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第八話:新天地へ



 方針の確認など、一通りの話を終えて。

 私はそのまま、艦橋に並ぶ座席の一つに腰を下ろした。

 当然、翼と尻尾はしまった上でだ。

 

「出し入れができるのは便利だな」

「そうでしょう?」

 

 ヴィーザルの率直な感想に、私は得意げに応えてみせた。

 頭の角も隠せるけど、必要ないから今はそのまま。

 固定された椅子の座り心地は、お世辞にも良いとは言えない。

 贅沢を口にできる身分ではないので、そこは我慢だ。

 

 常ならば、自力で飛びながら眺める宙の景色。

 それを腰を落ち着けた状態で、モニター越しに眺める。

 これだけでも、それなりに気分は良かった。

 

「目的地には、暫く掛かるんですか?」

「現実時間であと一時間と少しだ。

 仮眠でもするか?」

「寝起きですからお気遣いなく」

「あぁ、そうだったな」

 

 私の冗談に、ヴィーザルは曖昧な表情を見せた。

 少しブラックジョークが過ぎたろうか。

 ともあれ、そのぐらいの時間ならあっという間でしょう。

 モニターに映る景色を眺め、こっそり確保しておいた「おやつ」を摘まむ。

 質はそう悪くないが、歯ざわりがちょっとイマイチだ。

 

「……? 何を食べてるんだ?」

「はい?」

 

 問われて、つい首を傾げる。

 そんなヴィーザルの手にも、棒状の土っぽい物体が握られていた。

 

「貴方こそ、なんですかソレ」

「携帯食料だ。

 美味くはないが、これで一食分の栄養は賄える。

 お前の方も食べるなら、渡そうと思ったんだが……」

 

 彼の視線は、私の手元に注がれていた。

 別に隠すことでもないので、見えやすいよう手を開く。

 そこにあるのは、幾つかの細かい金属片。

 ヴィーザルが見ている前で、その一つを指で摘まむ。

 小さく口を開けて、そこに欠片を放り込んだ。

 ……うん、やっぱり歯ざわりがあまり良くない。

 

「……それは?」

「さっき戦った船の装甲ですね。

 一部引っぺがして持って来たんですよ」

「食べ物じゃなくないか??」

 

 ドン引きされてしまった。

 まぁ、有機物しか摂取できない人類種では驚くかもしれない。

 

「ドラゴンは生存のために食事をする必要はありません。

 心臓が無限機関ですから、エネルギーが枯渇する事がないのです。

 あくまで基本的には、という但し書きが付きますけど」

「……改めて聞くと同じ生物とは思えんな」

「誉め言葉と受け取ります。

 ――単純に生存するだけなら不要ですが。

 戦闘行動などで、大きくエネルギーを消耗してしまった場合。

 そういう時は、経口で食物を摂取してエネルギーを補給しますね」

「それは分かったが、船の装甲は食べ物じゃないだろ」

「? 食べ物ですよ?」

 

 何をおかしな事を、と。

 言ってから、私とヴィーザルの知る「常識」が違う可能性に思い至る。

 そうだ、統一帝国が崩壊して五千年。

 私以外の金鱗は絶滅した、とも言っていたはずだ。

 

「ヴィーザル、金鱗は何でも食べられるんですよ」

「は? 何でも?」

「ええ、何でも。言葉通り、文字通りにです」

 

 説明しながら、私は新しい金属片を齧る。

 ドラゴンにとって、食事は緊急時のエネルギー補給の手段でしかない。

 大体の食物は摂取可能で、鱗の色によって食べられる物や好みは異なる。

 例えば、赤い鱗のドラゴンなら生物の肉全般を好む――という具合に。

 そして金鱗のドラゴンには食べられない物質は存在しない。

 それが有機物だろうが無機物だろうが、食べれば全てエネルギーに変わる。

 まぁ、そのせいで食にこだわる個体は少ないですが。

 

「ちなみに、金鱗が好んで食べるのは宝石や貴金属ですね。

 あ、ゴルド貨幣はご存じ?」

「ご存じも何も、未だに既知宙域の大体の場所で流通してるぞ」

「ホントですか? 流石は帝国の生み出した共通通貨ですね」

 

 ゴルド貨幣は、帝国の技術のみで鋳造可能な特殊な合金で造られている。

 黄金の光を宿し、殆どの衝撃に耐える美しい真円。

 あの輝きが、五千年経ってもまだ星間文明の経済を支えているとは。

 

「で、それがどうした?」

「アレ、おやつです」

「……はぁ?」

「ですから、いつでも何処でも手に入れて食べられるように。

 そういう用途も含めて普及させたんですよ、ゴルド貨幣」

「聞きたくなかった歴史の真実だ……」

 

 こっちとしては、親切で教えてあげたつもりなのに。

 何故かヴィーザルは頭を抱えてしまった。

 その直後、ハッと顔を上げて。

 

「待て。お前は一食当たり、どのぐらい食べるんだ?」

「ちょっと、落ち着いてください。誤解させたのなら謝りますから」

 

 かなりの迫力に、思わず苦笑いがこぼれてしまう。

 そこまでの展望があるわけでもない逃亡生活。

 手持ちの金銭がおやつ代わり、と聞かされたら焦るでしょうね。

 それは分かっているから、こちらも落ち着くように諫める。

 

「繰り返しますが、ドラゴンである私にとって食事は必須ではありません。

 補給する必要があれば食べますけど。

 そうでないなら、別に無理に食べる気はありませんよ」

「……そうか、そうだったな」

「ええ。今は寝起きな上に暴れた直後ですから、少し摘まんでますけどね」

 

 私の説明に、やっとヴィーザルは胸を撫で下ろす。

 そんな様子を笑いながら、私は残った金属片も全て平らげた。

 まぁ、こんなところでしょう。

 後は休んでいれば消耗分を補うには十二分。

 ……しかし。

 

「それ、美味しいんですか?」

「不味いぞ。興味があるのか?」

「今の一言で急速になくなりましたけど……」

 

 元々、私も金鱗のご多分に漏れず食への興味は薄い。

 それでも好奇心というモノは、時にふっと沸いて来る。

 

「一つ、貰っても?」

「いいぞ。この船の保管庫にも箱で積んであるからな」

 

 慣れた手つきで、ヴィーザルは私に棒状の物体を投げて寄こす。

 銀色の膜に包まれたソレを、指で挟む形で受け取る。

 口を開いて、そのままひょいっと放り込む。

 流石に金属片などと比べれば、歯応えは実に脆い。

 バリボリと噛み砕くと、投げた当人には呆れた顔をされてしまった。

 

「何か?」

「包み紙ぐらいは外したらどうだ」

「食べられますから問題ありません」

 

 適当に何度か咀嚼してから、一息に飲み下す。

 ……うん、味は正直どうでもいい。

 不味いというヴィーザルの言葉は、イマイチ理解できなかった。

 良く食べる宝石や金属には、そもそも味がないし。

 土を噛んでる感覚に近いので、確かに美味しくもなかったけど。

 栄養に関しても、所詮は人間の一食分。

 総じて大した代物ではなかった。

 

「感想は?」

「可もなく不可もなく、ですかね。

 それ以外に食べる物がないなら食べても良いですよ」

「それを食った人間も、みんな同じことを言うよ」

 

 人間とドラゴンの意見が一致する、というなかなか貴重な瞬間だった。

 内容そのものは極めてどうでも良い話だけど。

 

「人間の食事だって、言うほど大した事はないですね?」

「この『とりあえず動ける程度に栄養を詰め込む』ための物体で食を語ってくれるな。

 俺も別に、食通や美食家ぶるつもりはないが」

「やっぱり宝石か、ダメならゴルド貨幣で良いですよ」

「直接金を齧るのは止めろ」

 

 冗談ですから、そんな真顔で言わなくとも。

 

「まぁ、アレだ。

 もしまだ興味があるのなら、目的地まで待ってくれ。

 辺境は辺境だが、少なくともこの土の塊よりマシな飯はあるはずだ」

「随分と拘りますね?」

「今言った通り、別に食通ぶる気はないけどな。

 それでも食事は人間にとって大事なもんだ。

 寝起きのドラゴン様に、人は乾いた粘土を食べてるとか。

 そんな勘違いをされたままじゃ、流石にな」

「なるほど?」

 

 ホント、意外とそういうところに拘る男なんだなと。

 新しい発見をした気分で、私は小さく微笑む。

 

「そういう事なら、ちょっとぐらいは期待してみましょうか。

 考えてみたら、人間の食事なんて口にした事ありませんでしたし」

「……行先は辺境のド田舎だ。

 大昔の王侯貴族が食べたフルコースまでは期待してくれるなよ」

「そこは言い出した貴方が、ちゃんと私を満足させてくれませんとね?」

 

 ダメならダメで、ちょっと上から詰るぐらいで済ませてあげよう。

 我ながら寛大極まりないと、自画自賛しておく。

 ヴィーザルの方は、そんな私の表情を余裕の笑みと受け取ったか。

 負けず嫌いを示すみたいに、眉間にほんのり皺を寄せた。

 

「これで人間の食事にハマったら、ドラゴンの胃袋で幾らでも食いそうだな」

「そうなったら底無しですけど、まぁあり得ませんね。

 万が一にもそうなったら、角を折って貰って構いませんよ」

 

 ドラゴンにとって、頭に頂く角は王冠に等しい。

 これを折っても良いという事は、自らの矜持(プライド)を賭けたも同然だ。

 勿論、半分冗談ではあるけど。

 そもそも私が食事にハマるなんて、それこそ冗談みたいな話だ。

 ヴィーザルも、口元にニヤリと笑みを浮かべて。

 

「言ったな。

 まぁ、出来るだけ美味い物を用意できるよう努力するさ」

「とても楽しみ。

 ……と、そういえば目的地について詳しく聞いてなかったですね」

「ん。あぁ、そういえばそうだったな」

 

 つい、大前提の話が抜け落ちていた。

 彼自身も失念していたようで、自分の頭を軽く叩く。

 

「目的地はユニオン――と、言っても分からんか」

「ユニオン?」

「帝国が崩壊した後の既知宙域は、五つの勢力がそれぞれ統治してる。

 これは少し言ったと思うが」

「ええ、聞いた覚えがありますね」

「ユニオン――《星間都市連合(アクロポリスユニオン)》もその一つだ。

 その名が示す通り、無数の惑星国家による連合体。

 既知宙域の十五ある星系の内、五つはこのユニオンの勢力下だ。

 単純に影響を及ぼしている範囲だけなら、勢力としては最大規模になる」

「《星間都市連合》……」

 

 惑星国家による連合体。

 なんだか、それだけ聞くと烏合の衆っぽいけれど。

 

「言いたいことは分かるぞ。

 実際、ユニオンは図体こそデカいがまとまりが悪い。

 何せ明確なトップはなく、建前上は『所属する国家全てが同格』だからな」

「上下関係のない組織なんて、維持できるんですか?」

「纏まらざるを得ない敵がある限り、どんだけ不格好でも集団は維持可能だ」

 

 なるほど、それはそれで道理かもしれない。

 その他の勢力――ヴィーザルの故郷以外も少し気になる。

 けど、そこまで聞き始めるとドンドン脱線してしまう。

 とりあえず、目的地がそのユニオンである事だけは分かった。

 

「ユニオンの影響が薄く、かつ勢力圏の内側だから他勢力の干渉も弱い。

 加えて、未だ手付かずの統一帝国の遺跡・遺物が多く存在する辺境惑星」

 

 統一帝国の遺跡、という言葉に。

 私はつい反応してしまう。

 それを分かって、ヴィーザルはあくまで落ち着いた声で続けた。

 

「それが俺達が目指している目的地――惑星都市サンドリヨンだ」


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 溢れ出るポンコツ脳筋感 記憶無くしてるのもあるだろうけど、この態度で問題ないくらい生物として最上位なのね……
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