表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【旧版】千神の世  作者: チカガミ
三章 梅花の願い
24/81

【3-4】練習と眠気

 なんだかんだで結局代役を任される事になったキサラギとライオネルは、フィルを始めとした団員達によって徹底的に鍛えられる事になった。

 ちなみに登場の少ない一幕をキサラギ、歌も出番もとにかく多い二幕をライオネルにしてもらう事になったのだが。


「「(キッツ……)」」


 休憩時間になった途端、二人して伸びていた。何故か戦った後よりも疲れている気がする。

 そんな二人をよそに、アユとウォレスが「差し入れ」と言って大量のおにぎりとお茶を持ってくる。


「わ、ありがとうございます!」

「代役でお二人を貸してもらっているのに……かたじけない」

「いえいえ。毎度お芝居を楽しませていただいているので、その礼も兼ねてです。それよりも、お二人は……」

「ああ。あそこに」


 団員が指差した方向には壁にもたれかかって座り込んでいる二人がいた。

 アユが二人に歩み寄り、「どうですか?」と訊ねると、二人して首を横に振る。


「覚える事が多すぎてやってらんねえ……」

「あれを一人でやってたんだよね、彼……」


 やってみると想像以上に大変だった。いくら体力があれど、こんなに沢山の事を一度には覚えきれないし、指示された通りに動くのも疲れる。

 アユは「お疲れ様です」とお茶を二人に渡していると、プリーニオがやってくる。


「覚えも早いし、動きも悪くない。初めての割にはやるじゃねえか」

「あ、ありがとう……」

「……」


 ライオネルは苦笑いしつつも、キサラギは俯いたまま動かない。

 休憩が終わったら、団員も合わせて一度最初から通すらしい。それを聞いてキサラギはげんなりとした表情で顔を上げる。


「ほら、頑張っていこ」

「……うるせぇ」


 頭を撫でられ、嫌そうに撫でるライオネルの手を掴む。

 すると遠くで見ていたルッカが松葉杖をつきながらやってくると、ライオネルを見下ろした。

 

「お前、は」

「……?」

「……いや、なんでもない。昔似たような人物を見かけた気がしたんだ」


「でも、あの人は白髪だったはず」ルッカはそう呟きながら首を傾げる。

 ライオネルも首を傾げていると、フィルが手を叩いて仕切った。

 

「あと少し休憩したら通し練習やるからねー。ちゃんと水分補給してねー」

「「「はーい」」」


 フィルは団員達の返事を聞いて笑顔で頷く。

 アユも、キサラギとライオネルに「頑張ってくださいね」と言った後、ウォレスの元に向かった。

 それを見た後、ルッカは再びライオネルに質問する。

 

「……あの。もしかして兄弟って、いたり?」

「兄弟? いや……どう、だろう」


 いた気がするような、しないような。ライオネルのあやふやな言葉に、キサラギは「どっちだよ」と呆れたように言う。

 ライオネルは空笑いして、「もしかしたらいたかもしれないね」というと立ち上がり、ルッカのそばを通り過ぎる。


「さ、練習。しなきゃね」

「(?)」


 ライオネルの表情は変わらず。けれども、何となく焦っているような。そんな気がした。



※※※



 それから団員達と混じって通し練習を何度か繰り返す。

 だいぶスムーズに動ける様になった頃には、時間は深夜近くになっていた。


「二人ともお疲れ様。また明日よろしくね」

「ああ」

「おやすみー」

「それではまた!」


 タルタに見送られながら、キサラギとライオネル、そしてカイルは真っ暗な夜道を歩いていく。

 雨は止んでいたが、じめじめとしており蛙の鳴き声が聞こえた。

 ライオネルは大きく息を吐きながら、「疲れた」と呟くと、カイルは「お疲れ様です」と眠たそうにいう。


「(この時間帯だとマコトはとっくに寝ているだろうな)」


 風呂に入る気力も湧かず明日入るべきかキサラギは迷っていると、背後から気配を感じて振り向く。


「?……ぐっ⁉︎」

「キサラギ⁉︎」

「だ、大丈夫ですか⁉︎ って……」


 後ろから追突するように抱きしめられ前のめりになるキサラギに、ライオネルとカイルが声を上げると、くつくつと堪えるような笑い声がしてカイルは驚いた。


「な、何してるんですか。フィルさん」

「いやぁ。暇だからついてきちゃった」

「ついてきちゃったじゃ、ねえ、だろ……‼︎」


 キサラギは無理やり腰に回されていた腕を引き離し、フィルを睨む。

 フィルは悪びれた様子もなく、ニコニコとしながら「ごめん」と謝った。

 

「それで、何の様だ」

「え、だから暇だし、せっかくなら話したいな〜……なんて」

「今何時だと思ってんだ。早く帰れ。明日も早いだろ」

「え〜」


 再び抱き着こうとするフィルを避けた後、助けを求めるようにライオネルを見つめると、ライオネルは笑みを浮かべたまま「仲良いね〜」と呟く。


「(これのどこが仲良いんだ。……いや、待て。まさか)」


 ライオネルが焦点の定まらない目をしている事にキサラギは気付き、額を指で押すとライオネルはそのままゆっくりと真後ろに倒れていく。


「ら、ライオネルさん⁉︎」


 カイルが慌てて支えると、ライオネルは完全に寝落ちしていた。

 疲れも相まって眠気が限界に達したらしい。キサラギはライオネルの胸ぐらを掴み、軽く頬を叩くが起きる気がしない。


「(こっちだって疲れてんだぞ)」


 イライラしていたキサラギは頬を叩く手を握りしめる。カイルとフィルは嫌な予感がした。

 咄嗟にキサラギの腕を二人で止めると、「僕の背中に乗せてください!」とカイルが言って、ライオネルを背中に乗せる。


「めっちゃキツそうだけど大丈夫かな」

「大丈夫じゃないですけどまあ、ライオネルさんですし」


 布団をかける様に雑に乗せられ、呻くライオネルにフィルは心配していたが、カイルは目を逸らしてそう言った。そんなカイルもまた眠そうだった。

 フィルは少し考えた後、小さく笑って「そうだね」と苦笑いする。ライオネルに対してではなく、先程のキサラギの言葉に対してである。

 だが二人はそれに気づいていないようだった。


「コイツは多分丈夫だから平気だろ」

「ですね……」


 ほら、やっぱり。寝ぼけ眼になりつつある二人にフィルは苦笑いしながら、「それじゃ、早く行こう」とフィルはキサラギとカイルの背中を押して屋敷を目指す。

 しばらく歩けば、屋敷の近くにアユとウォレスの姿があった。



※※※



 次の日目を覚ますと、キサラギは適当に敷かれた布団の上で大の字になっていた。

 ただいつも寝泊まりしている客間ではなく、服も上着だけを脱がされてそのままだった。


「(昨日あれからどうなったんだ)」


 フィルに突撃され、ライオネルを起こそうとした所までは覚えている。

 だが、その後の記憶がない。屋敷にいるという事は少なくとも無事に帰れたのだろうが……。

 

「(それにしても……)」


 頭がやけに重くて痛い。まるで無理やり寝かされたような……。そうキサラギは思っていると、屋敷が妙に静かだった。

 日は昇り、いつもならば侍女の姿とか見えるのだが。

 頭を抱えながら起き上がると、ライオネルとフィル、そしてカイルがそばで眠っていた。


「(何でここにフィルがいるんだ)」


 結局ついてきたのかと、ジト目になりながらフィルの肩を掴み揺さぶる。

 すやすやと気持ちよさそうにしているが、時間的にそろそろ起きないと朝の練習に間に合わないのではないのか。

 すると、フィルは身じろぎして目を開く。ぼんやりとした様子で、起き上がった後周囲を見回していたがそのまま再び横になる。

 

「おい、寝るんじゃねえ」

「痛い⁉︎」


 キサラギが頬を強くつねると、フィルは飛び起きる。そしてキサラギを凝視した。


「あ、あれ。ここ、桜宮(おうみや)の屋敷⁉︎」

「ああ」

「って、日があんなに高く昇ってる⁉︎ ヤバい!寝過ごした!」


 大騒ぎしながらフィルはカイルを揺さぶる。カイルは枕を抱えたまま幸せそうな表情をしていた。

 キサラギもライオネルを起こすため肩を掴んだ時、廊下に一人の足音が響く。

 手を止め障子を見ると、人影が見えた瞬間障子が左右に吹き飛んだ。その音で目が覚めたのかライオネルが不機嫌そうに顔をあげる。


「もう……今何時だと……って、タルタ?」


「何でここに」とライオネルが言いかけるが、タルタの表情を見て咄嗟に廊下に出るとアユ達の名前を呼ぶ。

 何があったのかとタルタに聞けば、どうやら団員達が目を覚まさないという。

 

「団員だけじゃない、町の人々の様子もおかしい。もしや屋敷の方もって思ったんだが……」

「(薬を盛られたって訳じゃなさそうだな……)」


 魔術か何かだろうか。にしても目的は何だ? 犯人は? 突然起きた不測の事態に唖然としつつ、キサラギはマコトの元へ急いで向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ