髪と瞳
身元がバレることを恐れて変装! 上手くいくのか……
〈レオナルド視点〉
俺はノックするために伸ばした手を止め、深呼吸をした。
(ふぅ……落ち着け)
イザベラに会えるかと思うとどうしても胸の高鳴りを抑えられない。どうしたものか。
(最初は逸材を逃してはいけないという思いだけだったんだけどな……)
だが、いつの間にか心惹かれてしまっていた。それは圧倒的な魔法力を持ちながらもそれを鼻にかけない謙虚さのせいなのか、自分のことを顧みずに他人の心配をする献身さのせいなのか……
(おいおい、今からそんなことを考えてどうする! しっかりしろ、レオナルド!)
まあ、何にしろ自宅に招けたのは良かった。最初王城に連れていきたいと言ったのが良かったみたいだな。
(王城に行くよりは家の方が良いと思ってくれたみたいだが、何か不都合でもあるのか?)
いや、考え過ぎか。イザベラは平民だと言っていたし、王城と聞いて腰が引けてしまったとしてもおかしくはない。
(……だが、平民にしては身なりがいいし、作法も一通り身についてるんだよな)
イザベラの身につけていた衣類は飾りの少ない簡素なものだったが、品質はよさそうなものだ。
(まあ、女性の衣類に詳しいわけではないので確かなことは言えないが)
作法については貴族の家でメイド等をしていれば身につくが……まあ、そういう家は平民の中でもかなり裕福な家だから衣類もそれなりのものを身に着けていてもおかしくはないか。
「レオナルド様、どうかなさいましたか?」
っ!
振り向くと、そこには紅茶の用意をしたメイドのデイジーが!
(頼んでいたな、そういえば!)
デイジーは困惑した顔で俺を見てくるが……そりゃそうだ。俺はドアの前で立ち尽くしているのだからな。
「早かったな……開けよう」
デイジーはドアを開ける俺に首を傾げながら紅茶や茶菓子を載せたワゴンを部屋に運び込んだのだが……
「まあ、なんてきれいな御髪でしょう! まるで殿方の視線を全て吸い込んでしまいそうな黒色ですね!」
「そんな……ありふれた色です」
髪を褒め称えるデイジーにイザベラが困っているのだが……黒?
(確かイザベラの髪色は茶色っぽかったような……)
まあ、フードを被っていたからあまりはっきりと確認したわけではない。状況も状況だったし。
「それにエメラルドグリーンにも青にも見える瞳も美しいです!」
「あ、ありがとうございます。母の遺伝で……」
手放しで褒めるデイジーにイザベラは恥ずかしそうに小さくなる。まあ、面と向かってここまで褒められたらな……ってエメラルドグリーン?
(確か瞳は青っぽかったような……)
そっと顔を覗き込むと確かに髪は黒で瞳はエメラルドグリーン(しかも美しい)。だが、デイジーの言うように瞳は光の当たり方によっては青っぽくも見える。
(勘違い……か……?)
髪や瞳の色を変える方法なんて聞いたことがないし……大体下手をしたら死ぬところだったんだし、見間違えていてもおかしくはないか。
「デイジー、イザベラをあまり困らせてはいけないよ。でも、確かに髪も瞳も美しいね」
「……ありがとうございます」
褒められなれていないのか、イザベラは顔を赤くする。確かにこういうリアクションは平民っぽいな。
「ところで何故あんな危険な場所にいたんだい? 事情があるなら力になるよ」
正直、イザベラは何か特殊な事情を抱えていると思う。あの場所にいたこと、圧倒的な回復魔法、そしてこの容姿……正直普通の要素が全くない。
「それは……」
案の定、イザベラは口を濁した。まあ、当然だよな。
「いや、焦って済まなかった。しばらくゆっくりしていってくれ。もし、俺に出来ることがあったら言って欲──」
ダンッ!
突然ドアが勢いよく開け放たれる。やれやれ、もう聞きつけてきたのか……
「よしっ! 君は今日から魔法院の法術士見習いだ!」
紅い髪に紅い瞳。確認するまでもない。こんなことをするのはコイツ……いや、この方くらいだからな。
乱入者は一体何者?
次話は明日の夕方6時に投稿します!
……あと、厚かましくはありますが、筆者のモチベに直結するポイントやブクマ等もお願い出来れば大変大変大変嬉しいです。