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アキノノゲシ

「はーっ、食べた食べた」

 お腹をさすり、ゆるく微笑む彼女を眺めつつ、私は周囲をぐるりと見回す。テーブルと、そこに並べられた料理。そしてそれを口に運び続ける人、人、人。食器の音と数多の会話が空気を震わせ、静寂に慣れきった耳を蹂躙してくる。

「よかったよぉ〜。離乳食も作ってくれたし。これも美味しかったし」

 聞き慣れない言語が飛び交う中、彼女の日本語だけが鮮明に聞こえる。それが酷く違和感があって、まるで映画の中に自分達だけが紛れ込んでいるようだった。

 食堂を出た私達は、その足で服を買いに行った。旅着のままだったので、汚れや傷みが目立つ。

「郷に入っては郷に従え、だっけ」

 ちょっと違う。だが、この賑やかな街で薄汚れたまま往来を歩く子連れというのは酷く目立つ。溶け込むためにも、服を変えるのは賢明だろう。

「似合う?」

 薄緑のブラウスにベージュのスカートという、ありふれた装いを見せつけてくる彼女に、私はそっぽを向いて返した。その褐色に肌に、その服装は絶妙に似合わない。だがそれをうまく伝える術はない。

 結果、拒否である。

「無愛想だなぁ」

 そう笑う彼女から、奇妙なものを見る目で料金を受け取る店員。ずっと日本語で私に話しかける彼女は、ハタから見れば、「異国語を赤ん坊に向けて喋り続ける美女」という奇妙極まりない様相だ。しかも赤ん坊は一言も発さないのである。これで、見た目からして浮いてればまだ旅行客としてすんなり納得できたのだろうが。なまじ服装がこの街のものの上、髪や肌色はこの国でもあまり珍しくない。だからこその注目だった。

「さて。だいぶ休んだし、夜まで観光しようか」

 正直、食後のため既に眠い。ずっと抱かれて運ばれてるだけとはいえ、疲れはするのだ。主に目が。キョロキョロと見慣れないものに自然と動く眼球は、首と肩まで連れてこうとするので、この歳にして肩こりしそうな怠さがきている。

「明日は忙しいからね。今日のうちに楽しませてね」

 彼女の中では、一体どんなスケジュールが組まれているのか。それを小出しにするところがいやらしいというか、不可解というか……。

 結局この後は、氷菓子や焼き菓子といったスイーツにはしゃぐ彼女を、ただうつらうつらとしたまま眺めていた。どこの世界でも、女性は甘いものに惹かれるのだなという、疲れた高校生のような感慨を、揺蕩わせながら。

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