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第七話:二人の再出発



「――流石に疲れましたね」

「そうだろうな」


 程なくして。

 私はヴィーザルの誘導に従い、少し遅れて船内に足を踏み入れた。

 まぁ、特にどうという事もないですけど。

 内部構造は案内せずとも知覚できるので、さっさと艦橋へと移動する。

 正直、見るべきところはない。

 飾り気のない合金製の床や壁で、窓の類は当然見当たらない。

 率直に言って、見ていてまったく面白くない。

 ただ、艦橋ならば外部モニターもあるはずだから。

 

「……そういえば、搭乗者は? 始末したんですか?」

「必要のない殺しをするほど血に飢えちゃいない。

 制圧した後、そのまま付属の脱出艇に詰め込んで蹴り出したよ」

 

 無骨な見た目に似合わず、随分紳士的なこと。

 ……そういえば。

 

「それ、いい加減に脱いだらどうですか?」

「む」

 

 艦橋へと続く通路を進みながら。

 私は装甲服姿のままのヴィーザルを指差した。

 戦場も離れたのに、いつまでそんな殻を被っているのか。

 流石に視覚的にも暑苦しい。

 

「……ドラゴンの前で装備を外すのは、なかなかな」

「装甲を外した瞬間に、私が襲い掛かるのが心配で堪らないと?」

「そんな事はしない、と言い切れるような関係でもないだろ?」

「それはその通りでしょうけどね」

 

 真面目な物言いに、つい笑ってしまう。

 まぁ、別に外したくないのなら好きにすれば――。

 

「……ただ、そうだな。

 少なくとも、お前の助けがなければ脱出は困難だった。

 その相手に武装したまま、というのは無礼か」

 

 これはちょっと、予想外だった。

 やっぱり真面目そのものな事を言いながら。

 ヴィーザルは躊躇いなく、首から上を覆う装甲に手を掛ける。

 プシュッと、微かに空気が抜ける音が響く。

 一部が開いた頭部装甲を、彼は躊躇いなく外した。

 竜晶窟の底で出会ってから、はじめて。

 私はヴィーザルという男と素顔で対面した。

 その顔は……。

 

「……若い?」

「いや、幾つだと思われてたんだ?」

 

 そう、若い。

 装甲越しの声だけだと、正直判断が付かなかったけど。

 黒髪を短く刈り込んだ男の顔は、私の想像より大分若かった。

 いや、人間の年齢はドラゴンの私視点だとイマイチ分からないけど……。

 

「ちなみにお幾つなの?」

「……二十八だ」

「にじゅうはち」

 

 若い、いや幼い。

 ドラゴン換算ならまだ卵の殻が取れてないレベルだ。

 ……ちょっと言い過ぎたかも。

 

「……」

「? 何か?」

「いや――顔が厳ついと、良く言われるんでな」

「??」

 

 ちょっと無遠慮に見過ぎたか、と思ったけど。

 良く分からないことを言われてしまった。

 正直、人間レベルの見た目の美醜は大して気にならない。

 ドラゴンの人型実体は、同型の人類種と比較すれば大抵整ってる。

 ハッキリ言えば、顔が良いぐらいは見慣れてるのだ。

 だから、ヴィーザルが自分の顔をどう気にしているのか。

 私にはあんまり分からなかった。

 だから。

 

「その程度で厳ついなんて言ったら、ドラゴンの顔は見れませんよ。

 なんだったら、私の竜体の方がよっぽど恐ろしいでしょうに」

「……そっちはまだ、直接見たワケじゃないが。

 まぁ、言う通りか」

「そうでしょう?」

 

 苦笑いを浮かべながら、ヴィーザルは納得した様子で頷く。

 私も軽く笑ってみせた。

 さて、そんな無駄話をしている内に――。

 

「こっちが?」

「あぁ、この船の艦橋だ。

 細かい操船を考えなければ、全て自動操縦で問題ない」

「それは助かりますね」

 

 ヴィーザルが壁に設えられた端末を操作する。

 扉が開いた瞬間には、私はその内側に滑り込んでいた。

 艦橋――と言ってもそれ自体は特別なことは何もなかった。

 

 この船を動かすための中枢。

 正直、私は人の動かす船の仕組みは分からない。

 まして五千年以上先ともなれば、欠片も理解できないだろう。

 ただ、役割ぐらいは何となく想像できる。

 

 まぁ座席とか計器類とか、操舵とかその他諸々を動かすための端末とか。

 その辺は、正直どうでもいい。

 目を引くのは、前方の壁に展開された大きな外部モニター。

 そこには、先ほどまで私が外で見ていた光景と同じものが映し出されていた。

 ――自分の目で見るのも良いけど、こういうのも悪くはない。

 やはり、宙を飛ぶというのは心地が良い。

 

「……満足したか?」

「ええ、それなりに」

 

 思わず出しっぱなしの尻尾が揺れるけど、気にしない。

 適当な座席の一つに、ヴィーザルはそのまま腰を下ろした。

 そうしてから軽く息を吐き出して。

 

「なら、今後について話をしても?」

 

 と、私の目を見て言って来た。

 今後――あぁ、ハイ。

 

「最初の取り決めは、脱出するまでの協力だった。

 これに関しては、改めて感謝を。

 お前がいなかったら竜晶星から抜け出せたか怪しいところだ」

 

 そう言いながら、彼は私に向けて素直に頭を下げた。

 ……何だか、こうストレートに礼を言われると。

 微妙にこそばゆいというか、気恥ずかしい。

 ええい、毅然とした態度を保ちなさい私……!

 

「ま、まぁ、そこは仮にも勝者の権利ですから。

 改めて礼を言われることでもありません。

 私も気にしませんから、貴方もどうかお気になさらず」

「そうか」

 

 取り繕うみたいな私の言葉にも、ヴィーザルは短く頷く。

 細かいところは気にしない性分なのか。

 私としてはありがたい話だった。

 さて、それはとりあえず良いとして……。

 

「先ず、貴方の考えから聞かせて貰っても?」

「確認だが、アルヴェン。お前には現状、特に行くアテはない。

 そう考えて問題はないか?」

「……ええ、そうですね。

 なにせ五千年前に、故郷は滅びてしまった後みたいですから」

 

 気を落としても仕方がない、と。

 自分でも分かっているし、持ち直したつもりだったけど。

 やはり言葉にすると、心の奥に鉛を呑んだような重さがある。

 

「祖国を失った、という意味では俺も似たようなものだ。

 つまり俺達はお互い、帰る場所すらなくなった身だ」

「……確かに、似たような状況ですね?」

 

 やや首を傾げながら、私は一つ頷いた。

 ……もしかしたら、ヴィーザルなりに励ますつもりで言葉を選んでるのか。

 確認しても、本人は肯定したりはしないでしょうけど。

 それは兎も角。

 

「お前は強力なドラゴンだろうが、この時代の知識は皆無だ。

 俺の方はそれなりに知識もツテもある。

 が、極星国の追っ手に一人で立ち回れると思うほど自惚れてはいない。

 これだけ盛大に離反した以上、確実に俺を始末に来るはずだ」

「あと、私のことも捕まえたがっていましたね。あの連中」

「そうだ。容易く諦める事だけはあり得んだろう」

 

 つまり、当面は二人で動いた方がメリットが大きいと。

 ヴィーザルはそう言いたいようだった。

 私としても、それを強く否定する言葉はない。

 思うことがないではないけど、彼の実力は認めている。

 ただ、それでハイハイと素直に頷くのも。

 何というか、こう――複雑な気持ちがあるのだ。

 

「……私が、その話を受けるメリットは?」

 

 だからつい、こんなことを口に出してしまう。

 たった一人で、アテもなくフラフラするよりずっと良い。

 そんな事は当然理解しているけれど。

 

「貴方の言う通り、私はドラゴン。

 この既知宙域における最強の戦闘生物。

 であれば、なにも無理に人間の手を借りる必要は――」

「お前はこの時代についての知識はない。

 加えて、聞く限りでは『過去に何があった』かも知らない。

 ――知りたくはないか?

 お前の故郷である、統一帝国が何故滅びたのか」

 

 その言葉に、私は口を噤んでしまった。

 殆ど意識せず、気付けば鋭い目でヴィーザルを睨んでいた。

 

「……貴方なら、それが分かると?」

「俺が知ってるわけじゃない。

 ただ、既知宙域のあちこちに五千年前に関わる遺跡がある。

 未だ手付かずの遺物なんてのは文字通り星の数だ」

「…………」

 

 下手なことを言ったら、そのまま《吐息》をぶち込んでやる。

 そんな気持ちで睨んだまま、男の言葉に耳を傾けた。

 五千年前の遺跡に遺物。

 かつてあったはずの故郷が、歴史の一部と化している。

 その事実を思うだけで、無性に悲しくなる。

 

「船の針路は、そんな遺跡が多数埋まってる辺境惑星に合わせてある。

 遺跡潜り――『冒険家』の管理をしてる組織にも俺は顔が効く。

 現地で活動する上で必要な助けもしよう。

 それで遺跡や遺物を調べれば、帝国崩壊について知る可能性も上がる。

 組むメリットとしては、十分だと思うが」

「…………」

 

 思いの外、真面目だし熱心な話だった。

 ……ヴィーザルが言った通り。

 何故、あの偉大な帝国が崩壊してしまったのか。

 何故、私は竜晶窟の奥底で休眠していたのか。

 出来るならば、その真実を知りたい。

 そしてその為の手段として、彼の提案は実に真っ当なものだ。

 これ以上の案は、少なくとも私の頭からは出て来ない。

 

「……逆に、貴方が私と組むメリットは?」

「ドラゴンの戦力は、十分以上の利益だと考えるが」

「でも、貴方は強い。

 単に逃げ回るだけだったら、自分だけでも何とかなるのでは?」

 

 逆に、私という目立つ荷物を抱える事こそデメリットではないか、と。

 それを確認する意味でも、私は改めて問いかける。

 ヴィーザルは、ほんの少しだけ沈黙して。

 

「……言いたい事は分かる。

 だが、ドラゴンの戦力がメリットなのは事実だ。

 それに……」

「それに?」

「さっきも言ったが、俺一人なら脱出は困難だった。

 助けられた事への感謝は本音だ」

「……あ、あんまり繰り返されると。

 ちょっとこう、居心地が悪いと言いますか」

 

 どうしましょう、ムズムズする。

 良く分からないみたいな顔で首を傾げるヴィーザル。

 いえ、まぁ、分からなくても良いですけど。

 

「その相手を放り出して、自分一人で逃げる、というのは。

 出来れば、俺はやりたくないと考えている。

 絶対に悔いることになるだろうからな」

「……それが、貴方から見た私と行動するメリットですか?」

「自分の生き方を後悔せずに済む、というのも立派な利益だろう」

「なるほど、それはそうかもしれませんね」

 

 私が笑うと、ヴィーザルも少しだけ笑みを見せる。

 馬鹿で不器用な男、とは思うけど。

 彼の語る言葉を聞いて、不思議と悪い気はしなかった。

 

「……分かりました。

 どのぐらいの付き合いになるかは分かりませんけど。

 今は貴方との協力関係を継続するとしましょう」

「ありがたい。精々、失望されないよう努力しよう」

「ええ、是非そうして下さいな」

 

 微笑みながら応えると、彼は私に右手を差し出して来た。

 ……最初に、あの洞窟の奥で出会った時。

 ヴィーザルは失意に沈んだ私の手を、強引に掴み取った。

 だから今度は、私は私の意思でその右手を掴んだ。

 いつ解けるかも分からない縁。

 少なくともこの瞬間は、決してそれを放すことのないように。



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