スイートピー
朝日を浴びて目覚めると、既に森を抜け、舗装道を歩いていた。砂利が敷かれ、通商路として整備されているようで、かなり立派だ。柵で馬車の通る道と人が歩く道が分けられており、そのため歩道は狭くなっている。
「ここら辺は人通りが多いね。久々だから驚いたよ」
昔はこんな道なかったよ。と呟く声に耳を傾けながら、車道を通る馬車を眺める。車体が防腐剤でコーティングされ、車輪もゴムらしき黒いものになっている。やはり道を見ても思ったが、技術水準が高い。明治時代ぐらいの日本か、それ以上だ。流石に車や飛行機、ビルがあるわけじゃないようだが。
「これなら昼頃には着くね。何食べよっか」
楽しそうに笑う彼女の顔からは、それ以上の感情を読み取れない。これが天然で言ってると安心できれば、私も「離乳食じゃないと無理だぞ」なんて突っ込めたんだが。
「肉はあまり好きじゃないんだよねぇ……果物とかいいな。オルゴとかパッピスとか」
オルゴは赤い皮で、中が黄色い果肉の果物だ。果汁が多く甘いのだが、真ん中にある種の近くは酸っぱくなっている。食べたことはない。
パッピスは刺だらけの果実で、割ると白い果肉が出てくる。クリーミーな甘さで、よくスープにも使われるようだ。私も離乳食で食べたことがある。
「あっちはオルゴが無かったからね。パッピスはあったけど、滅多に採れなかったし」
胸をそれこそ弾ませる彼女に抱かれ、街への道を行く。未だ名も知らない街だが、少しだけ楽しみなような、気のせいのような、そんな心地がした。
街は鉄製の柵で覆われており、衛士が検問を行なっていた。
「あっちは車だけだからね。歩きの人はこっちかな」
検問は昔もあったから。と言って、歩行者用らしき小さな門に向かう。そこで名簿に名前を記入し、顔写真を撮って、手続きは完了だ。ふと、未だ彼女の名前を知らなかったことに気付く。
「ん?なに?」
くいくいと襟を引っ張り合図するも、しかし彼女は魔法を使う様子がない。
この旅の中、一度も魔法を使わない彼女。怪訝には思っても、そういう気分なのかと流していたが……。何かあるのか?わからない……。所詮、私に彼女の内心を察する能力はない。
「お腹減ったね。何か食べようか」
そう言って微笑む彼女に、私は何も言えない。それがもどかしい。
「離乳食って売ってたっけ」
そう呟きながら歩く彼女を、ただ眩しげに眺めるだけ。ゆっくりとした歩調に眠気を誘われるまま、私は考えるのをやめた。もう、このまま全て任せよう。足りない私が愚考を巡らせたところで、何も生まれないし、変わらないのだから。




