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第一章:芽吹き(2ー2)

 後は昨日と同じ男は仰向けに寝かされおなごの舌で傷口を舐められたがおなごなりの治療の一環と分かったので気持ちも凪ぎその顔を少しばかり垣間見る余裕も出来た。

小ぶりで卵形やや鋭角を帯びた輪郭の中に花珠真珠をさらに上等なものにしたような肌が張られて居る。秀でた富士額に左右写した様な柳眉、何かで痛めたのか右目は閉じられたままだが、左目は涼をともした切れ長でやや吊り気味だろうか、瑠璃色を帯びた金色こんじきの瞳がとても美しく、鼻筋は高く小鼻はつつましやかであまり見かけない類に属しており、唇は薄めだがやや下のみふっくらしており、自然な撫子色なでしこいろが肌によく映えて居た。それらが品よく収まった顔立ちは、人間離れした高貴さを感じさせた。

治療の行為が胸元に移ると、おなごの膝裏程までもある白練しろねりの髪が華奢な肩口から零れさらさらと腹などをくすぐって行った。

 事を成し、邸へ戻ろうとする命の恩人に昨日の様に逃してはなるまいと声を掛けた。

「少々お待ち下さい」

振り向きはしなかったが、歩を止め話を聞いてくれるようだった。

急ぎ代えの直垂を差し出すと、おなごの衣の繕いをさせてほしいと申し出た。

衣は汚れこそ無いが、所々傷みが見られそれが気になっていたのだ。

「夏とはいえ男臭い直垂のみでお風邪を召してはいけません。艶雲と狐をお連れ下さい。身を寄せれば、多少暖が取れましょう」

近くで草を食んでいた愛馬を呼びその背に直垂と子狐を乗せると、青駒は我が意を得たり、と歩を進め、卯の花色の衣の袖を軽く咥え引く。するとおなごは艶雲と狐を従え邸へと戻ると、しばらく後、着ていた衣と組紐帯が蔦の隙間から放り出された。

それを拾い上げ裁縫道具を取り出すと、裏地で補強を施したり糸で裂けた部分を綴じていったりと、こまめに作業を進めていった。

(もしもの為にと、それなりの絹糸や絹布を持ち歩いているが、これらは何から作られているんだ?私が知る限りこれ程まで質の良い布は見た事も聞いたこともない)

それでも傷んだままよりはと、一通り繕いを終え折り目を正して畳むと、邸の前に置き一声かけて、男は元の位置に戻った。

中から柳の枝を思わせる細い腕が伸び、衣を掴むと引っ込んでしまった。しばしして、艶雲が直垂と子狐を背に己の主の元へと戻ったのだが、子狐はしきりに自分の口の周りを舐めまわしていた。

「何だお前、さては、抜け駆けして、旨いモノでも食わせてもらったな?」

毛の玉を馬上から抱き上げにこやかに笑うと、その様子を見て居た愛馬はどことなく所在なさげだった。

「ん? お前もか~?」

狐の仔を懐に入れ首を下げる青駒の額に自分の額を合わせ笑みを深めた。

「罰として、夕刻まで鍛錬だ」

まだ鎧を着けるには早い、直垂のまま、まずは身体の筋を十分に伸ばし、木に登り、川の流れに逆らって歩き、筋力を付け、険しい山中を走り抜けと続けた。

艶雲も木にこそ登りはしなかったが、その他には従い、後半は馬装をしないまま主を背に乗せ、西方の道を襲歩 (しゅうほ)で上がり下がりを続けた。

申の刻に鍛錬を切り上げ下馬し、子狐の鼻を頼りに果実を集めると共に、枯れ枝を拾っていく。

久し振りに身体を動かしたので疲労感はあるが、爽快だった。愛馬の足取りも軽い。

萌葱の都、(男が便宜上自然に構成された空間をそう名付けた)に戻り、馬の脚の泥を落とし蹄の手入れをし、男は邸の近くへ行くと居住まいを正した。中からはここの主のおなごの気配がする。

「命をお救い下さった貴女様に事の顛末をお話ししなくば、義と礼を損じます」

聞いているのか居ないのか、分からないおなご相手に、先の戦について語っていった。


次回更新は、 2019月3月6日18時 です。

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