表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/13

アプリコット

「当てもなく放浪するって、想像以上に辛いし苦しいよ」

私を抱きながら、ゆらゆらと揺れる彼女は、突然そんなことを言い出した。

(いきなりなに……?)

微睡みに任せるまま、視界を閉じかけていた瞼を持ち上げる。

魔女は私をあやすように揺れながら、何でもなさそうな口調で続けた。

「曖昧な目的で、目的地もなくて、そもそも存在するかもわからないものを求めて旅をする。そんな先の見えない生き方は、心が荒んでく。期待をいくつも裏切られて、騙されて、共感して助けてくれる人もいない」

これは、先日のことと繋がってるのか。いつの間にか忘れてしまうような戯言だったのに。

「私達魔女でも、死んだことはない。一度死ねば終わり。そこから先なんて無くて、精々が死体を利用されたりするぐらい。貴方より何倍も生きてる私でも、死を知る人なんて聞いたこともない」

(そういや聞いたことなかった……。魔女って、どれだけ生きられるんだ?)

無遠慮に年齢を聞くような愚は犯さず、訊ねる。すると彼女はくすりと笑って。

「私は240年ぐらい生きてるよ。他の魔女は……知らない」

二世紀以上も。江戸幕府が260年続いたらしいから、それに匹敵するぐらい生きてるってわけか。流石は魔女、と言ったところだろうか。

(女性に年齢は失礼かと思ったのに)

「魔女にとって年齢に大した意味は無いよ」

人間とは感覚が違うということだろうか。私なんかよりよっぽど人間らしいのに。

「まぁでも、この世界を色々見るのはそれで楽しいかもね。今度連れてってあげようか?」

ニコニコと楽しそうに笑みを浮かべる彼女は、しかしその目にうっすらと涙を浮かべていた。

(いや、…………)

私は何も言えなくなる。こんな表情を見せられて、それを隠そうとする彼女に、私は言い様のない胸の締め付けを感じる。これが肉体的な痛みではないことは、愚鈍な私でもわかった。


一体どうすればいいのだろう。

私は今もこうして、死に損なった心を抱えたまま生きている。何故死なないのか、死ねなかったのか。それは私を拾い、育てている魔女のせいだろう。

魔女は魔法で私に語りかけてくる。おはよう、今日はいい天気だね、ごはんおいしい?他愛も無い日常会話のために、わざわざ魔法を使う。こんな根暗な死に損ないと話して何が楽しいのか理解に苦しむが、だがそんな彼女の言葉を、無視することが出来ない。

嬉しいのだろうか、自分は……。

彼女と話せることが。彼女の笑顔を見ることが。だから生き恥を晒してまで、こうして死から逃げているのか。

それとも、ただ自分の生殺与奪を放棄して、彼女に預けて楽をしているだけなのか。

わからない、わからない、私は私が、一番わからない……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ