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ジンジャー

あなたは何も知らないのだと、魔女は言った。

「あなたを求める人がいるかもしれない。あなたが寄り添いたい人がいるかもしれない。それを知る前から諦めてしまうだなんて、あまりにも早計だとは思わない?」

人は結局、誰かのために生きるのだと、彼女は言った。

「自分の快楽のためだけに生きてる人って少ないのよ。自分以外の何かに寄る辺を作って、それを支えに生きてる。あなたはまず、その寄る辺を探さないとね」

言葉がスッと入ってくるのは、何故だろうか。ふと、耳を塞いでみた。彼女の声は聞こえない。

「ふふっ……日本語、だっけ。覚えちゃった♪」

彼女が悪戯っ子のような笑顔でそう言う。どうりで、彼女にしては堅苦しい単語が多いと思った。

「それって今までの私が馬鹿みたいじゃない」

違うんだと、首を振る。ただ単純に、日本語の語彙は他国語を圧倒的に凌駕する多様さがあるというだけだ。

「確かにそうね。同じ意味でも色んな言葉があったり、似た言い回しでもまるで違う意味だったり。面白いわ」

楽しそうで何よりだが、実際に使うとなると面倒で複雑なんだ。

「とにかくね」

くいっと、逸らした顔を前に向けられる。形のいい唇の隙間から、チラリと舌が覗く。

「あなたには今後、色んな人と関わってもらいます」

真剣味を帯びた瞳が向けられる。ふざけて言っているわけではないのは、一目瞭然だ。ただ、それが実現可能なのかと、それだけが引っかかる。だが彼女はそんな私の疑念をかき消すように、やけに明るい声で。

「今度、街に行こう!」

決定事項としてそう告げる彼女に、私は不安だけが募っていく。街に行ったとして、魔女である彼女が往来を歩けるのだろうか……?そんな不安を抱くも、喋ることに夢中だった彼女が魔法を忘れていたため、こちらの思いは伝わらなかった。


私にも、誰かと親密だった記憶はあるし、好きな女の子はいた。小学生の頃は年相応にやんちゃで、走り回って怪我もしたし、水たまりに飛び込んで風邪も引いた。セミ捕りが好きで、学校が終わったら速攻で網を引っ掴んでは、木に留まったアブラゼミを大量に捕獲したりしてた。クマゼミはレアモノ扱いで、よくアブラゼミ何匹と交換、なんて取引していたっけ。今思い出せば、よくそんな遊びが出来るなと信じられない気持ちになる。高校生ぐらいからはめっきり、セミはおろかカブトムシやクワガタでさえ触れなくなった。何故か人とあまり喋らなくなったのも、同じぐらいの時期だったように思う。

段々と出来ていたことが減って、やらなきゃいけないことばかりが増えてゆく。自分だけが取り残されて、出来損ないだと理性が貶す。そして何度も何度も迷って、反抗して、頑張って、失敗して、そしてーー死ぬことを選んだ。

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