ハロルド皇子
瞳と髪の色を変えることで何とか誤魔化せそう……? しかし、突然現れた乱入者は一体……
〈イザベラ(シエンナ)視点〉
久しぶりにかけられたお世辞は嬉しかったけど、何だか決まりが悪かった。ループのおかげで貴族としてちやほやされていた時間よりも平民に混ざって暮らしている時間の方がはるかに長いので、お世辞に対する耐性がなくなってしまったらしい。
(ダメダメ! 落ち着け、私!)
そんな私を救うかのように見せてさり気なく褒めてくるレオナルド様はもう……ずるい。けど、私の抱える事情についてお尋ねになったことで私は冷静になれた。
(どこまで話したら……)
レオナルド様は善意で支援を提案して下さっているのだろう。でも、それとこれとはまた別だ。
(ルグニア王国の騎士団長と私の家、キャベンディッシュ家は直接は繋がっていないけど、私の正体がバレる可能性はある)
懸念材料はまだある。レオナルド様がカッコよくて優しいことだ。一緒にいれば好きになってしまう可能性がある! というか、既に少し惹かれてしまっている。しかも、進行形で!
(ダメダメ! 恋したらループしちゃう!)
そんな葛藤は突然蹴破るように開けられたドアの音で突如吹き飛んでしまった。
「よしっ! 君は今日から魔法院の術士見習いだ!」
(え? 魔法院の法術士!?)
突然部屋に入ってきたこの人は確か……
「……ノックくらいしてくれといつも言ってるだろ」
「何だ、いつもしてないじゃないか」
「今日はいつもと違い客人がいるんだが」
「確かに。お前が女性と話しているのは珍しいな。もしかして初めて見るかもな」
「……うるさい」
突然入ってきた紅い髪と瞳の男性はレオナルド様の知り合いらしい。しかも、かなり親しいような。
「驚かせて申し訳なかったね、イザベラ」
「いえ……」
私が一番驚いてるのはレオナルド様が紅髪の男性に向けている態度と発言だけど。優しいレオナルド様でもこんな乱暴なやりとりをなさるのね。
「こいつ……いや、この方はハロルド皇太子だ」
「えっ……」
「驚くのも無理はない。実は私と殿下は幼なじみなんだ」
レオナルド様は“皇太子殿下がここにいる”ということに私が驚いていると思っておられるみたいだけど、実はそうじゃない。
(ハロルド皇太子ってあの……)
実はハロルド皇太子はこの後……
「皇太子って言っても継承権は二桁だ。普通の貴族と変わらないさ。それより二人のときはハリーと呼べと言っただろ、レオ!」
「バカ! イザベラがびっくりするだろ!」
「皇太子に向かってバカとは……不敬罪だぞ!」
「お前なあ……」
一見レオナルド様がやり込められているようにも見えるが、二人ともとても楽しそうだ。
(仲がいいんだな……)
あれ、何か忘れているような。
「……ハロルド皇子、一つお伺いしたいことが」
「何だ? あと敬語はいらんぞ」
無茶苦茶だな、この人は……
「先程、“魔法院の法術士見習い”とおっしゃいましたが……」
「言ったな。明日からだ。まあ、能力的には即法術士にしても良いと思うのだが、研修期間を設けるのがルールでな」
そう言うことを聞いてるのではないのだが……
「待て、ハリー! イザベラ嬢の意志を無視して勝手に決めるな!」
「法術士になれば生活の心配はない。見たところ行き場所がないようだから仕事を斡旋してやろうと言うのだ。何が悪い?」
まあ、悪いところだらけだけど……
(魔法院の法術士……悪くないかも)
魔法院とは、卓越した魔法使いを集め、様々な問題を解決する組織だ。表向きは身分に関係なく門戸を開いているが、実際は違う。
(だって、魔力を持っているのは基本に貴族だけだものね……)
魔力はいくつかの例外を除き遺伝でしか手に入らない。じゃあなんで“表向きは身分に関係なく門戸を開いている”等というややこしい態度を取っているかというと、没落した貴族や勘当された者のためなのだ。
(貴族としての位を失った者、家を追い出された者の中には高い魔力をもつ人もいる。そうした人材を逃さないため、か)
それを教えてくれたのは誰だっけ。えっと……まあ、ともかく。私のような立場の人間にとっては悪くない話だ。
「確かにありがたいお話ですが……」
正直ちょっと時間が欲しい。この数時間であまりに状況が変わりすぎてついていけなくなりつつある……
「よしっ! 決まりだ! じゃあ、宿舎へいくぞ!」
いや、だから待ってほしいんだってば!
次話は明日の夕方6時に投稿します!
……あと、厚かましくはありますが、筆者のモチベに直結するポイントやブクマ等もお願い出来れば大変大変大変嬉しいです。