カリオーネ
翌日、サドルの森の出口まではスレイに乗ってきたけどスレイとはここでお別れだ。
「スレイ、今までありがとね。また乗ることがあったらよろしくね。」
首を撫でて別れの挨拶をする。スレイはブルブル嘶いてて返事をしてくれてるみたいだ。
「呼び出した幻獣に声を掛けることはしたことがないが、こんなに喜ぶのなら声を掛けてやるべきだな。」
ディーも笑いながらスレイの背中を撫でている。やっぱりスレイは嬉しそうだ。
「世話になったな。しばらく呼ぶことは無さそうだが、次も頼む。」
そう言うとディーは片手をスレイにかざし、何か呪文のようなものを唱えた。するとスレイの輪郭がみるみる薄くなり、あっという間に消えてしまった。
「いっちゃった・・・」
呆気なくいなくなってしまったからだろうか。寂しいと思うこともなく、不思議な気持ちで見送った。
「んじゃ、俺は先にカリオーネまでひとっ走りしてくるわ。二人はのんびり来てくれよ。何かあったら連絡するよ。」
そう言ってテオは馬で駆けていって行ってしまった。
と言うわけで今は二人で行動してる。荷物はほとんど馬に乗せてもらったけど私の手荷物は無くすと面倒なことになるので自分で持っていく。
高校の制服で行動するわけにもいかず私の服はこちらで用意したものを着てるんだけど、これがなかなか自分では似合ってると思うんだよね。
上は綿素材で胸元がVラインの長めのシンプルなシャツを腰のところでたくしあげて、ベルトで固定して短めのワンピースみたいにして着てみた。ベルトの上からはウエストポーチみたいな小物入れも着けている。下は動きやすいズボンをはいて裾を編み上げブーツの中に入れている。フード付きのマントを羽織れば見た目はすっかりこの世界の住人だ。背中に背負ったリュックは通学用の物だけどマントで隠れてるから大丈夫だろう。
「昼頃には街に着く。ここからはモンスターも出てこないだろうからのんびり行こうか。」
ディーはそう言うけど、二人きりで行動することがあまりなかったので少し緊張する。だってディーは基本あまりしゃべらないんだよね。何か沈黙が続いて間が持たない。
(んー。どうしよう。今まではテオが居てくれたから会話に困らなかったけど・・)
なんとなく居心地が悪くて黙って下を向いて歩いていたら不意に体を引き寄せられた。(いきなり何!)
見れば側を荷馬車が過ぎていくところで・・
「危なっかしいな。ちゃんと前を見て歩けよ?疲れたのか?元気が無いようだが。」
ディーが心配そうにこっちを見ていた。
(あぁ~。やっちゃった。いつも涼太に注意されてたんだよね。“ゆき、ちゃんと前見ろよ“って。)
「ごめんなさい。ちょっとボーッとしてた。」
涼太の事を思い出して気分が少し落ち込む。こんなことでいちいち落ち込んでても仕方ないんだけど、やっぱり涼太の無事を確認したいし何より会いたい。
「何か・・思うことがあるんだったら何でも言ってくれたらいい。無理にとは言わないが・・黙っていられるとわからないからな。」
優しい顔でそう言うとスッと歩き出したディー。無理に聞き出そうとしないで私の気持ちを優先してくれたことがとても嬉しかった。
(うん。今考えても仕方ない事で落ち込むのはやめよう!涼太は絶対に無事だし、私は日本に帰るんだから!)
先を行くディーを追いかけその腕をとる。少し驚いた顔をしたその人に
「ごめんね、心配かけて。もう大丈夫!さぁ。張り切って進むわよ!」
ニッコリ笑ってその腕を引っ張り歩き出す。
「フッ。そんなに急がなくてもいい。どうせテオと合流してから町に入るんだ。だが、ゆきはその方がいいな。」
そう言ってディーは綺麗な微笑みを返してきた。(うわぁ・・破壊力抜群だぁ。)見慣れてきたとは言えこりゃダメだ。サッと目線を外してついでに腕も離す。不自然だったかも知れないけど、とても直視出来ない。
「ち、ちゃんと前を見て歩かないとね!」
それらしい理由も言ってみる。
(はぁ。。いつになったらあの笑顔に慣れるんだろう。いつまでもこれじゃ失礼だよね。何とかしないと・・)
一人でぶつぶつ言いながら歩いてたら次ぎは肩を掴まれた。
「おい!ホントに大丈夫か?体調が悪いんじゃないのか?」
へっ?どうして?
そう思ったけど前を見て良くわかった。私は道から外れて草むらへ足を踏み入れていた。どうやら考え事をしだすとまわりが見えなくなるようだ。
「アハハ・・大丈夫だよ・・・って説得力ないよね?」
流石に自分でも呆れてしまう。前を見て歩くって宣言したばかりなのに、これはマズイ。案の定ディーが私の顔を覗き込んでくる。(だーかーら。近いんだってば!)どうやって言い訳をしようか考えてたら
「どうかしたのか?」
街道を行く馬車から声を掛けられた。御者台には人の良さそうな逞しい体つきの男の人。荷台には少し目付きの悪い小柄な男の子と何とも艶っぽい女の人が座ってこっちを見ていた。三人とも日本人よりはっきりした顔立ちで瞳の色も髪の色も茶色ぽかった。
「座って顔を伏せてろ。」
ディーは私にだけ聞こえるように言うとフードを深く被せてきた。あわてて座り込み顔を伏せる。
「連れが疲れただけなので何でもない。少し休めば良くなる。」
自分もフードを被りながら私を隠すように後ろを振り返りそう言ったディー。
(何で隠れなきゃいけないの??)
良く状況はわからないけど、私を隠そうとしてることはわかった。
「そうか?俺たちはカリオーネまで行くんだが、良かったら乗っていくか?」
人の良さそうな男の人のが親切に声をかけてくれるけど、私の調子は別に悪いわけでない。何だか申し訳ない気持ちだ。
「いや。もう一人連れがいるんだ。そいつを待つからここにいることにするよ。せっかく声をかけてくれたのにすまないな。」
「そんなことは気にすんなよ。でもカリオーネまではもうすぐだが、歩きだとお連れさんが辛くないか?。」
御者の男の人はまだ放っておけないみたいで食い下がってくる。そしたら
「いいって言ってんだからほっとけよ。こんな怪しそうなやつらに関わったらロクなことないぞ。」
荷台から機嫌が悪そうな男の子の声が聞こえてきた。
(怪しそうって・・ちょっと酷くない!)
思わず顔をあげそうになったとき遠くから馬の足音が聞こえてきた。
「おーい!ディー!どうしたんだ?」
この声はテオだ。もう帰ってきたんだ。顔を少し横へ向けてその姿を見る。
「あれ?ゆきはどうしたんだ?」
馬から降りてテオが慌てて私の方へ近づいてきた。そして警戒するようにディーと私の間に立つ。
「ほら。連れが来たんじゃねーの?こっちは急いでるんだ。俺たちは先に行こうぜ。」
荷台の男の子がさも面倒くさそうに御者の男の人に声をかける。
「お前なぁ、そんな言い方するなよ。でもまぁ馬があるなら大丈夫だな。」
御者の男の人は男の子を呆れたように見てそう言った。
「急いでるところ、足をとめさせて悪かった。心づかい感謝するよ。」
ディーはさして気にしていない様で御者の男の人にお礼を言っている。
「いいってことよ!旅は道連れって言うだろ?困ってるときはお互い様さ。」
ニカッと笑う男の人。その後ろから
「お人好し。」
「ねぇ。早く行かないとホントに間に合わないわよ?ほっときなさいよ。」
荷台の二人は言いたい放題だ。
「お前らなぁ・・わかったよ!仲間がいろいろ言って悪かったな。じゃあ俺たちは行くよ。」
馬車の上で3人はギャーギャー言い合いながら遠ざかっていった。
「何なんだ?あれ?」
テオは警戒を解いて馬車を見ながらディーに話しかけた。
「恐らく冒険者だろう。ゆきが体調が悪そうだったから馬車に乗せてやると言ってきたんだ。」
「えっ?ゆき、体調悪いのか?」
テオが驚いてこちらを振り返った。
「違うの!全然悪くない!ちょっとボーッとしてただけなんだって。ディーが心配しすぎなんだよ。」
私の不注意でこんなに大事になるなんてホント申し訳ない。あの人達には悪いことをしちゃったなぁ。
「ふらふら歩いてたんだ。心配だってするだろう。ホントに大丈夫なのか?」
いつの間にか距離を詰めていたディーが私の顔を覗き込んでくる。
(んー、ディーにも心配かけちゃったなぁ。もっとちゃんとしないと・・)
「大丈夫だよ。ホントごめんなさい。ところで、何で私の事を隠したの?」
話題を変えたくて気になってたことを聞いてみる。
「あぁそれはなー」
ディーの話によると、最近カリオーネの街で盗難・傷害事件が多発していて、その犯人像の一人として黒目黒髪の女があがってるらしく・・・
「えぇ~!!わ、私じゃないよ!」
そんなこと当たり前なんだけど、叫ばずにはいられない。
「あぁ?ゆき、何言ってんだ?そりゃそうだろ。事件は半年くらい前から起こってて、今も犯人は捕まっていない。髪色は変えれるから信憑性が低いけど、瞳の色は変えれないからなぁ。黒目っていうのは間違いないんだろな。」
テオが赤茶の瞳をこちらに向けて私の目を覗き込みながら言った。
「今、カリオーネに入ると面倒なことになりそうだよなぁ。ディー、どうする?」
テオが先に町まで行った理由はこれだったんだ。でも、黒目黒髪ってそれだけで怪しまれるものなの?他にも沢山いそうなもんだけど・・
でもそういえば私みたいな黒目黒髪の人って会ったことないかも。少なくともコーリン村にはいなかった。みんな茶色い瞳に茶色の髪の毛だったような・・
ここでひとつの答えにたどり着く。
「ねぇ。もしかして黒目黒髪って珍しい?」
「ああ。この辺りでは珍しいな。もっと東に行けばそういう人種もいるんだが、大陸の中央ぐらいまで出ないとなかなか見かけないな。」
ディーが少し困ったように答えた。
(うぅ~、そうなんだ。これってマズイよね。私のせいで町に入れないんじゃ・・・
!!そうだ!いいのがあるじゃん!)
この問題を解決できるあるものを背中のリュックを降ろして探し始める。急に荷物を漁りだしたもんだから二人とも驚いてるけどそんなのお構いなしだ。
「えぇ~と、確かここに・・ あった!!
二人ともちょっと待っててね。」
よし!これさえあれば怪しまれずに町に入れるハズ。私は見つけたあるものを手鏡を見ながら丁寧に装着してゆく。
「うん!バッチリ。ねえ、これでどう?」
パッと二人を振り返る。いつもの顔と特に変わりはないんだけど、違うところが一つある。それは瞳の色。私の黒目は綺麗な青色に変化していたのだ。
「おぉー!すげーな!何のアイテム使ったんだよ?」
「これは・・見事なもんだな。」
赤茶の瞳を見開いて私の顔を覗き込んでくるテオと、マジマジと観察するように近付いてくる碧い瞳のディー。どんどん近付いてくる二人に迫られてるような、そんな錯覚に陥ってしまいそうだ。
(そんな近付かなくても見えるでしょ!!っとにこの二人は・・)
サッと身をかわし二人と距離をとる。
「え~っと。これはカラコン、カラーコンタクトと言って瞳の色を変える道具だよ。これでカリオーネに入れるんじゃない?」
何故私がこんなものを持ってるかと言うと、文化祭の模擬店で使う予定だったんだよね。雰囲気を出すために何人か外国人風の格好をしようって話になって、見事私がその大役に選ばれたという訳だ。本当はカツラもあったんだけどそれは学校に置きっぱなしなんだよねぇ。残念だわ。
「これなら怪しまれることもないだろう。髪の毛はフードを被っていれは目立たないだろうし。」
「いや!実は最悪、髪の毛をこれで誤魔化そうと思って用意してあったんだよ。ゆき、これを使え!」
テオが袋から何やら液体が入った瓶を取り出した。トロリと光る琥珀色の液体。一体どうやって使うものなんだろう?
「ファーフェアバングか?テオにしちゃ用意がいいな。何処で手に入れたんだ?」
ディーが感心したようにテオに声をかける。
「ふぁ?ふぁーへ?」
聞き慣れない単語だ。何て言ったの?もう一回お願いします!!
「アハハ!何て顔してんだ。こいつは“ファーフェアバング“略してファーバングって言って色を変えるアイテムだ。普通は鎧なんかの色を変えるのに使うんだけど、今回はゆきの髪の毛に使うってわけだ。」
そう言ってディーに手渡す。
「さぁ。ディー頼むぜ!」
「こんなところで使う代物ではないんだが、そうも言ってられないな。幸い人通りが途絶えてる。今がチャンスか。」
ディーはそう言うと辺りを見渡し街道横の木の側まで歩いていく。そして私を手招きした。
「ゆき、こっちに来てくれ。それで悪いんだが横になってくれないか?」
何がなんだかよくわからないけど、とりあえず言う通りにディーの側まで行き寝転がってみる。
「これでいいのかな?」
物凄く不安なんだけど、一体何をするつもりなんだろ?下から見上げてたらディーがしゃがんで私の頭を持ち上げてきた。そしてあろうことか自分の膝の上に私の頭を置いた。
(ふぎゃー!何で膝枕!)
突然の出来事に体を起こそうとしたら肩を押さえつけられた。
「動かないでくれ。すぐに終わる。念のため目は閉じておいてくれ。」
そう言うとディーはポンっと瓶の蓋を開けて私の髪の毛をすいてきた。もう私はパニックだ。慌てて目を閉じる。程無くして頭に液体をかけられたのか髪の毛が濡れていくのがわかった。
その液体はまるで自我があるように私の頭皮を這っていき髪の毛全体を覆っていく。
目を閉じてるせいか液体が這いずり回っていく感覚がより敏感に感じられて、何とも気持ち悪い。
「っ!んん・・」
思わず声が出てしまい慌てて口を手で押さえる。(やだ!変な声でちゃったよ!恥ずかしい・・ まだ終わらないのかなぁ・・)しばらくすると液体が這いずり回る感覚が無くなってきた。
「もう目を開けていいぞ。」
その声に瞼を開く。ふんわりと頬笑むディーが私を見ていた。
「今回は俺と同じ様な髪の色にしておいた。瞳の色も似ているし、何かと都合が良いだろうからな。」
私の髪の毛をサラサラとすきながら色を確認しているみたいなんだけど、膝枕されながら髪の毛を触られるとか恥ずかしすぎるし!!慌てて膝の上から頭を上げてディーから飛び退くように離れる。
「あ、ありがとう。どうかな?変じゃない?」
って変なのは私の行動なんだろうけど・・ だって仕方ないじゃん。膝枕されるのも男の人にあんな風に髪の毛を触られるのも初めてだったんだから。胸がドキドキして平気でいられない。ディーは悪くないけど・・・ いや。きっとディーが悪い。
少し頬を染めて感想を聞く私を不思議そうに見てたディー。やがて
「あ、あぁ。大丈夫だ。よく似合ってる。」
そう言って立ち上がりまだしゃがんでいる私に手を差し出してくる。
(ダメ!まだ近づかないで!)
その手を取らずにバッと立ち上がる。
「私、鏡で確認してくるね!」
そう言ってディーの横をすり抜けてテオの方へ走っていく。(うぅ。ディーごめんね。早く慣れるようにするからそれまで待ってて!!)
「おぉ!何か別人に見えるな!これでカリオーネに堂々と入れるってわけだ。」
テオが私のまわりをグルグル回りながら嬉しそうに話しかけてくる。私も鏡で確認したけどそれは鮮やかな金色に近い茶髪だった。青い瞳も相まってディーと似たような感じに見える。少なくともこれで疑われることはないだろう。
それから私はディーと一緒にテオが乗ってた馬に乗せられた。テオは「さっきまで馬に乗ってたから。」という理由で隣を歩いている。私としてはディーと一緒に乗るのはさっきのこともあって恥ずかしいから断ったんだけど・・
「ゆき一人で馬に乗れないんだし、ワガママ言うなよ。大体、さっきまで一緒にスレイに乗ってただろ?何が恥ずかしいんだよ?」
テオの容赦ない的を得た発言によりもちろん却下されてしまった。
「ゆきは俺の妹と言うことでいいだろ?万が一ゆきの素性を聞かれた時に説明がしやすい。その為に髪色も似せたんだ。この世界の事をよく知らないのは箱入り娘だからって事で押し通す。」
これはディーの発言だ。テオも「ああ。その方がいいな。」とか言っちゃってるし・・
「それは無理があるよ!むりむり!」
私は全力で訴えたけど二人は全く聞き入れてくれない。挙げ句の果てには
「嫌なのか?」
なんて聞いてくる始末。私の意見はスッパリ切られてしまった。
あのね。嫌とか嫌じゃないとかではなくてね。確かに髪色も瞳の色も似てるけどさ。根本的に顔とか全然似てないし。この人達、自分の顔面偏差値がわかってないよね。私とは雲泥の差があるよ?もしかして腹違いの兄妹って設定?いや、それでも厳しくない?
こんな感じで一人で悶々と考え込んでいるうちに遂にカリオーネの街の入口に辿り着いてしまった。
街を取り囲む高さ5メートル程の石壁、入口には立派な門があり門番であろう人が町を出入りする人達に声をかけている。私とディーは馬から降りて町に入るための列に並ぶ。列と言っても2~3組が並んでるだけなのですぐに順番が回ってきた。
「はい次、 ってさっきのあんたか。ってことはその人が例のー」
「ああ。そうだ。こちらが俺が仕えてるディーランド様だ。二人の通行許可書を頂きたい。」
門番のおじさんにテオは堂々と訳のわからないことを言っている。
(なに?誰って??)
「確かに二人とは聞いていたが・・そちらのお嬢さんは?」
門番のおじさんは訝しげに私を見てくる。
「こちらはディーランド様の妹君、ユキリシア様だ。その様な不躾な視線は止めていただきたい。失礼だ。」
(ユ、ユキリシア?誰それ?私??)
「先触れで知らせておいたハズなんだが、手続きにはまだかかりそうなのか?身分証だって先に渡してあるだろう。あまり妹を待たせたくないんだがな。」
ディーまでもが会話に加わって、私だけ完全に茅の外だ。一体どう言うことなんだろ・・
!!もしかして、私ってばまた一人で考え事してて二人の話を聞いてなかったとか・・・!あり得る・・。どうしよう・・・
血の気がサーッと引いていくのがわかった。
いや・・ここは何となく覚えてる設定に乗るしかない!確か、ディーとは兄妹で、テオはディーに仕えてるってさっき言ってたよね?何故か私まで様付けで呼ばれてるってことは、身分が高い人の設定なんだろう。他はわかんないけど・・無駄にいっぱいしゃべらなかったら何とかなる!
きっと・・
「ユキリシア。大丈夫か?まだ顔色が良くないな。」
不意にディーが声をかけてくる。ついでにいつも通り顔も覗き込むように近付いてくる。
「だ、大丈夫です・・お、おにい・さま・・」
(ダメだってー!!また顔が近いって!そして・・お兄様って!!!こんなこと言ったことないし!!つか、ホントにお兄様って正解?!大丈夫なの??)
下を向いたまま頭で色んな事を叫ぶ。きっと顔は百面相してるだろうけど、バレてないよね?
「ユキリシア様は長旅で体調を崩されている。早く宿に入りたいんだが、何とかならないのか?」
テオがイラついた様子で門番に詰め寄っていく。(おぉ!テオ凄い!何か演技上手くない?)
「お、お待たせしてすみません。身分証も確かなものですしすぐに終わります。何せ今、街は少しピリピリしてましてね。聞いてませんか?例の強盗傷害事件。あれのせいで出入りが厳しくなったんですよ。」
おじさんがぺこぺこ頭を下げながらディーに説明をしているうちに別の人がこちらにやって来た。黒のスーツ姿で眼鏡、七三分けの髪型をしたいかにもインテリな感じの男の人だ。
「手続きが完了致しました。こちらが通行許可書でございます。お待たせして本当に申し訳ございません。私、町長の執事でスムージーと申します。是非うちの町長がご挨拶申し上げたいと申しておりまして、」
(町長?!挨拶!)
「そういった気遣いは無用だ。兎に角、中に入らせてもらう。俺達は“ただの旅行客“だ。いいな。」
ディーはそう言うと私の手を引いてその場を離れようとする。
「では、せめて宿に案内させていただいてもよろしいですか?そのあと街を案内させて頂きます。」
恭しくお辞儀をするけど、何だか有無を言わせない態度だ。てゆーか、町長が挨拶って!一体どんな身分証を見せたの?
「それでは目立ってしまうだろう。ユキリシアも疲れているし後でこちらから・・そうだな。明日の朝にでも訪ねることにする。それで構わないか?」
いかにも身分が上の立場で話すディーに全く違和感はなく、この見た目でこの態度。むしろホントに偉い人に見える。
「かしこまりました。では、主人にはそう伝えておきます。今日はごゆっくりなさって下さい。」
深々と頭を下げるスムージー。何とも美味しそうな名前だなぁなんて失礼な事を思いながら見ていたら、顔をあげたスムージーさんと目があった。
(うっ、こう言うときはどうしたらいいんだろ。わからないよ・・)
とりあえずニッコリ微笑んでみる。するとスムージーは少し目を見開き更に深々と頭を下げてしまった。
(あれ?間違えた?)
もうどうしていいのかわからなくなっていたらディーに手を引かれる。
「ユキリシア。疲れただろう。俺たちは宿に行こう。」
「う、うん。」
私は二人に頭を下げてディーとテオに挟まれながら街の中に入っていった。