始まり 3
結局、涼太がどこにいるのかはわからないままだ。日本にいるのか、アズリズのどこかにいるのか・・ディーの感知出来るネーヴもそんな広範囲ではないみたいで、涼太の反応は感じ取れないらしい。
「とりあえず、ゆきが帰る方法を探しつつ涼太も見つける方向でいくか。」
ディーの提案なんだけど、実際帰る方法も、涼太を見つける方法も私には見当もつかないわけで。。手掛かりを探すにも・・・
「何で私はこの家から出ちゃいけないわけ?」
そう。私はおじさん、もとい、ドルトさん家から出る許可が出ないのだ。何でも私が外に出るには “お守り“ がいるらしく、そのお守りはディーが持ってる。そのディーがここ二週間ほどドルトさん家に来てないもんだから、そのお守りがもらえない。だから私はいつまでたっても家の外に出れない。という訳だ。
「ねぇ、ちょっと庭に出るのもダメなの?」
「ダメだ!この建物の中から出るのは禁止だ。この家はディーの特別製で、地球人が害なく過ごせるようになってるんだ。森で助けられたとき熱が出たのは雨だけのせいじゃない。ここの空気のせいなんだ。だからダメだ。」
ドルトさんは怒ったように捲し立てる。いや。怒ってる。んー。わがまま言っちゃったから呆れられちゃったのかな。。
「ごめんなさい。わがまま言って。 もう言いません。」
シュンとして謝る。私のために注意してくれてるのにわがまま言っちゃダメだよね。
「あー。すまん。きつく言うつもりじゃなかったんだ。ディーもそろそろ来る頃だ。もう少し待っててやってくれよ。」
ドルトさんは頭をかきながら明後日の方向を向いている。何だか可笑しくてつい笑ってしまった。
「何で笑うんだよ。大体、ディーがしばらく家に来てないのはゆきのせいでもあるんだからな。」
・・・
そうかもしれない。
実は。最初に話し合ったあの日、あのあと仕切り直そうとドルトさんとディー、私とで食事の続きをしてたんだけど。
「そう言えば、ドルトは何で謝ってたんだ?」
ディーが忘れてたあの話を蒸し返してくる。あの話・・ 私がドルトさんに下着姿を見られたって話 だ。
(何で今頃聞いてくるの?そんな話忘れてほしい!!ドルトさん。また上手く誤魔化して!)
私は心の中でそう叫ぶ。結果は、
「そ、それは・・まぁ、ゆきと二人だけの秘密だ。」(それ、誤魔化してない!)
「何なんだそれ。そんなに隠されると余計に気になる。」(気にしないで!きれいさっぱり忘れて下さい!)
ディーが私をジーッと見てくる。綺麗な顔で探るように見つめられて・・(いや!ダメ!陥落してしまう!)
バッと思いっきり目をそらす。感じが悪かろうが何だろうが構わない。お願いだからその話はもうやめて!!
「何だぁ。そんなに気になるのか?」(いや。もうやめようよ。)
「ふん!少し心配してやっただけだ。」(何を??)
「何だよ?」
「どうせドルトの事だから着替えてるところを覗いたとかそんなことなんじゃないのか?」
「!!!!」(ギャー!!)
「覗いただぁ?人聞きの悪いこと言うんじゃねーよ!俺は覗きなんてしてねぇ。大体なぁ!」
「脱がせたのはお前だろうが!!」
「えっ??」
「ん?」
「あっ!」
三者三様の言葉。時が一瞬止まった。そして一番早く動き出したのはドルトだった。
「あ、あ、いや、何かすまん。ゆき。」
何に対して謝ってるのかさっぱりわからない。だが、余計な一言を発した自覚はあったらしい。目が完全に泳いでる。次に時が動き出したのはディー。
「ん?脱がせた?あぁ。ゆきの服の事か?だって仕方ないだろ?もの凄く汗をかいていたんだ。まだ気にする歳でもないだろうし、あのままだとダメだろ?」
何も問題がないような言い方だ。悪いとは微塵も思っていないらしい。そして最後に時が動き出したのは私。
「え? 服脱がしたのがディー?ドルトさんじゃなくて??」
「ああ。汗が酷かったからな。替えの服がなくてそのまま寝かせたんだが、寒くはなかったか?」
ここでいつものエンジェルスマイルが発動する。とても綺麗なんだけども今回はみとれない。むしろ殺意が沸いてきた。
「私。気にする歳なんですけど・・ 」
ぼそぼそっと言葉を発する。
「え?」
「だから!!気にするっていってんの!!16歳の乙女が服ひんむかれて平気なわけないでしょ!!!」
「じゅ、じゅうろく?」
「そうよ!16歳よ!歴とした女子高生よ!」
鼻息荒く主張する。ついでにあまり育ってない胸も張ってみた。すると、呆然と凄く驚いた顔をしてたディーが最後の爆弾を投下する。
「すまない・・10歳くらいかと・・・」
ブチッ!
「発育不良でスミマセンね!!何よ!もう!ディーの顔なんて見たくない!」
ドカドカドカッ・・バタン!!
リビングから出て、寝ていた部屋に戻った 。
「何よ!そりゃ私は胸もないし色気もないわよ!でも、10歳はないんじゃないの!!小学生って!」
あんまりだ。そりゃ服だって平気で脱がすわよね!子供だと思ってるんだもん!あー!腹立つ!
あれからすぐディーは謝りに来てたけど無視して部屋のなかに引きこもってた。(しばらく口聞いてあげないんだから!)
そして、今に至る。
うん。私のせいかもしれない。でも顔を見たくないとは言ったけど、二週間も家に来ないとか・・(あれ?怒っちゃってる??それはマズイ。言い過ぎた?やり過ぎた?)
今更ながら反省する。でも私まだ怒ってるんだからね!小学生はないよ。あんまりだ。そんなことを考えていたら
「何一人で百面相してるんだ?」
ポンっと頭に手が置かれた。見上げれは微笑んでいる綺麗な人。
「ディー!」
ちょうど本人の事を考えていただけに凄く驚いた。でもちょっと気まずくてすぐに顔を伏せる。そんな私に
「まだ怒ってるのか?この間の事なら謝る。悪かったよ。俺の考えが甘かった。女の子が服を脱がされて平気なわけないよな。すまない。」
眉を下げホントに申し訳なさそうに話すディー。(んー。ズルい。)そんな態度取られたら何も言えなくなっちゃうじゃん。まだ文句の一つも言ってやろうと思ってたのに・・・
「もういいよ。謝んなくて。私も怒りすぎた・・と思うし・・」
「そうか。なら良かった。」
顔をあげればそこにはエンジェルスマイルのディーがいた。(何かズルいよね!その顔。)
「でも!これだけは言わせてもらうから。私は子供じゃないからね!」
最後の悪あがきでこんなことを言ってみる。
「ああ。ゆきは16歳の素敵なレディだ。わかってる。」
極上の微笑みでそんな言葉を返してくるディー。(もう!何かいろいろ反則だよ。)
この二週間、ディーは情報を集めるためにいろいろ飛び回ってたみたいで、わかったことを報告してくれた。でも涼太の事はまだ何もわかっていないし、帰る方法に関してもまだまだ情報不足で・・・
「やはり、一度王都まで出ないとダメだな。」
「王都?」
「ああ。ここは辺境の地だからな。この辺りではあまり情報が得られない。大きな町の方が情報が集まるだろ。調べものをするにも都合がいい。」
つまりは田舎より都会の方が何かしらの情報があるんじゃないか。ってことだよね。
「その、王都ってどんな所?どれくらい離れてるの?」
ここから出たことがない私としては凄く気になる。てか、この世界の町がどんなものか詳しく聞いてない。
「そうだな・・・まずはこの家から出るのが先だな。」
!!そうだよ!お守り!それを貰わないと家からも出れないんだった。とりあえず家の外を観てみたい。ここは村らしいけど他の人にも会ったことないし。
「お守りくれるんだよね?それがないと家からも出れないし。早くチョーダイ!」
ニコニコしながらディーに催促する。やっと外に出れると思うと喜ばずにはいられない。
「あー。じゃあ俺は席をはずすぞ。」
慌てて何処かに行こうとするドルトさん。どうして?お守りって人に見られたらいけないわけ?キョトンとしてドルトさんを見る。
「いいか。ゆき。気をしっかり持つんだ。これは大事なことなんだ。くれぐれも怒っちゃダメだぞ。」
私の肩に手を置き真剣な顔で言うドルトさん。気をしっかり持って怒るなって・・ 一体どーゆーこと??私、何されるわけ?一気に不安になってくる。お守りを受け取るだけじゃないの?
「んじゃディー。頑張れよ。」
何故かディーをニヤニヤ見ながらドルトさんは去っていく。
「あんたって人は・・・ほんと悪趣味だな。」
呆れ返った様子のディーがドルトさんを軽く睨みながら追い出すように手を振っている。えーっと、ちょっと待ってよ。これから何をするつもりなの?
「ちょっと、ディー。お守りくれるだけだよね?ドルトさん何言ってるの?怒るってどーゆーこと??」
私はよほど不安そうな顔をしていたんだろう。ディーが大丈夫だ、と言うように私の頭を撫でながら説明をしてくれた。
「ドルトの言ってることは半分冷やかしだ。あまり気にするな。それと、ゆきが言うお守りっていうのは・・多分思っている物とは少し違うと思う。ゆきは何か身に付けるものだと思ってるだろ?アクセサリーだったり小物だったり。」
コクりとうなずく。確かにそう思ってた。てゆーか違うの?
「お守りと言うか、加護といった方が正解だな。俺がゆきに加護を与えるんだ。この世界で生きていけるように。」
顔は優しく微笑んでいるけど言葉は強い決意を感じさせる言い方だった。思わず見いってしまう。
「加護を与えるにはまずゆきに信頼をしてもらわなければならない。一方的に与えることも出来るが効果がかなり弱くなる。それだと意味かがない。」
そこまで言うとディーは私に目線を合わせて顔を覗きこんでくる。
「ゆき。俺の事を信用してくれるか?」
(ギャー!また近い!顔が近いんだってば!)
綺麗な顔を間近で見た私はドギマギしてしまう。この人距離感おかしいよ!一瞬でパニックになったけど、ディーの眼差しは真剣そのもの。すぐに私の思考も切り替わった。
(信頼かぁ。正直、出会ってそんなに経ってないからディーがどんな人かまだ良く解ってない。でも、ディーは一度は私の事を助けてくれた。それにとても悪い人には見えない。ドルトさんだってそうだ。この2週間、私が困らない様に一生懸命お世話してくれた。こんな人達が悪人だったらみんな悪人だよ。うん。大丈夫。自分を信じよう。)
「私、ディーの事信じてる。大丈夫だよ。」
目線をしっかり合わせてニッコリ微笑んで返事をする。すると碧色の瞳が少し細くなり極上の笑顔を返される。
(ホント、綺麗な顔・・)
頭がポーっとなる。こんな顔されたら誰でも見とれてしまうんじゃないの?もう私の頭の中はディーの笑顔でいっぱいだ。
「£¢*§£―――汝、これにより我が加護を授ける。受け入れよ。」
ディーの声が聞こえたと思ったらおでこに柔らかい感触。しばらくするとチュッと音がした。
「!!!!」
あまりの予想外の出来事に目を見開いたまま完全に固まってしまった私。何とか目線をディーに向けると前髪を掻き分けおでこを見てるようで・・・
「上手くいった。ゆき。成功だ。信じてくれてありがとう。」
これまた物凄いエンジェルスマイルを私に向けてきた。たまったもんじゃない。一気に赤面する。
(えええ!!!何した!今何したの!?もしかして、、いや!もしかしなくても、デコチューだよね!)
真っ赤な顔で口をパクパクしていたら
「すまない。もう少し説明が必要だったな。そんなに赤い顔をされるとこっちまで照れてくる。」
ディーが視線をそらし口に手をあてながら話す。その頬は少し赤く見えた。
(あっかーん!その顔ダメよ!可愛すぎるでしょ!)
お互いに頬を染めあって、何とも言えない空気が漂う。どうしたらいいのよ!!
「あー、その。無事にゆきにも加護がついた。これで外に出ても大丈夫だ。長い間閉じ込めてて悪かったな。」
ディーが雰囲気を変えるように話し出した。そしてタイミングを計ったかのように部屋のドアが開く。
「無事に終わったか?」
にやけ顔のドルトだ。つーか、その顔は絶対見てたでしょ!せっかく引いてた顔の赤さがまた戻ってくる。
「んー?俺は見てねーぞ?そろそろだと思って来たんだ。」
(うわ!何も言ってないのにエスパーかよ!)
「ハハハッ。ゆきは考えてることが顔に出過ぎだな。そんなに驚くなよ。」
ドルトさんは笑いながらディーに近づいてその肩をたたいた。
「ご苦労さん。もう休むか?」
「いや。まだいい。ゆきにもう少し説明をしておきたい。」
そんな会話をする二人。良く見たらディーの顔色があまり良くない様だ。
「ディー、大丈夫?顔色が良くないよ。もしかして、さっきの・・加護のせい?」
加護のせいなら私のせいだ。何か呪文みたいなのを唱えてたし、加護を授けるって物凄く疲れる行為だったのかも。そう思うと申し訳なくなってくる。
「そんな顔するな。俺は大丈夫だから。」
ポンっと頭に手を置くディー。それは私の不安を少し軽くしてくれたのだった。