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【旧版】千神の世  作者: チカガミ
六章 暗闇と花々
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【6EX-2】神器

 ルーポ・ルーナ。かつて、夜明けの領域にあった狼の国・インヴェルノ国に伝わっていたとされる、神器である。

 この剣を扱えるのは主に、その国を治めていたルブトーブラン家の血を継いだものだけであり、今はとある神の手元にあるという。

 だがスターチスもこれ以上は知らず、後は現地に行かないと分からないという。


「そもそも夜明けの領域なんて聞いた事ないんだが」

「そりゃそうだろうね。何せ、四百年前からこちらの島とは縁を切ってるからな」

「縁を切ってるのに、どうやって行けばいいんだ」

「その事はご心配なく。ちゃんと行けるから」

「……」


 不信感たっぷりな目をスターチスに向ける。

 と、外にいたルディが中に入ってくると、テーブルに置かれた地図を見て「どこか行くのか?」と、フェンリルとスターチスに訊ねる。

 

「ああ。だから少し家を空けるな」

「ん、分かった」

「あ、あの……」

「シルヴィア?」


 話を聞いていたシルヴィアが恐る恐る手を挙げる。フェンリルが振り向いて「どうした?」と言うと、シルヴィアはスターチスを見て言った。


「それ、私も一緒に行っていいですか?」

「えっ?」

「シルヴィア⁉︎」


 シルヴィアの言葉にフェンリルは目を丸くさせ、ルディは驚いて声を上げる。

 スターチスは顎に手を当てて考えつつ、「一緒に行けなくはないけど」と呟きながらも、一つ忠告する。


「治安は場所にもよるけど、文明も文化もこちらとは全く違う。安全の保証はできないよ?」

「それでも行きます……! 自分の身は自分で守ります! だから……!」


 お願いするシルヴィアを見てスターチスは、「分かった」と頷く。


「本人はこう言ってるけど、お二人さんはどうする?」

「うー……出来れば、シルヴィアを危険な目に遭わせたくはないが……」

「……シルヴィア」

「フェンリルさん。お願いします」

「……分かった」


 珍しく強気でいるシルヴィアに、流石のフェンリルも頷くしかなかった。

 ルディも「シルヴィアがそう言うのなら」と渋々了承した。


「じゃあ、そういう事でこちらも準備するよ」

「あ、ああ……よろしく頼む」

「……でも、かえって来てもらった方がフェンリルには良いかもな」


 スターチスの言葉に、フェンリルは「どういう事だ?」と不思議そうに訊ねる。

 先程父親の事を明かした時、スターチスはフェンリルの様子を見て、気がかりな部分があった。

 そもそもフェンリル自身、今まで父親の存在を知らなかったのは、父親である魔鏡(まきょう)守神……リアン・シルヴァーが彼に会った事が殆どないからである。

 何故会わなかったのかはスターチスもよく知らない。だが、様々な女との間に子を残しているあの神の事だから、フェンリルも言った通り、別の女に手を出していたのだろう。


「(そうだとしても、酷い話だけどね。何せ、彼女とは望んだ結婚ではなかったし)」


 きっとそれを知れば、フェンリルは深く傷付くかもしれない。だからスターチスは父親のことは言っても、それ以上は言えなかった。

 だが、この先夜明けの領域にて、知る機会が出てくるかもしれない。その時のためにも、傍には誰かがいた方が良いのではないか。そうスターチスは思った。

 答えを待つフェンリルに、スターチスは伝える。


「この先、何を知ってもお前は何も悪くないから。だから、自分を責めないようにね」

「スターチス……?」

「……さて、この話はここで終わりにして。この美味しそうなクッキー貰うね」

「は、はい。どうぞ……!」


 シルヴィアに向かって「いただきます」と言って、テーブルにあるクッキーを手にする。

 フェンリルはスターチスに言われた言葉が気になりつつも、同じようにクッキーに手を伸ばした。



※※※



 それからさらに数日が経ち、キサラギは久々にマシロの使いで一人橙月(とうつき)に来ていた。

 使いといっても、いつも通りの茶葉やお菓子なのだが、大通りの店を眺めている内に自然と、(かんざし)(くし)に目が移ってしまう。


「あら、お兄さん。彼女さんに贈り物?」

「え、あ……まあ、見ていただけだ」


 たまたま立ち止まって見ていると、店員の半獣人の女性に声をかけられ、キサラギはどきりとする。

 そんなキサラギに、店員はにこりとして「ごゆっくり」と言った。


「……なあ」

「はいなんでしょう」

「その、女って、何を贈ったら喜ぶんだ?」


 店員に訊ねると、店員は嬉々として「それは勿論愛ですよ」と言う。


「まあ、店員としての立場で言えば簪や櫛って言うべきなんでしょうが……。やっぱり、好きな人から貰うものならば、なんでも嬉しいんじゃないでしょうか」

「そ、そうか」

「ふふ」


 キサラギは照れつつも、改めて並べられた品を見る。

 どれも綺麗に装飾されてはいたが、今まで興味のなかったキサラギにとってはどれも同じように見えて、悩んでしまう。

 と、櫛が並べられた棚の中に、ある櫛がふと目に留まった。


向日葵(ひまわり)……か」


 椿や朝顔などが多く描かれている中で、大輪の黄金色がキサラギの興味を惹かせる。

 向日葵といえば、上層に戻る際にハレから向日葵を渡された事をキサラギは思い出した。

 実をいうと、例の電波塔に向かう前に潰れてはいけないからといって、スターチスに預かってもらっていた。


「(すっかり忘れていたな……)」


 今更になって思い出した事に申し訳なく感じていると、店員の視線に気が付き、その向日葵の櫛を手にする。


「これ、いいか?」

「はい、こちらですね!」


 笑顔で店員は受け取ると、会計の為に店の奥へと向かっていった。

 その間に別の櫛に視線をずらすと、棚に人影が差し込み、キサラギは振り向く。


「……⁉︎」

「あ、やっぱりキサラギさんだ」

「か、カイル……何故ここに」

「キサラギさんこそ」


 不思議そうに見つめるカイルに、キサラギは目を逸らし「ちょっとな」と照れ隠しながら言った。

 すると、先程の店員が戻ってくる。キサラギは銀貨二枚と引き換えに櫛を貰うと、懐にしまってカイルを見る。

 

「それで、お前はどうしたんだよ」

「ちょっと幼馴染に会いに」

「幼馴染? ……あ、そういえば、外界に出たとか言ってた」

「はい! その幼馴染です!」


 馬の尾を振りながら、嬉々としてカイルは言った。

 どうやら最近橙月でその幼馴染と再会したらしく、今日はその幼馴染が働く鍛冶屋で弓を整えてもらう為に来たという。

 常に手にしていた弓を大事そうに抱えながら、カイルは「あ、そうだ」とキサラギに提案する。


「もし良かったらキサラギさんもどうですか? 」

「そうだな……」


 フィンとの戦いで、聖切(ひじりぎり)が刃こぼれをしていた事もあり、キサラギはカイルと一緒に向かう事にした。

 

「そういや、こうしてお前と二人で話したことはあまりなかったな」

「そうですね」


 魔族達が住む山で出会ってからというもの、ライオネルに対する仇討ちや、ヴェルダの襲撃などであまり話す機会がなかったという事もあり、キサラギはカイルに訊ねた。


「その……今更で申し訳ないんだが、俺たちのいざこざに巻き込んですまなかったな」

「えっ?」


 聞いてすぐには理解できなかったカイルだったが、少し時間が経った後「あー」と納得した様に声を漏らし、笑みを浮かべて言う。


「大丈夫ですよ。寧ろ感謝してます。フィル達にも会えましたし、色々なものを見る事が出来ましたから」

「……」


 出会った時から少し大人びた様子で、カイルは言った。

 キサラギはそんなカイルの横顔を見て「そうか」と呟く。

 主人のいない橙月の町は普段と変わらず賑わいを見せていたが、やはり兵士が普段より多く見かける中、カイルがある店の前で立ち止まる。


「ここか」

「はい!」


 大通りの端にある、鍛冶屋が並ぶ通りの一軒。中からは鉄を打つ音が響いてくる。

 カイルは慣れた様に引き戸を引き、「おじゃまします!」と大きな声で言うと、奥から「おー!」と大きな声が聞こえてくる。


「……?」


 キサラギも店の中に入ると、奥から現れたカイルの幼馴染に、目を見開き驚いた。

 背丈はキサラギの二回り以上もあり、顔の真ん中にある金色の単眼がカイルを見ると、歯を見せて「よく来たな!」と笑った。


「っと、おお? 後ろのは知り合いか?」

「うん。キサラギさん。知り合いっていうより仲間だよ」

「キサラギ……ああ! 前話していた!」

「(声がデケぇ……)」


 店内にこだまする声と巨体に、キサラギは圧されていると大きな手が伸ばされる。

 その手を見てキョトンとしていたが、握手だと分かりキサラギは恐る恐る手を握る。


「初めましてだな! 俺はアイザックだ! よろしく頼む‼︎」

「あ、ああ……」

「彼はサイクロプスの一族なんですよ」

「さいくろぷす……」


 言い慣れない種族名に片言になりながらも、キサラギは名前を口にする。

 アイザックはサイクロプスの中でもまだ若者な為、他のサイクロプスに比べたらまだ小さい方らしいが、それでも今まで会ったことのないキサラギからして見れば十分にデカかった。

 挨拶の握手をした後、アイザックの後ろから鬼人の赤髪の男・センリが現れる。


「何だ。客か?」

「おう! そうだぜ師匠!」

「そうか。……ん?」


 センリは、キサラギの帯にある聖切(ひじりぎり)を見つけ、歩み寄る。キサラギもまた聖切を見た。


「その短刀……普通じゃないな」

「……まあ、そうだな」

「見てもいいか?」

「ああ」


 聖切を鞘ごと帯から引き抜きセンリに渡すと、鞘から抜かれ刃を見つめられる。

 アイザックもセンリの後ろから聖切を見ると、「何かあるな」と普通に周りに聞こえる音量で呟いた。

 

「……成る程な」

「?」

「いや。俺も対神器(たいじんき)の武器を見るのは初めてだが……お前さん、一体これはどこで」

「家で代々継いでるもの……らしいぞ」


 父であったセンテンからそう聞かされていたとはいえ、キサラギ自身もよく分かってはいなかった。

 センリは「ふむ」と呟きながらも、刃を一通り眺めた後、「しばらく待っていろ」と言って聖切を持ってこの場を後にする。


「アイザック。茶を淹れてやれ」

「あいよ! んじゃ、二人はそっちで座って待っていてくれ。……あ、そうそう。カイル、お前の弓も借りるぞ」

「うん、お願いします」


 店の壁側に備え付けられた床几(しょうぎ)に案内され、二人はしばらくそこで時間を潰した。

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