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昔々あるところに、見目麗しい王子様と、美しいがとても貧しい男爵令嬢がおりました。

作者: Rio

ブックマーク、いいねありがとうございます!!




昔々あるところに、見目麗しい王子様と美しいがとても貧しい男爵令嬢がおりました。

王族と下位貴族。

何の接点もなく、交わることのない交友関係。


貧しい男爵令嬢にとって王子様は雲の上の存在です。

そして、王子様にとって男爵令嬢は守るべき民ですが、彼女が誰かは認識していませんでした。


ある日、王子様はお供の騎士と城下へといきました。

それは、国民の暮らしを学ぶためです。


町は活気にあふれ、皆が楽しそうに商売をしていました。


王子様はある占いの館の前で止まります。

老女が王子様を手招きして、目の前にあった水晶に手をかざしました。


すると老女が言いました。

「・・・あなたはこれから、運命の出会いを果たします。その出会いを大切にすればあなたは望むものが手に入り、幸せになれるでしょう」


王子様は半信半疑のまま、占いの館を後にします。


人ごみを進んでいると、少し離れた店先で持っていたものを周囲にぶちまけ、転んでいた少女が目に入ります。


優しい王子様は助けようと前へ進みました。


王子様は誰かにぶつかっても、転んだ少女から目を離せず、そのまま前へ進みます。

後ろから声をかけられましたが、自分が謝罪をしていないと思い、小さく「すみません」とつぶやいて前へ進みます。


王子様は転んでいた少女の目の前に立ち手を差し伸べます。


少女は艶やかな金髪に碧の瞳をした、それはそれは美しい少女でした。


少女は、黒髪にスカイブルーの瞳をした王子様を見上げ、頬を染め、おずおずと手を取りました。


王子様は持っていたハンカチを取り出そうと、胸ポケットに手を入れましたが、入れたはずのハンカチが見当たりません。


すると、後ろに立っていた騎士が王子様のハンカチを手わたしてきたのです。

「先ほどぶつかられた女性が拾って渡そうしておりました。」


王子様は騎士の言葉に、先ほどぶつかった人を思い出しました。

ハンカチを渡すために呼び止めたんだとわかった王子様は、拾ってくれたのに申し訳ないな、と思いました。


なにせ、このハンカチは王子様の亡き母の形見だったのです。


美しい王子様と美しい少女は意気投合しました。

それ以来、定期的に町で会うようになりました。


お互い親交を深め、好意を出し始めた矢先、事件が起きました。


なんと、王子様のお父様がなくなられ、兄王子が国王となったのです。

そのため、王子様にも婚約者が据えられました。


その時期、王子様の国は隣国と国境のことで争いをしていました。

兄弟王子たちに付け入る隙を与えないため、王子様には兄王子の派閥の令嬢があてがわれました。


王子様は自分の置かれた状況も全て理解していました。

兄を支えるため、王子としての責務を果たすため、そして国民を守るため、愛する少女と離れることを決意しました。


幸い、婚約者の少女は大人しく、大らかで、ボランティアを率先してするような優しい少女でした。



数年がたち、国王となった兄王子は、隣国との和平協定のため、お姫様を妻に迎えることにしました。


王子様は国王が婚姻したら、次は自分の番だな、と考えていました。


婚約者の伯爵令嬢とは、仲良くやっていました。

国王に子供がいないため、王弟となった王子様の立場はとても複雑でした。


他国からの干渉や、国内貴族からの誘惑など、多くの罠が王子様の周囲ではびこっていました。


伯爵令嬢は王子様を懸命に支え、守っていました。

王子様はいつしかそんな伯爵令嬢を愛しく感じ始めていました。



ある日、国王即位5年の祝賀パーティーが開催されました。

それは、国王の婚約の発表でもありました。


国内の貴族は上位下位と、多くの人が集まります。


そうです。

王子様は運命の愛しい少女と再会を果たしました。


男爵令嬢はより一層美しくなり、王子様を見つけて破顔しました。

男爵令嬢は持ち前の鈍感さで、王子様が王弟殿下だとは気づかなかったのです。


王子様は、男爵令嬢が他の男にとられないうちに、ダンスに誘いました。


二人は微笑みあいながら、頬を染め、楽しそうにダンスの輪に入ります。


周囲から、美しい王子様と男爵令嬢をみて感嘆の声があふれます。


ですが、ただ一人だけ、悲しそうな目で二人を見ていました。


そうです。

王子様の婚約者の伯爵令嬢です。


今はファーストダンス。

本来は婚約者同士や夫婦がダンスをする順番なのです。


王子様は婚約者のことをすっかり忘れて、愛する女性の手を取ってしまいました。


踊り終え、落ち込んでいる伯爵令嬢を王子さまが見て、やっと気づきます。


王子様は焦って、婚約者の元に行きます。

謝罪をし、すぐに婚約者とダンスの輪に戻ります。


周囲は唖然としていましたが、王子様と伯爵令嬢がダンスする姿を見て、ほっとしたように自分たちもダンスに戻ります。


そんな二人の姿を、隣国のお姫様は鋭い目で見ていました。



王子様はなんとか、男爵令嬢を忘れようとしますが、どうにも忘れられません。

そうして二人は隠れて逢瀬を楽しみ始めるのです。


婚約者の伯爵令嬢は、そんな二人の姿を見て、悲しくなりました。

それは、彼女もまた婚約者の王子様を慕っていたからです。


ですが、伯爵令嬢はお父様から言われました。


「婚約解消を進言した。」


「何故ですかっ・・・?」


「我が家は伯爵といえど、建国時より続く由緒正しき家だ。その我らが馬鹿にされているんだ。お前はただの貴族ではない。伯爵令嬢なんだ。自分の立場と義務を思い出しなさい。」


お父様に諭された伯爵令嬢は、毅然とした態度で王子様との別離を決意したのです。


王子様は驚きました。


婚約解消をするつもりなどなかったからです。


彼は弟王子で、側室腹の子。

国王様は、正室の子。


王子様の立場はとても危うく、細い糸を懸命に綱渡りするほど、注意することが多かったのです。


王子様は、伯爵令嬢と話をしようとしました。

しかし伯爵令嬢は微笑んで王子様に言いました。


「殿下・・・ホルドー男爵令嬢のことを愛していらっしゃるのでしょう?愛する人ができるなんて、とても素晴らしいことです。殿下なら大丈夫です。強くあってください。」


伯爵令嬢に勇気をもらった王子様は、自分の愛した男爵令嬢と添い遂げることを誓います。


国王様、王妃様、そして他の貴族たちから猛反発を受けましたが、一部の貴族には、男爵令嬢を擁護する人もおり、王子様と男爵令嬢は協力して周囲を説得していきました。


数年して漸く、王子様と男爵令嬢は結婚出来ました。


王子様も男爵令嬢も、国民から愛されて幸せに暮らしましたとさ。


















最後まで読み終わった本をゆっくりと閉じる母。

母の膝に座って本を読んでもらった少女は不思議そうな表情で母を見上げた。


「・・・これが、王弟殿下のお話?」


娘の言葉に苦笑いをする。

「もう王弟殿下ではないわ。“公爵”様よ。」


「もう公爵でいられないかもね。」


女性は、本を読み聞かせていた部屋の出入り口に、腕を組んで壁によりかかる夫を見た。


「・・・自業自得だわ。」


女性、プルーデンス=アルスフィール侯爵夫人は、抱きしめていた娘のシルヴィアをおろし、冷たい声音で夫に呟いた。


プルーデンス=アルスフィール侯爵夫人、旧姓プルーデンス=シュヴェール伯爵令嬢。

まごうことなき、国民に広がった物語の伯爵令嬢であった。


現在は公爵となった第2王子ウィルフレッドは、かつてプルーデンスと婚約していた。


男爵令嬢だったカシアナと運命的に出会い、熱烈な恋に落ちた。


それが吟遊詩人によって国民に広がり、人気が爆発したのだ。


実際は、物語のように美しくはない。



第2王子の母は、権力欲が強く、国王に執着していた。

わが子を国王にしたく、何度も夫である国王にかけあっていた。


国王は享楽におぼれ、政務を忘れた。

隣国と冷戦状態だったにもかかわらず、付け入る隙を何度も与えたのだ。


それを補っていたのが、王妃と王太子、そして王妃を支持する貴族たちだった。


プルーデンスの父と王妃は従兄同士であった。


その関係もあり、第2王子に造反の気を起こさせないため、また第2王子派を抑制する意味を込め、古くから続く血族で、王家の血が混じり、王女だった祖母を持つプルーデンスに白羽の矢が立った。


プルーデンスには、思いあう相手がいたのだが、国のためと割り切り第2王子と婚約することになった。


二人は表面上は仲良くしていたが、王子が母を亡くし町に出ることが多くなったことで、徐々に疎遠になっていった。


王子がカシアナと出会い、逢瀬を繰り返していることを知り、プルーデンスは敢て止めなかった。


一応、カシアナ=ホルドーなるものについて調べさせた。


彼女は、プライドが高く、上昇志向も強く、目的のためなら努力も怠らない人なのだそうだ。


プルーデンスは、カシアナの見た目を思い出す。

見た目ではそんな風には見えない。むしろ儚げで優しそうな相貌をしている。


プルーデンスは、カシアナへの不信感を抱き、国王に頼んで王家の優秀な“見えない集団”に護衛してもらうこととなった。


そうして、とうとうある日、ウィルフレッドとカシアナがいわれなき罪でプルーデンスを断罪し、婚約破棄しようとしている、とのうわさが耳に入った。


プルーデンスは証拠となる護衛がいたが、そんな醜聞を周囲に知らしめるのは嫌だった。


そのため先に動いて婚約解消となった。

既に傷物となったプルーデンスは隣国の王女に気に入られ、王妃付き侍女となった。


王妃はカシアナの無礼にもおおらかに対応していたが、自国民たちはハラハラであった。


如何せん、カシアナは下位貴族に人気があり、高位貴族もおいそれとカシアナを批判できずにいたのだ。



カシアナは、隣国の王女であったフレア様が王妃となった日、まさかの寝室に突撃したのだ。

幸いだったのは陛下がまだ来ていなかったこと。


カシアナの言い分は、隣国から一人で来て不安な上に、小さいころに母を亡くし、閨での行儀や知識を知らないだろう、と思って突撃したらしい。


フレア様は王女。

そして、陛下との婚約が決まったことで、家庭教師からは妻として、王妃としての授業が付け足された。


カシアナの暴走は暴走でしかなかった。


カシアナは先ぶれもなく王妃様の部屋に突撃する。

義理の姉妹なのだからかまわない、がカシアナの口癖であった。


時には陛下がいても突撃していた。


そんな時、カシアナの妊娠が発覚。

息子が生まれた。


カシアナは毎日のように王妃宮に来ては息子を自慢した。


フレア様も微笑んで対応していた。


しかし、カシアナの言動は徐々にエスカレートしていく。


国王に“後継”がおらず、王弟となった自分の夫と夫の血を継ぐ息子が、次の後継者である、と言った態度になった。


高位貴族は、少し馬鹿にした様子で無視していたが、何も知らない下位貴族はそれを丸々信じていた。



カシアナが息子を出産した1年後、フレア様は第1子を妊娠した。

無事息子が生まれた。


王子が生まれたことで、まず王弟に公爵の位を授爵した。

そして、息子の側近にしたいから、と、国王の側近と王妃の側近の中で、縁談のない者同士をくっつけさせた。


それが、プルーデンスと将来の宰相候補であったノア=アルスフィールであった。

そして、何よりかつて思いあっていた二人であった。


二人はすぐに結婚し、すぐに娘に恵まれた。

翌年には年子で男の子を二人、その五年後にまた男の子が生まれた。


現在は妊娠中である。







ノアは椅子に座ってお腹をさする妻の額にキスをおとした。


愛おしそうに目を細め、妻の唇に自分の唇を重ねる。

結婚して9年たったが、妻への愛情も独占欲も色あせない。


実は、妻に内緒だが。

妻が婚約解消した時点で、“結婚”の打診をしていた。

しかし、たぶん、伯爵が握りつぶしていた・・・と思われる。


なにせ、相思相愛だったのは家族なら全員知っていたから。

娘を愛する父親の気持ちが今ならわかる。


妻が侍女になり、すぐにアタックしたが、男はこりごりと言って取りつく島もなかった。

そのため、王太子時代から支えた、君主であり親友でもある国王のアルフレッドを脅した・・・お願いした。


そして、妻を手に入れた。


なぜ“妻”と強調するかって?

それは、あのバカが私と婚約したプルーデンスに付きまとい始めたんだ。

“違った”って言って。


占い師の言っていた運命の出会いは、ハンカチを拾った少女。

つまり、プルーデンスであった。


あの時、プルーデンスに視線をやっていれば、二人は無事結ばれるはずだった。

しかし、そうならなかった。


プルーデンスとウィルフレッド(あのバカ)が婚約解消して、あの尻軽と結婚した。

子供が生まれたが、父にも母にも似ていなかった。



王子であったウィルフレッドはもちろん、最高の家庭教師をそろえていたため、賢かった。

カシアナのもまた、目的のための努力ができるほどだったので、ある程度賢かった。

しかし、子供は似なかった。


見た目もだが。

愚鈍で、不器用で、傲慢。

それが、ここ最近ウィルフレッドの実子ではないと証明された。


それは、王族は絶対かからない病気にかかったから。

王族は生まれた時大地と契約する。といっても、儀式みたいなものだが、案外効力があったりする。


王族は国を守るため、大地に守ってもらえる。

そのため、ある程度の病気にはかからないのだが。


儀式をしたはずのウィルフレッドの息子は、かかるはずのない病気にかかった。

驚いたウィルフレッドは息子とのDNA鑑定をさせた。



そうして判明したのが、自分が父ではなく、かつての護衛騎士が子供の父親であったということ。


なんと、カシアナは気づかれたことに勘付いて、ありったけの物を自分の物にし、暴走した。


暴走とは、王妃様と侯爵夫人となったプルーデンスを貶めようとしたものだった。

子供たちは知らぬ男の子だ、とか、王妃は隣国のスパイだとか、良くわからない言いがかりをつけていた。

挙句の果てには、夜会でプルーデンスに薬を飲ませ、男たちに襲わせようとしていた。


そのことが国王の逆鱗に触れ、公爵夫妻は財産没収のうえ、辺境へと奉公に送られることにきまった。


その爵位剥奪が今日される予定なのだ。



「ルー。奴らのことなんて忘れよう。物語は物語でしかない。現実を見ればわかることだろうに。」

ノアはそう言ってプルーデンスを強く抱きしめた。

子供たちが足元をくるくる回ってはやし立てる。


最初は子供の前でも恥ずかしがるプルーデンスだったが、9年たてば慣れるってもんだ。


プルーデンスもノアに腕を回す。

ノアはそのまま、プルーデンスの両頬をつかみ濃厚な口づけをした。


時折唇を離して「愛しているよ」とささやいていた。


使用人たちは慣れた光景に、何も言わないまま子供たちを違う部屋へと連れていく。


二人が気づくのは夜も更けてから。




https://ncode.syosetu.com/n3982hv/


違う話ですが、昔々〜シリーズ(シリーズというわけでもないですが・・・)なので、良ければ読んでみてください。


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