幕間Ⅰ 微睡みの夢
暗く冷たい海の底。私の口からは泡がこぼれるのに、なぜか呼吸ができる。
そんな世界を、私は薄ぼんやりと知覚していた。
沈まず、かといって浮上することもなく私の身体は漂っており海面を見上げる――仰向けのような姿勢だ。身体は意思の通りに動くものの、動かしているという感覚がなく、視界も周りに白い靄がかかったかのように狭い。
そこでようやく、私は微睡みの中にいるのだと理解した。
私はいつ寝たのか。寝る前は何をしていたのか。今はいつでどこにいるのか。
色々な疑問が頭を駆け巡るが、重たい頭は答えを出してくれない。
そうして、一秒にも数日にも感じる矛盾した時間感覚を経て、私の体が海面へと浮上していく妙な浮遊感を覚えた。
海面が近づくにつれ、世界は白く輝き私の身を包む。
眩しさに手をかざしながら目を瞑ると、ふわりとした世界を感じる。
そのまま私は目を覚ました。
♦ ♦ ♦
瞼を開いて最初に思ったことは「なぜ天井が岩ではないのか?」ということだった。
起きてすぐにそんなことを考えてしまう自分を不思議に思い、私は覚えている限りで最も新しい記憶を探る。
――痛み、酷い悪臭、えも言われぬ不快感や生暖かい体温。
私は気絶する前のことを、そして、これまで気絶していたことを思い出した。動悸が高鳴り、額にはびっしょりと汗が浮かぶ。
――気持ち悪い。――気持ち悪い。
自然と右手が左胸へと伸び、何かに縋るように握りしめる。
目を閉じ、深く息を吸い込む。吐いた息も、喉も、体も震えるが気にせず深呼吸を続けた。
何度も。何度も。
気がついた時には動悸も収まっていた。ずっと握りしめていたせいで生地は伸び、変なクセがついてしまっている。
そこでようやく、私は服を着せられていることに気がつく。
「…………だぼだぼ」
立ち上がった私は両手を広げてくるりと回り、服のサイズ感を確かめる。
ふわりと翻る服の裾は、サイズが合っていないせいで私の膝をも隠していた。襟も余っており、ぐいと伸ばすと上から私の胸が丸見えである。男性用の大人服だということはひと目でわかった。
「ここは、どこ……だろう…………?」
続いて辺りを見渡すと、私が今まで寝ていたベッドと簡素なテーブル、上着を掛けるクローゼットが目に入る。窓からこぼれる太陽の明かりが部屋を照らし、外からは賑やかな喧騒が聞こえた。誰かの家だろうか? それにしても家具が少なすぎるような…………。
私は思い切って窓へと近づき、外をのぞき込む。
しかし、見えたのは建物の頭ばかりで様々な音は下から聞こえてきた。どうやら、ここは建物の二階部分らしい。
道端を駆け抜けていく子供、荷物を抱える女性、武装をし方々に目を光らせる衛兵。そのどれもが人間族であることは意識しなくても分かった。
誰がどんな理由でこのような状況を作ったのかはわからないけれど、私は本来来るべき場所へと連れられていたようだ。
もう一度ぐるりと部屋を見渡すと、さっきまで私が寝かされていたベッドに腰をかける。
ドアが開いたのはその時だった。
前述した通り短いです、すみません。