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第一章:芽吹き(3ー1)

今日も寅の刻に起床し、泉で身を清め湯の泉で半刻その後一刻を朝の鍛錬に当て、流石に連日兵粮米だけではいくら鍛錬を積んでも筋の肉は付いてくれないと、山の中を探しに出てみると、幸い自生していた大豆の若いものや旬を越し少々硬くはなっているが、行者ニンニク茗荷みょうがを見つけることが出来、場所を覚え朝餉に必要な分だけを採取して、枯れ枝と果実と共に持ち帰った。

大豆は血肉の元となり行者ニンニクは非常に精が付く。茗荷は薬味にしても、汁物に入れても旨い。

子狐と艶雲に果実を分け与えると、早速調理へとかかっていく転戦先で困らぬよう米の他塩と小さな鍋と木の椀箸は持ち歩いていた。

若い大豆は兵粮米と共に炊き塩を一つまみ入れ粥にし行者ニンニクは湯にくぐらせ清水にとって浸し物に茗荷は汁物にした。

食事の準備が整うと、調理されたものたちへ向かい手を合わせたのだった。

(私は、己の命を繋ぐという勝手な理由で一方的にお前達の命を奪った。真に申し訳無く思う。奪いし命私を通して、自然へと還る様に)

箸を取り美しい所作でそれらを口へと運び米粒ひとつ汁一滴も残さず食し終えると、後の始末を終えた。

その少し前からだろうか、雲が垂れ込めはじめ雨模様へと天候が変わって行くと、天からの恵みに草木がより一層活力を増し、雨粒を受ける葉達もそれぞれの音階で歌い始めた。

食事の様を見て居たかのように頃合いを計って、おなごが邸からこちらへと向かって来る様子が見て取れたが、喜ばしい事にその足には昨晩邸の入口に置いた草履が履かれていた。

郷のおなごなどならば、笑顔で迎え、「草履を気に言ってくれたのか?」なぞと声を掛けたいところだが、何かと用心深い相手である内心喜びつつも草履には気づかぬふりをして、挨拶の言葉のみ発するに止めた。

その言葉には反応せず立ち止まると、おなごは腕を組み顎を刳って見せ、(今日も治療をするから、裸になって横たわれ)と伝えてきたのだった。

「ここでは、貴女様が濡れてしまいます故、木陰にてお願いしても宜しいでしょうか」

この願いは通ったらしい。無言で木の葉が茂り、雨の当たらない場所へと移動して行き、男とその愛馬子狐もそれに従った。

治療を施されていると南方の泉を囲むように生い茂る竹林から、一匹の狐が様子を伺っているのが、見て取れた。青駒と戯れていた子狐が、それに気付き雨の中草の水滴を蹴上げる様にその狐へと駆け寄り竹林から覗いていた狐の元へと辿りつくと、その口元を舐め腹を見せはち切れんばかりの喜び振りどうやら竹林から現れた狐は子狐の母の様で我が子の無事を確認する様に匂いを嗅ぎ顔や身体中を舐めまわしていた。

両肘をつきその様子を見守っていた男の顔に自然と笑みが零れる。

(自然を生き抜く生き物達の親子の絆、というのは深く固いものなんだな)

ふと目の端に写るおなごに気を掛けると、視線を左下に降ろし、なぜか寂しげで複雑な影が表情から見て取れたのだった。

母に連れられ竹林の奥へと去って行く子狐は唯一度振り返ると、「ケーンッ」とひと鳴きし、その場にて飛び跳ね、母を追い姿を消して行った。


次回更新は、 2019月3月13日18時です。

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