運命問答
寝る前のお祈りをサボりがちな少年に、修道女は言った。
「何故あなたは修道院に住みながら、神に祈りを捧げないのですか?」
少年は言った。
「神様を信じていないから」
神を信じていない少年に、修道女は言った。
「孤児のあなたを神が見捨てなかったからこそ、今ここにいるのでは?」
少年は言った。
「神様がいたなら、俺はここにいることはなかった」
少年は続けた。
「俺くらいの年頃の子供は、今頃の時間は家族と一緒に晩ごはんを食べるんだと聞いたよ。ここの生活は好きだし、孤児の俺を拾ってくれたのは感謝してる。でも、この生活を望んでいたワケじゃなかった。神父様も、神官も、そしてあなたも、自分で神様に仕えることを選んでここにいるんでしょ? でも、俺はそうじゃなかった。選ぶ余地なんかなかった。俺は家族と一緒に、晩ごはんを食べたかった」
修道女は問うた。
「その家族が、自分のためにあなたを捨てた卑しい人だったとしても?」
少年は何も言わなかった。
修道女は語った。
「心から祝福されて生まれる人もいるし、二人の男女が軽はずみに『愛し合ってしまった』がために生まれる人もいる。裕福な家に生まれる人もいるし、貧しい家に生まれる人もいる。愛情を注ぐ親がいるし、愛情を知らない親もいる。子は、生まれる親を選べません。きっとこれが、『運命が存在する証拠』なのでしょう。『生まれたこと自体が不幸な人間』が、きっといるのでしょう」
少年は問うた。
「俺の人生は、不幸なのか?」
修道女は答えた。
「それは今際の際にしか、分からないことでしょう」