ホワイトポピー
短いですが、更新させていただきました。テーマが難しいので少しずつですが、書き続けていこうと思っています。
赤子の身体は酷く時間の感覚が曖昧だ。朝の決まった時間に起きて、夜疲れに任せて気絶するように眠る生活を何年も続けてきた。そんな私には、数時間も起きていればいつの間にか寝ていて、お腹が空いたら起きるという、肉体の欲求に抗えない生活が、生きている感覚を希薄にする。一日のほとんどを睡眠に費やす生活だ。睡眠は死に似ている。夢を見るのは起きるときの数分。ほとんどがノンレム睡眠という、完全に意識が途切れている時間だ。前世の終わりも、苦しくはあったが、いつもの睡眠も瞬間とそう変わらなかったことを思い出す。走馬灯なんてのも過ぎらなかった。
だから私のとって睡眠とは、死ぬことと変わらないのだ。
(そうか。私はこれまで、幾度となく死んでいたのか)
私以外にも死んだことがある人に出会えたら、話を聞いてみたい。私と似たような感覚だったのか、それともまるで違う感覚で、走馬灯だって見れたのか。私以外にもこの世界に流れ着いた人はいるかもしれないし、意外とそれを探すのも楽しいかもしれない。
(なんだか皮肉だけど……)
ようやく、私が生きる尤もらしい動機が出来た気がする。
「死んだことある人を探すなんて。途方も無いことを考えるわね」
頭の中に、彼女の声が響いた。ずっと繋がっていたのは朧げながら感覚でわかっていたが、ずっと話しかけないでいたのは、何かやっていたのか。それともただ無視していたのか。
(途方も無いこと、か。でも可能性はゼロじゃないだろう?)
「そうね。存在自体はしてるんじゃない?あなたみたいに生まれ直してるとか、そもそも不死……死んで、生き返ることを繰り返してるようなのも」
(不死なのに死ぬのか?)
「結果的には死んでないでしょう?この世に魔女は私だけじゃないらしいし、不死の魔女なんてのもいるんじゃない?」
そうか。魔女は彼女だけじゃないのか……。いや、魔女なんて俗称がある時点でなんとなく他にもいるんだろうとは思っていたが、確証があるわけではなかった。魔女が彼女個人につけられた二つ名または別称である可能性もあったからだ。
「あら、興味湧いた?」
(ん、少しだけ……ね)
彼女以外の魔女にも会ってみたいと、少しだけ興味が湧いたのは事実だ。だから死ぬわけにはいかないと思える程の決意は出来ないが。
「ふぅ〜ん……」
感情の見えない生返事を返し、こちらにすっと手を差し出すと、そのまま頰をムギュッと挟まれた。両側から手のひらでむにゅむにゅと押され、赤子相当の肉付きで跳ね返す。こうしてやられてみてわかったが、これ鬱陶しい。子どもにこういうことよくやる親がいるが、あれやめた方がいいんじゃないだろうか。嬉しそうにしてる子どもも見かけるが、内心どう思ってるんだろうかね。
「あら、もう眠くなってきた?」
(あぁ、どうもな。最近身体も動かせるようになってきたし)
動けるから動く。すると疲れる。疲れると、眠気が一気に来ることがある。
「おやすみ」
(ん……)
意識が閉じるその寸前、額に何かが熱いものが押し付けられた気がしたが、それに反応することは出来なかった。