魔物討伐実習
アンジェラと仲良くなったのは良かったのですが……問題は一切解決してませんでした(笑)
アンジェラのおかげで知り合いも出来、私の法術士見習いとしての生活は順調なスタートを切ったのだが……
(はあぁ……怖い目に遭うのかな)
次の日の朝、私は集合場所でため息をついた。
(ループのおかげで大分色んなことには慣れたけど、魔物と戦う羽目になるなんて……)
一回目のループでは魔女として処刑、二回目のループでは商人として行商中に山賊に襲われて死亡、三回目は……
(何か気分がさらに滅入ってきた)
つまり、今までにそれなりに修羅場はくぐって来たのだが、魔物と戦ったことはなかったのだ。
(というか、そんなことはめったに起きないはずなんだけど)
魔物はマナの暴走で生まれた異形の生物で、その凶暴性、生命力、戦闘力は他の生物とは比較にならない危険な存在。戦うとなれば、生まれ持った能力に加えて特別な訓練が必要で、それこそ代々続く騎士の家に生まれたりしなければ有りえないことだ。
(襲われる危険はどんな生活をしてても大なり小なりあるんだけど、戦うって言うのはまた話が別だし……)
正直ちゃんとやれる気がしない。いや、むしろ魔物を見たら足が竦んで何も出来ないかも。
“シエンナなら大丈夫デシ! 今までの聖女の中でもずば抜けて肝が座ってるデシ!”
褒めてくれてるのは分かるんだけど……何だかあまり嬉しくないな。
「浮かない顔をしてるね、イザベラ」
そんな私に声をかけてきたのは……
「レ、レオナルド様!?」
目の前には一日ぶりに会うレオナルド様が!
「元気がないね……どうしたのかな?」
「あっ……いえ」
優しいレオナルド様の眼差しに全てを見透かされそうな気がして思わず視線を逸らす。
(嫌なわけじゃない。むしろ……)
これ以上心に入ってこられたらやばい気がするんですよ、レオナルド様!
「もしかして魔物との戦いに緊張してる?」
「えっ……あのっ」
そんな優しい声で囁かれたら、私……
「イザベラはそんな玉じゃないよな!」
突然、冷水をかけられるような言葉に甘ったるくくすぐったいような雰囲気が霧散する。な、なんなの一体!?
「……ハロルド皇子」
いつの間にかハロルド皇子がそこにいる……っていうか何故ここに?
「これから魔物を討伐しにいくのに女を口説いてる場合かよ」
「………っ! 馬鹿を言うな! 俺はイザベラ嬢の緊張を和らげようと──」
「ならお前は常時女を口説いてることになるな。気をつけた方が良いぞ、イザベラ!」
そう言うと、ハロルド皇子は私の肩をぞんざいに叩いた。まるで平民みたいに。
(この感じだと私を貴族だとは思ってないみたいね)
それは身元が知られたくない私としては好都合。だけど、一国の皇子には相応しくない。それこそ平民のような振る舞いだ。
(今までのループでも変わった方だという話は聞いていたけど……)
噂には、皇子でありながら身分の貴賤を問わずに対等に付き合うなどという与太話としか思えないようなものさえあったが、案外真実なのかも知れない。
「ハリー、お前は……」
いつも優しく大人の余裕に満ちた笑みを浮かべているレオナルド様が子供みたいな表情を浮かべる。
(……何か可愛い)
立派な騎士様にこんな思いを抱くのは申し訳ない気がするのだけど。
「おい、イザベラ。何笑ってるんだ。趣味悪いぞ」
「わ、笑ってなんか!」
な、なんてこと言うの!
「大丈夫だ、イザベラ。殿下は気に入った人間はこうやってからかうんだ。真に受けたりしない方がいい」
ホッ……
レオナルド様に誤解されなかったのは良かったが、皇子の一言で私のキュンキュンした気持ちは一瞬で吹き飛んだ。
(前言撤回ね。“変わった皇子”ではなく“変な皇子”よ、この方は!)
私が秘かに評価を下方修正したことは気付かず──いや、気づいたとしても同じだったかも知れないが──、ハロルド皇子は私達に羊皮紙の束を渡した。
「時間もないし、ちゃっちゃと始めるぞ。今回の魔物討伐実習の概要を説明する」
まさか仮にも皇子がこんなことを!? 真実が明かされる次話は明日の夕方6時に投稿します!
……あと、厚かましくはありますが、筆者のモチベに直結するポイントやブクマ等もお願い出来れば大変大変大変嬉しいです。