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ガサッ
息を張り詰めながら走っていると、突然、そんな音がすぐ近くから聞こえてきて、ゾッとした。
やはり、動物もいる。当たり前だ。
鳥なら良い。猿でもまだ許せる。だが、もし野犬や猪なら。もしくは、いや、こんなことはないと願いたいが、熊、だとしたら。
「……」
だからと言って立ち止まれるだろうか?
こんな中途半端な所で引き返すのか?
それは、とてもじゃないが、…ない。あり得ない。
「」
ただもうひたすらに、一言も発さずに突き進むのみだった。
たとえあの動物が何であれ、このスピードにはついてこれまい。そもそも、ついて来ようとは思うまい。
何の得にもならないはずだ。
ただ山を下っているだけなんだ、それだけだから、なんの咎めも受ける必要はない。
いよいよ暗い。
もう真下さえもよく分からない状態だ。
時間が遅くなればなるほど、前進が難しくなる。
高低差が掴めない。
だから、膝が伸びきった状態で、変に着地してしまったりする。
ただでさえ疲れているのに。痛い。
休み休み進むのとも訳が違う。
もうちょっとで家に帰れる、と思って帰路を行っていたのと、心理状況もまるっきり違う。
怖い。
だから止まれない。止まったら絶対に、もう進めない。
ただ、こんな時だから、眠気だけは一切感じなかった。これは良かった。それだけがメリットである。
ここを下り終えれば、また上りが待っている。
またてっぺんまで進まなければならない。
全く非効率な限りだが、向こうの岩山へ向かうのだから、仕方がない。
……今日はやめておこうか。
ふと、そんな考えがよぎった。
そうだ。今日は麓で一夜を明かそう。
危険を冒してまで、あそこへいく必要はない。
体力は使い果たしちゃお終いだ。不測の事態に対応できない。
よし、下り終えたら、山と反対の方向へ進もう。
ずっと遠くに行かないと家は一軒もなかったはずだけど、少なくとも山中よりはずっと安全だろう。
どこか寒さをしのぐ場所でも見つけて……。
空気が冷え込んでいる。
降りきった頃には、少し気温も上がっているだろうか。
これほど動いているのだし、汗だってにじみ出ている。
大丈夫。何とかなる。
まだ指がかじかむ前に、どこかへ潜り込めば。。
そうだ。そうしよう。
私はぼんやり、しかしながら驚くくらい高速でそんなことを考えながら、右足と左足を同じように突き出し続けていた。