ブラックグリズリー
謎の聖獣から聖女に必要な知識が伝授されるようですが……
「っ!……」
一度にもたらされた情報のせいでめまいを覚えてよろめく。が、何か柔らかいものが私を支えてくれたため、倒れることはなかった。
“ごめんなさいデシ。一度に送りすぎたデシ”
しゅんとして項垂れるワンちゃん。その表情がいじらしくて、彼を慰めるように頭を撫でる。よしよし、分かってくれたら良いんだからね。
(あれ、私と顔のある位置が変わらない……)
最初は子犬くらいのサイズだったのに。巨大化出来るのかしら、このワンちゃ──
(この子は聖獣。聖女を守り、助ける存在……)
突然そんな考えが脳裏を過ぎる。これって……
(聖獣は聖女に必要な情報を伝える……)
さっき、めまいを起こしたことかな。それにしても私が聖女って……
(資格あるものが封印に触れることで聖別される)
うーん、よく分からないけど、今、封印に触れたから私は聖女に選ばれたってことかな? 今までのループでは他の人が聖女になっていたのだろうか。
(……)
特に何も浮かんでこない。ループは聖女とは関係ないからかな。
“これからどうするデシ?”
これから……あ、そうだ!
「なるべく学院から離れた街に行かないと。父に連れ帰られるとまた最初と同じ結末になっちゃうし……」
とにかく馬車だ。馬車を呼ばないと!
“分かったデシ!”
え?
視界が急に高くなる。そして、足の下にはフワフワの白い絨毯が……違うな。これはあの子《聖獣》の背中だ。
(何で背中に?)
そんな私の疑問は次の瞬間に氷解した。
ビュュューン!
聖獣は私を背に乗せ、凄まじい速さで走り始めた!
(えっ、えええっ!)
どういうことだろう! あ、私が“学院から離れた街に行かないと”って言ったから?
(でも、荷物が!)
持って行きたいものを部屋にまとめてあるんだけど!
“止まるデシ? 分かったデシ!”
私の願いが伝わったのか、聖獣は止まってくれたのだが……
「ここは……」
そんなに長く走っていたわけじゃないはずだけど、聖獣が止まった時には既に見知らぬ山の中。ここは何処? どっちに行ったら街があるの?
“ごめんなさいデシ。戻るデシ”
あ、戻れるの? それなら……
「グォォォーン!」
「グハッ!」
「クッ、この野郎!」
悲鳴が聞こえた方を振り向くと、何とすぐそばで魔物と騎士らしき人達が戦ってる!
(逃げなきゃ!)
自慢じゃないが、私には魔物と戦う力も勇気もない。パニックにならないだけでも褒めて欲しいくらいだ。
急いで聖獣に跨がろうとしたその時、遠目に倒れている騎士の姿が目に入った。
(!……酷い怪我)
よく見れば、立っている騎士はたった一人。素人目にも強い人だと分かるが、仲間を庇いながらでは上手く戦えないらしく、防戦一方だ。
“魔物の気が一瞬でも逸れれば勝てそうデシね”
(そうなの?)
“あのブラックグリズリーも命が尽きかけているデシ”
何でそんなことが分かるのだろうと疑問に思うと、また何処からともなく、“聖獣には生き物の命を感じ取る力がある”という知識が脳裏を過ぎった。
(あの魔物はブラックグリズリーって言うんだ……)
この合間にもブラックグリズリーは騎士に向かって爪を振るう。騎士はそれをかわしたり、盾で防いだりするのだが、彼も無傷ではない。
(でも、もう誰も仲間がいないんじゃ注意を引くなんて……)
いや、それどころじゃない。騎士はもう息も絶え絶えという感じだ。聖獣は“ブラックグリズリーは命が尽きかけてる”って言ってたけど、それはあの人も同じなんじゃ……
(危ない!)
そうこうしている間にぬかるみにとられ、よろめいた騎士にブラックグリズリーが爪を振り上げる! 駄目だ、これは当たってしまう!
「“風よ、矢のごとく飛び、刃のごとく敵を裂け! 【ウインド】”」
とっさに使った魔法は初級の攻撃魔法。学院で学んだものだが、私の実力じゃ布を裂く程度の威力しかない。
……はずだったのだけど
ズバッ! ボトッ!
何と私の魔法はブラックグリズリーの首を切り裂き、その首を落としてしまったのだ。
(な、何で?)
一発で魔物が首チョンバ! これは聖女の力に関係が!? 次話は明日の夕方6時に投稿します!
……あと、厚かましくはありますが、筆者のモチベに直結するポイントやブクマ等もお願い出来れば大変大変大変嬉しいです。