動く災害
魔物とのバトルは順調でしたが、シロちゃんが何やらフラグを立てていたような……
少し遅れて今まで知らなかった知識が頭の中に現れた。
(魔物は動植物がマナで変容したもの。よって、マナの濃い場所やマナが安定しない場所で発生しやすい……か)
どれくらいのマナで魔物が生まれるのかは分からないけど、確かにやけに多くの魔物に出会った気がする。この辺りは比較的安全だって話だったのに……
「そう言えば、都合が良かったから気がつくのが遅れたが……何だかやけに魔物が多くないか?」
言い合いを続けていたハロルド皇子がふと真顔になってそんなことを言い出した。まあ、話をはぐらかす目的かもしれないけど……
「確かに他と比べて魔物は多いが、これが何を意味するかまでは分からないな」
レオナルド様がそう言われるのも当然だ。だって、普段この辺りにどんな魔物がどのくらいいるかとかは多分誰も知らないと思う。
(シロちゃんがいなかったら私だって分からないわ)
シロちゃんは凄い。流石聖獣ね!
(あっ! じゃあ、どうやってこの辺りが普段と違うってことを知らせるんだろう!?)
聖獣であるシロちゃんのことを教えれば自動的に私が聖女であることを伝えることになる。
(そしたらどうなるんだろう……)
正直見当がつかない。どうしたらいいか……
“何かくるデシ!”
(えっ!?)
“早く逃げた方がいいデシ!”
シロちゃんの声に焦りが混じる。ひょっとしてかなりヤバい?
「とにかく、もう少し辺りを調べがてら色々試してみるか」
「そうだな」
えっ、ちょっと……
(絶対この場は離れた方がいい。けど、何て言えば……)
“来るデシ!”
え、もう!?
「ブォォォッ!!!」
お腹の底にまで響くようなこの声……一体何なの!?
「この唸り声……まさかベヒモスか!?」
レオナルド様が驚いた声を上げる。ベヒモス? 聞いたことがないけど、シロちゃんやレオナルド様の様子から見ると多分危険な魔物なんだろう。
「何っ……どのくらい強いんだ、そいつは」
「『動く災害』と呼ばれるレベルだ。とにかく逃げるぞ!」
レオナルド様がそう言った途端、魔物達が群れをなして私達のいる方へと向かってきた!
“シエンナ、【シャインウォール】デシ!”
シロちゃんがそう言うと共に何をしたら良いかとその効果が頭に浮かぶ。よしっ、これなら!
「【シャインウォール】!」
光の壁が私達の周りに現れる。それは魔物の攻撃から私達を守るものだったのだが……
「これは……」
「なっ……」
何と魔物達は私達には見向きもせずに声のした方向と反対方向へと逃げて行ったのだ!
“やっぱり……魔物がいっぱいいたのはベヒモスのせいデシね……”
(どういうこと?)
“今みたいに魔物達がこの辺りまで逃げてきたんデシ。だから、普段より多くの魔物がいたんデシ!”
他の魔物から避けられるなんて……無茶苦茶危険な奴なのね。
ドシン! ドシン! ドシン!
地響きのような足音が次第に近づいてくる。これって……
“ベヒモスデシ!”
まだ姿は見えないし、今から逃げたら何とかなるんじゃ……
「レオ、どうする? 逃げるか?」
「駄目だ。ヤツは嗅覚が鋭いと聞く。恐らくこの距離だと俺達に気づいているだろう」
え!? ウソ……
“団長さんの言うとおりデシ! 逃げても追いかけてくる可能性が高いデシ!”
でも、足は遅いみたいだし、逃げ切れるんじゃあ……
「逃げ切れないか? 足は遅いみたいだぞ」
「街に近すぎる。逃げたら街まで下りてくるだろう。それは避けたい」
レオナルド様は剣を抜き、地響きのする方へ向けた。まさか、レオナルド様……
「ヤツを倒すとまでは言わないが、少なくとも足を止めてから逃げる。深手を負えば、ヤツもついては来ないはずだ」
か、カッコいい。流石レオナルド様……
(でも危険じゃないかしら。いくらレオナルド様でも、あの魔物は“動く災害”とまで言われてるのよね)
“団長さんの言うとおりデシ! それが一番安全デシ!”
そうなんだ……
(怖いけど……やるしかないか)
レオナルド様だけに任せてはいられない。まあ、大したことは出来ないけど……
「“動く災害”が相手でも俺達二人なら何とかなるか。イザベラの掩護もあるしな」
いやいやいや、あんまり過度な期待はしないで下さいよ、ハロルド皇子!
「ブォォォッ!!!」
鼓膜を震わせるような大きさの声! これはもうすぐ傍まで来てる!
「来るぞ!」
レオナルド様がそう言った途端、ベヒモスが姿を現した!
ヤバいのキター!
次話は明日の夕方6時に投稿します!
……あと、厚かましくはありますが、筆者のモチベに直結するポイントやブクマ等もお願い出来れば大変大変大変嬉しいです。