらず、我々の関係者が食い込んでおります。博覧会開催予定日と同時に建国ができるよう着々と」
「あと2年か、無理とは思うが、もっと早められないのだろうか」
その質問に、ノンバリは少し黙っていたが、すぐに答えた。
「ええ、早められると思います。なにしろ、あの地域、オーサカの首長がさらに無茶というか無謀な木造リングとやらを建てようとしていますので。さらに建設費が膨らみ財政破綻するのも時間の問題、そのタイミングを少しだけはやめればいいだけです。我々の関係者の働きかけがあれば首長ヨシイダ氏や設立者ハシゲン氏らは考えもなしにまだ無駄な建物を建てたがる。自らの破滅を導くとはつゆほども考えず、その場限りの大風呂敷を広げて威張りたがる輩ですからねえ」
肥大したプライドに振り回されたあげく自滅する厚顔無恥な首長らの姿を思い浮かべ、ノンバリはおかしそうに笑っていた。
どこぞの国では苦しむ市民を尻目に、一地域のトンデモ首長とその一派が強行しよとする博覧会に税金を湯水のように使っているようですが、確かに頭の良い方にとってかわられても仕方ないかも知れませんねえ。知力、知識、文化などを軽視しまくった挙句の末路を世界中に発信してア〇博覧会開催になりそうですが。