帰る場所で待っていた人
セルミネが戦いに夢中だったその頃、城はやっと朝に向かっていた。
「はな」の真ん中にあるその空間は地上どことも合わない時間の流れだ。
いま登った朝日が城を明るく染めるなか、その城の一番大きい部屋で影がひとつ動いた。
布団を体にグルグル巻いていたその人影がグッと背伸びをした。
3人は余裕に寝れそうなベットから体を起こしたのは、むらさき色の髪を持った少年だ。
大きくて丸い、水色の瞳を2回まばたいたら、もう夢から現実に戻ってくる。
なんかすごい夢みたな、と思ってもよく思い出せない。
空を飛んだり、妙な歌声を聞いたりした気がしたが、目がさめたとたん頭から薄くなる。
モヤモヤな気分を感じながら少年、リシュアは何気なく隣をみた。
でもそこにあるのは一つの枕だけ。
セルミネは今まで帰って来なかったらしい。
まさかその夜の間熾烈な戦いがあったとは思えず、リシュアはベットから降りる。
自分より大きい黒のパジャマも着替えずに彼は棚からコーヒー豆を出した。
お湯を入れて、砂糖もいっぱい入れてはもう満足。
彼はコップを手にしてフワフワなソファーに腰をかけた。
もう甘すぎてコーヒーとは呼べない飲み物を口にしたリシュアがふとドアを見る。
今足音が聞こえた気がするけど、気のせいかな。
もう1回、コーヒーを飲んでリシュアがまたドアを見る。
もう来ないかな、待っててもだれも来ない。
断念したリシュアが視線をそらす瞬間、いきなりドアががたんと開いた。
「あー、疲れた」
ありきった力でドアを押して開けたセルミネが頭をゴシゴシ掻きながら入ってきた。
リシュアは喜びに満ちた顔をしてセルミネを見たけど、すぐ驚きが満面に浮かんだ。
セルミネの体と服のあっちこっちにはこの前の戦いでの傷と血の跡が鮮明だった。
特に腕の傷は只者には見えない。
「セルミネ、大丈夫?」
すぐにでも泣きそうな顔をしたリシュアがセルミネへとびっきり走って行った。
その小さな手でセルミネの両肩をつかみ、かなり強く揺らす。
疲れが一段とひどくなるのを感じたセルミネがリシュアを止める。
「大丈夫。大丈夫だからどけ、チビ」
適当に手をふって見せては、セルミネはリシュアが今まで座っていたソファーに倒れる。
のどが渇いたので、何気なく前のコップを口にする。
でも、その痛いほどの甘さにセルミネが険しい顔をする。
「なんだ、これ。」
セルミネがコップをおろしたら、リシュアが大きな箱をもってそばに来た。
セルミネもよく知っている箱だ。
ソファーの向こうに見える、めちゃくちゃのまま開いているクロゼットが気になるが、
セルミネは黙ってリシュアが箱から包帯と薬を出すのを見守る。
人間を超えた能力に持ち主である二人でも、残念ながら傷を治すことはできなかった。
幸いにも人間より自然治癒力が高い。
身体能力もよくて、普通に戦いでの傷は体が耐えられる。
でなかったら、こんな先頭の繰り返しで永遠を生きるのは不可能だ。
今セルミネが負った傷も丸一日経ったらきれいになれるはずだ。
「よこせ。俺がやる。」
「いやよ。僕がしてあぎるから。」
リシュアは自信満々だったが、セルミネは許さない。
その手から包帯を取って自分の足と腕に巻く。
結びまできれいにはなれなかったけど、せめて前に自分をまるでミイラのようにしたリシュアのうでよりはましだった。
包帯がだんだん薄いピンクに染まる。少し心配にはなるが、思ったより深い傷ではなさそうだ。
どうせだれかに見せるつもりもないから。
箱を片付けてセルミネはそれをリシュアに預けた。
リシュアが落ちた服と箱を適当にクロゼットに入れまくるのをセルミネは細く目を開いて見る。
ぱっちり見えた視野が薄くなったと思ったら一瞬で暗転する。
深く眠りについたセルミネの手がソファーのクッションに落ちた。
その音にリシュアが振り向いた。
「セルミネ?」
呼んでも答えはない。リシュアは手をもっと速く動いて片付けを終えてはクロゼットを締めた。
その音にもセルミネは眠ったままだ。リシュアはベットから布団を両腕で抱きしめて持ってきた。
それをセルミネの体の上に乗せた模様でかけてあげた。でも何か足りない。
彼はまたベットから枕を持って来てセルミネのひざにそっとのせる。
「もういいのかな。」
自ら満足したリシュアは着ていたパジャマのボタンを外す。
上着とズボンをぬいて下手に畳んではベットの上に置く。
すると下着だけの体が現る。
リシュアはクロゼットに向かない。代わりにその場で軽く身を回した。
その仕草に合わせて体から黒い霧のようなものがその全身を包む。
それは次の瞬間、立派な服となった。
タイトな黒いトップと白いズボンの上に紫の短いジャケットが印象的だ。
同じく紫のレーザーブーツが大理石の床に映る。
足を運ぶたびにきれいな音がした。
リシュアはちょっと振り向いてセルミネを見た。今までの騒ぎにも起きる気はなさそうだ。
リシュアは先セルミネはちゃんとしめなかったドアに向けた。
外に出た彼はそっとドアを閉めては、軽い足で長い廊下を歩きだす。