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第一章:芽吹き(2ー1)

翌日男は早朝に泉で身を清め、身に付けていた直垂を洗っていたのだが、彼は知らない、その一部始終を気配を消したおなごに見られていた事を。

(始め見たときは縦にばかりひょろ長い男とおもうたが、手足が長く顔も小さい顎下に醜い塊もついておらぬ。首から肩・腕にかけて、尻から腿の筋の肉なかなかじゃ、特に背中と胸がよう発達しておる。どれもこれもこの国のニンゲンにはあまり見かけん部類じゃ、我が両手を広げても抱えきれそうにないの。無駄な肉も一片も付いておらぬようじゃ)

洗い上げたものに染みが残っていないかと、男が身を起こし、確認していると、健康的で張りのある赤白橡あかしろつるばみの肌の上をその耳元から首筋胸元へと水滴が伝い落ちていくその様は大人の男の色香を匂わすものだが、おなごは一向気に留める様子はなかった。

泉から出風通しの良い木陰に洗い上げたものを干すと、治癒の力があると思われる湯の泉に半刻身を沈めた。

卯の刻半を迎え男は愛馬の馬衣ばきんを取り出して折り畳み、己の腰に巻きつけ同時に愛馬の手入れ用に持ち歩いている藁を取り出すと、それを元に縄をよりよった縄を両足の親指に掛け何かを編み上げて行くと、その腕の動きに合わせ広い背中の筋肉が滑らかに隆起を繰り返していった。弓馬に明け暮れ所々皮は厚くなり節高になってはいるが、大きな手と長く整った指が器用に動き、見る間にしっかりとした草履が仕上がり、最後に鼻緒の部分に絹布を巻き、擦れて足の指が傷つかない様、施して完成だ。

 艶雲へと目を向けると、昨日のおなごがしきりに愛馬と子狐を撫でて居た。驚かさない様に観察をしてみると、やはり、草履を履いていなかった。花珠真珠の肌の足には傷こそ付いていないものの、やはり素足というのは心許なく、身に付けている衣も卯の花色うのはないろの小袖と単衣の中間の様式をしたものに同色の組紐帯。

背丈は五尺七寸程度(170cm)か、男が六尺余り(190cm)なのでさして差は無さそうだ。

一般のおなごは四尺(120cm)武者達は五尺に足りない(145cm)ばかりだから、かなりの長身と言っていい。

凛と背筋を伸ばしたその立ち居姿は若竹の様に細い中にもしなやかな風情を醸し出していた。

さて、と気を取り直して声を掛けた。

「艶雲がお気に召したのですか?」

普通のおなごなら、この馬に近づこうともしない。武者の馬というだけで、荒馬と恐れるのだが、男の愛馬の場合は意味合いが違う。この国の馬は平均して、肩丈4尺3寸(130cm)・衡も9大両(340kg)程度、対し、艶雲は肩丈6尺7寸(2m)・衡1大斤と10大両(1t)を超える上に毛色も青駒、目色・鬣・尾・距毛けづめげ蹄は鈍色。

のんびりと近づく男に、檳榔子黒びんろうじぐろの馬体を摺り寄せ、甘えようと曲げた首筋などに光が反射すると、花紺青はなこんじょうに輝く。

主を信頼しきっている瞳、もっと甘えたいと前掻きする蹄、そのたびにふぁさりふぁさりと揺れる距毛・鬣・尾の色合いは、研ぎ澄まされた鋼の矢尻を連想させたが、必要以上に切り整えられていない踝(ぱっと見ると肘に見える所)辺りまで緩やかに伸びた豊な鬣と尾の印象からなのか信頼を寄せる男へ向けられる子犬の様な無邪気な瞳の影響なのかその巨大は青駒からは威圧感と言うものは一切感じられなかった。

様子を見て居たおなごがひとこと、「この様に偉丈夫な男馬我は初めて見た」と呟いた。


次回更新は、 2019月3月2日18時 です。

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