シーマニア
色々と準備する必要があると言って、それからしばらくは、食事と下の世話以外の時間は、彼女の姿を見ることが無くなった。日本語で謝る彼女を、私は直視してられず、ふぃと首を傾けるだけだった。まだまともに喋れない私は、彼女の魔法か、仕草でしか想いを伝える術がない。それがひどくもどかしく、そして、ある種救いでもあった。
(問題を先延ばしにしてるってのは、わかってるんだけど……)
彼女とどう向き合えばいいのか、それがわからない。今まで通り、流されるように受け答えしようにも、彼女の目を直視できない今、それが上手くできない。
(どうなっちゃったんだろ……)
いっそ、前世の記憶も全て消えて、ただの赤ん坊になれれば楽なのにと、最近ようやくできるようになった寝返りで身体を起こしながら思った。
「あ……あぁー」
無意味に声を出す。だが言葉にしようとすると、なかなか舌が回らない。きっと、もう少し努力して、喋ろうと訓練すれば、今頃簡単な台詞は話せるようになっただろう。それが日本語だとしても、専ら会話する相手は決まっているし、その相手にだって日本語が通じるようになったのだ。話せるに越したことはない。
(だというのに、ね……)
喉はそれ以上、震えることがなかった。まるで喉が呪われてしまったかのように、言葉を紡ぐという行為に繋がらない。
「あ……あぁあぁあああ!」
無理矢理喉から絞り出す声はしかし、言葉にはならない。まだ歯が生え揃ってないからか、構内の筋肉が未発達だからか、それとも……。
「ゔぁ、ゔぁ、あ!」
心配した魔女が駆けつけるまで、私はずっと、濁った声を出し続けた。