殺りく兵器ナナ
「とうとう完成した!」
「飛躍的に研究が進んだのは、2年前に貴重なサンプルを採取したおかげだ」
「これなら人間の兵士のように、人間を殺りくするのをためらったりしない」
「命令を確実に守り人間を殺りくする、合理的な兵士、いや、兵器だ」
「試作機ナンバー7号よ、さぁ動け!」
『試作兵器が脱走しました』
『市民には凶悪殺人犯が脱走したと伝え、避難させてください』
『隊員はすぐに出動し、破壊してください』
「どうした、アンドロイドとはいえ、あんな小娘一人に」
「隊長!我々の居場所ががわかるみたいに、こちらが狙った途端によけるんです」
「しかも人だけを確実に射撃してくる!銃撃しようと構えると撃たれるんです!」
「危なくてしっかり狙えないんです!」
「くそう、拳銃一丁しか持ってないんだろ!全員で一掃射撃だ!」
「撃って撃って撃ちまくれ!」
ドガガガ
「どうだ…」
「多分、当たりました、足に当たったと思います」
「…が、逃げました…痛むそぶりもなく、平然と…」
「くそ、バケモノめ…、必ず見つけて破壊しろ!」
あたしはナンバー7号
人間を殺すために造られた
研究所で目覚めたあたしは、命令どおり人間を殺すために研究所を抜け出した
武器は研究所にあった拳銃
外に出ると人間が攻撃してきた
でもあたしの身体は機械だから撃たれても痛みはない
さっきも足に弾が当たったけど、これならすぐに直せる
「問題ないな…」
カチャカチャ
誰もいない建物の中で足を直していると、なにかやってきた
「人間か?」
銃を構える
キコキコ…
車輪の音
「人間じゃない…のか?」
「お姉ちゃん、こんなとこで何してるの?」
何者だ?
車輪の付いたイスに座っている
少し体が小さい
ヒザから下がない
あたしと同じ雰囲気がする…
アンドロイドか?
「お姉ちゃん、ここはあぶないよ、殺人者がウロついてるんだ」
「そんな人間は殺してしまえばいい」
「こ、殺すって…そんなことできないよ」
「なぜ?」
「ボクは武器を持ってないし、2年前の事故で足を無くしたんだ…」
2年前の事故で両親と姉の家族全員を亡くした…
「足ならあたしのをやろう、ホラ」
「うわぁ、お姉ちゃんの足が取れた!」
「今お前に付けてやろう」
「お姉ちゃん義足なの?僕にくれたらお姉ちゃんの足がなくなっちゃうよ…」
「あたしは自分で作れるから大丈夫だ…」
僕の足に取り付けようとするけど…
「う~ん、あたしとはサイズが違うから、新しく作り直さないとダメだな…」
「義足を造れるの?」
「足だけじゃない、壊れたら全身どこでも自分で造れる」
「全身…」
「そうだ、あたしは人間を殺すために造られたアンドロイドだ。お前も人間を殺すために造られたんだろ?」
「人間を殺すって…なんで…」
お姉ちゃん、やさしいのに…
「なんでって、そんなの命令されたからに決まってるだろう」
「だ、だれに?誰がそんな命令をしたの?」
「誰かなんて関係ない、知らない、命令されたら実行するだけだ」
そんな…
「じゃ、じゃあボクが命令する!人を撃っちゃダメだ」
「え…」
「それと、もうそんな人の命令を聞いちゃダメだ、ボク以外の人の命令を聞いちゃダメだ!」
「………わかった」
「ホント!」
「あぁ、命令には従う」
「よかったぁ」
「少しじっとしていろ」
お姉ちゃんは僕のサイズを測っている…
きっと、さっきの避難命令の殺人者は、お姉ちゃんのことだ
逃げおくれちゃったけど、もう大丈夫…
「お姉ちゃん、名前はなんていうの?ボクはマモルって言うんだ」
「マモル…か…あたしはナンバー7号だ」
「ななごう?」
「そう呼ばれていた」
「じゃあボクが名前をつけてあげる」
「名前?」
「そうだなぁ、ナナ!お姉ちゃんの名前はナナだ」
「あたしの名前…」
「死んだボクのお姉ちゃんの名前だよ」
「いたぞ、あそこに隠れてる!」
「ち、見つかったか…」
「大丈夫だよ、ナナはもう人を撃たないんだから、ボクが行って話してくる」
「マモル、あぶない行くな!」
「もうナナは人を撃たないよ!だからみんな銃を下ろし…」
バシュッ!
「う!」
「マモル!くそう肩からオイルが漏れてる!すぐに直してやるから」
「ダメだ、あたしと構造が違う!どうすればいい…マモル、どうすればお前を直せる!」
「うぅ、び、病院に……」
「ビョウインってトコに行けばいいんだな!」
サーチ、近くのビョウイン…
「よし、あった!あたしが連れてってやる」
「ナナ、あぶないよ…みんな銃を構えてるよ」
「あたしは大丈夫だ、脳ミソ以外は機械だから撃たれても平気だ」
脳ミソ…アンドロイドって言ってたけど、脳があるの?
ナナは…人なの?
「マモル、あたしが必ず助けてやる」
ナナはボクを抱っこした
ナナはボクを抱えながら走りだした
機械の身体は冷たくて硬いと思っていたけど…
とても温かくて、懐かしく感じる…
ものすごい銃撃なのに、たくみに弾をよけて走る
でもその振動が傷にひびく…
「うぅ…」
「お前は痛みを感じるのか? マモル、手を背中に回すな!」
バシュッバシュッ!
ナナの背中に弾が当たる
ナナはよけるのをやめて、わざと自分の背中で弾を受けた
ボクが痛がらないよう、よけるのをやめたんだ…
病院が見えてきた
銃撃が増える中、病院の入り口までもう少しのところで
バシュッ!
ナナの足が撃たれた
「ナナ!」
まだ建物まで30m以上ある
「もうダメだ…」
「心配するな!まだ片足ある!」
ナナは残った片足でジャンプした!
「うわぁ!」
信じられない脚力
でもその足もジャンプした反動でバラバラになってしまった
もう着地する足はない
ナナは空中でクルリと反転し、自分の背中で着地した
ズザザー
何とか建物の中に転がり込んだ
あの銃撃の中を走り抜けてきたのに、ボクは無傷だった
でもナナはボロボロになっていた
「ナナ!ナナ!頭は撃たれてない?ねぇ、ナナ!返事して!」
「マモル、ビョウインに…着いたか…」
「着いたよナナ、しっかりして!」
「そうか…命令は守ったぞ…、一人も撃たなかった…ぞ…」
「いたぞ!」
「やっとやっつけたぞ!」
「これならもう動けないだろう、この殺りく兵器め!」
ナナの頭に銃を構える兵士
「ダメだ、ナナを、お姉ちゃんを撃っちゃダメだ!」
「お姉ちゃんは悪くない、人を殺す命令をした人が悪いんだ!」
撃たないで
お願い…お願い…
「やあマモルくん、わざわざ研究所まで来てもらって悪いね、傷はもう大丈夫かい?」
「ナナは元気?」
「あぁ、全身修理してある。あれからおとなしいもんだ。あれだけのことをしたから、一応隔離してあるけど、俺たちの言うことは聞かなくてね…」
「なぜかマモルくんの言うことしか聞かないんだよ」
「マモルくん、アイツに言ってやってくれないかな」
「自分の足を分解するのはやめろって…」
隔離室のトビラが開くと、ナナは自分の足を分解して新しい足を造っていた
「ナナ、何してるの?」
「マモル、よく来た!ちょうど今、完成したんだ」
「ナナ、それは…」
「ホラ、これならマモルの足のサイズにきっとぴったりだ」
殺りく兵器ナナ
おしまい