ホテイアオイ
「もう疲れた?」
顔を覗き込まれて、ふいと首を反対に向ける。
食事の後、うとうとしていたことがバレていた。隠していたわけではないが、何故か恥ずかしい。
「赤くなってる。珍しい」
彼女にとってもそれが意外らしく、驚いたような声音で目をぱちぱちしている。私からすれば、そんな彼女も何処かいつもと違う。何というか……。
「やっぱ来て良かったよ。タイミングもばっちしだしねぇ。知ってる?明日からお祭りなんだって」
どうりで人が多いわけだ。
「私もこんな賑わってるのは初めてだからねぇ。昔はお祭りを見て回れる程、安全じゃなかったし」
昔のことを語ろうとはしない彼女が、ここに来てポツポツと溢すようになった過去の記憶。それがやけに貴重な気がして、私は頭の中で繰り返し再生して、脳に刻み込んでいった。
彼女が楽しそうに笑うたびに、不安が大きくなっていく。それが嘘の笑顔だとは思えない。ただ、一つ一つ、一秒一秒噛み締めているように思う。脳に焼き付けるように、真剣に生きている。それが私には、酷く眩しくて、後ろめたい。
「………………」
「あれ珍しい鳥だね。君の国にいた孔雀みたいだ」
見世物小屋を覗く彼女の目は、本当に楽しそうで、童女のように輝いている。長くあの森で暮らしていた彼女には、物珍しいのか。懐かしいのか。
「これどこの鳥なんだろ。えーっと、東オリオ?どこだっけ」
「ここから北にずーっと行った国だよ」
声に振り向くと、いかにもおしゃべり大好きといったマダムが腰に手を当てていた。
「北なのに東?」
「あははっ!まぁここから見れば北だけどね。オリオール峡谷っていうでっかい谷で、東西に分かれててね。元は同じ国だったらしいんだけど、文化とか色々違ってきたからって、分かれちゃったのよ」
「へぇ〜。遠距離恋愛してたら別れちゃったみたいな?」
「面白い例えだねぇ!なんか違う気するけど」
「確かにそうかも」
「「あははははっ」」
初対面で楽しく談笑する彼女らは、声を上げて笑った。
(………………)
女性というのは三人いれば姦しいと言うが、二人でも十分だ。何より、私といた頃はこんな笑い方しなかった。というか少し話し方が変わってる気がする。言葉がわからないので何がどうと言えないのだが。
談笑を続ける彼女は、森に隠れていた魔女とは思えない程溶け込んでいる。
ふと、周りにも目を向けると、歳の離れた男女や、髪の色の違う女性同士など、様々な人々が、それぞれで談笑したりしている。誰もかれも、祭りの雰囲気に当てられてるようだ。
初対面の屋台の店主と親しげに話すなんてのは、祭りならではの異常なんだろう。
「じゃ、また会ったら面白い話聞かせてあげるよ。旦那の愚痴とかね」
「うふふっ。私で良ければ」
会話に区切りがついたのか、私を抱え直す彼女を、じっと見つめる。
不思議だった。彼女が会話の終わりに見せた、極々自然な苦笑い。それに何故か不安を抱く、私自身が。




