紅蓮
急に絡んできた相手は……
「この私を差し置いて魔物討伐実習だなんてフザけた真似を……」
真っ赤なドレスに金髪を巻いた気のつよそうな女の子は私の前に立ちはだかる。誰だろう……
「そうよ! 学院No.1のアンジェラ様を差し置いて討伐実習だなんて!」
「ハロルド皇子のお気に入りだか何だか知らないけど、身の程を知りなさい!」
赤いドレスの女の子の両隣にいる女の子達が口々にまくしたてるけど……なんか誤解してるみたいね。
(私の代わりにこの子に実習に行って貰えないかな)
私は行きたくないし、その方が合理的なんじゃ……
「まあ、いいわ。なら、実習に行くのに相応しいのは私だってことを分からせてあげる」
「えっと……」
どう言えば“むしろ実習を代わって欲しい”ってことが伝わるかな……
「ついてきなさい!」
アンジェラは訓練場の方を指さす。はああ……お昼はお預けかぁ。
“お腹空いたデシ”
(ごめんね……)
そんなやりとりをしながら歩くと……
「着いたわね。じゃあ……」
ザッザッザッ!
訓練場につくとアンジェラは七〜八メートルくらい離れ、ビシッと私に指を突きつけた。
「私を魔法で攻撃しなさい! 全部防いであげるから!」
そういう勝負か。思ったよりもマシなルールなのね。
(でも、ケガをさせたらマズいわ……)
この子の防壁魔法がどのくらいの力があるのかはわからないけど、無詠唱の【ウインド】でもかなりの威力だったしな……
(まだ威力を調整する自信はないし……)
なら、こうするしかないか。
「私、攻撃魔法はあまり得意じゃないの。良ければ貴方が私に攻撃してくれない?」
よし! これなら怪我はさせないで済む!
「……へぇぇぇ、言うじゃない」
「え?」
何で怒ってるの!?
「なんて身の程知らずなの!? 『紅蓮』の二つ名を持つアンジェラ様に攻撃してこいだなんて!」
「保護魔法があってもただじゃ済まないわよ」
保護魔法?
“魔法の訓練をするときによく使われる魔法デシ。ここにも保護魔法を発動するための魔道具があるデシ"
そんな便利な物が……なら私の心配は無駄だったってことか。
「分かったわ。それでやりましょう」
“待って!”とか言える雰囲気じゃない。アンジェラは魔道具を操作すると、合図だと言ってコインを投げる。
ピンッ!…………カン!
コインが地面に当たる微かな音と共にアンジェラは詠唱をはじめた。
「“炎よ、燃え上がれ! 【ファイヤーボール】!”」
うわっ……早っ! しかも詠唱を省略してるし!
(サザーランド学院とはレベルがちがう……)
当たり前と言えば当たり前なんだけど……
“こっちも詠唱デシ!”
そうだ! いけないいけない。
「“水の加護よ、来たれ! 【アクアベール】!”」
水色の輝きが私を包み込む。そして……
シュンッ!
その輝きはアンジェラのファイヤーボールを軽々と飲み込んだ!
「なかなかやるじゃない」
「貴方こそ」
これはお世辞じゃない。淀みない詠唱、そして略式詠唱。どれもこれも並の努力で出来ることじゃない。
「でも、まだ全力じゃないわよ!」
「!!!」
まだ来るっ……!
「“炎よ、燃え上がり、彼の者を穿つ矛となれ! 【フレイムランス】!”」
なっ……これはまさか!
“火属性の中級魔法デシ!”
先程とは比べ物にならない量と質のマナが鋭い槍となって飛んでくる。それは私の周りの水色の輝きに突き刺──
突き刺さらない! 炎の槍はゆっくりと水色の輝きに飲み込まれていき……
シュンッ!
水色の輝きは炎の槍と共に消えた。
(【アクアベール】が相殺されたのかしら)
が、すぐにシロちゃんの念話が。
“持続時間が切れただけデシ。聖女専用の魔法、【アクアベール】は上級以上の魔法でないと貫けないデシ”
あ、そう。
「アンジェラ様の最強魔法と相殺……そんなこと」
「こんなことって……」
アンジェラの取り巻きの子達が愕然とした声を上げる。まあ、そうだろう。私もびっくりしているし。
「……どうやら私は貴方を誤解していたみたいね」
そう言うと、アンジェラは私に軽く頭を下げた。。
「失礼をお詫びさせてちょうだい。貴方は実習に参加するのに相応しい力を持ってるわ」
「貴方こそ、凄い魔力だわ」
まさか中級魔法まで使う人がいたなんて……
(そりゃ、何で入ったばかりの新人が行くんだって話になるわよね)
私がアンジェラの立場ならそう思う。ループ前の私なら特に。
「もし良かったら私とお友達にならない? 魔法院のこと色々教えて差し上げるわ」
「喜んで。これからよろしくお願いしますわ、アンジェラさん」
良かった……最初はどうなるかと思ったけど何とかなりそうね。
雨降って地固まる……?
次話は明日の夕方6時に投稿します!
……あと、厚かましくはありますが、筆者のモチベに直結するポイントやブクマ等もお願い出来れば大変大変大変嬉しいです。