春のテーマ決定とセクシーブラウス姉さん⑥
ブラウス先輩(名前を聞いていないので勝手に命名)は無課金で、僕の手を握って教室の後方の実験机へと案内してくれた。
実験机の周りには既に多くのギャラリーが取り囲んでいた。最前線では後ろの人も見えるようにと、しゃがんで机の縁に手をかけて待っている人がいる。
机の背後には黒い煙幕が張られていて、研究紹介なのに魔術的な雰囲気を醸し出している。暗いコントラストを必要とする見世物なのだろうか。
ブラウス先輩は僕をそのギャラリーの最前線に連れていった後、するりと握っていた手を引き離した。
ここに居てネ、と囁いてブラウス先輩は机を挟んで対面のスペースに移動した。実験機材が置かれているスペースだ。
「レディース・エン・ジェントルメン!大変長らくお待たせしまシタ!」
マジシャンのように仰々しく挨拶するブラウス先輩
「今からお見せする実験は種もしかけもありません!ただしちょっと実験操作は加えマス」
ブラウス先輩のジョークにギャラリーが少し盛り上がった。周りを見渡すと、ちらほらと見たことのあるメンツもちらほらいた。あいつら本当に釣られて来たのか。
「まずはこちらをご覧ください」
ブラウス先輩は上手にフェードアウトしながら、背後の煙幕を下ろした。
下ろした先には3つのPlanetがラックに並べられ、白い光を放っていた。
白い光の正体はそのPlanetの中心にぷかぷかと浮かぶ惑星だ。
「突然ですがみなサン、ご存知でしょうか。地球は過去に3回も真っ白に凍った時期があることを」
ブラウス先輩は柔らかく、目尻だけで笑った。
「今、目の前に並べてあるこれは、そのときの地球をPlanetにて再現したものになりマス」
「ちなみに、こんな地球のことをなんていうか知ってる子はいるカナ〜」
金色の髪を耳にかけながら、前に座っている小学生達に問いかけるように言った。
その姿勢はまるでグラビアアイドルのポーズだった。緩いブラウスの間隙 から漏れる胸の谷間が、小学性の目覚めを発火させたかもしれない。
「「「スノーボールアース!!!」」」
小学生達は間髪いれずにお姉さんの質問に答えた。なんだこいつら、天才キッズかよ。
「「「ドザエモンの映画で見た〜」」」
「そうだヨネ〜、みんな賢いっ!」
ドザエモンの映画ではそんな難しいことも教えているのか……。俺も知らなかったのに。まぁ、概念的にはわかりやすいもんな。
ちなみにドザエモンとは、色んなトラブルを未来の道具で解決する引き換えに毎回水死体になる、SFサスペンスの金字塔アニメのことである。
「そう、これはスノーボールアースという現象でーす!」
「ここからの説明はちょっと難しくなるから、後で本を読んで勉強してほしいんだケド……」
ブラウス先輩は聴衆から見て一番左のPlanetを掴んで、前につき出した。
「これは一回目の全球凍結、マクガニン氷河時代。23〜22億年前」
次に真ん中のPlanetを前につき出した。
「こっちは二回目の全球凍結、スターチアン氷河時代。7.2〜6.6億年前」
最後に一番右のPlanetを前につき出した。
「そしてこれが最後、三回目の全球凍結、マリノアン氷河時代。6.39億〜6.35億年前」
「「「すげ〜〜!!」」」
小学生たちは、目の前のPlanetの光が目に反射するくらいに顔を近づけて、眺めている。
そりゃそうか、アニメで見た世界が目の前にあるんだもんな。
じっと観察する小学生をそっとそのままにしておき、ブラウス先輩は残りの大きなお友だちの方を向きなおした。
「まぁ、こうやって今じゃ考えられない地球の状態を眺めているだけでも楽しいのデスが、ここは大学デス」
「interestingなお話もしたいと思いマス」
ブラウス先輩は背後にスクリーンを下ろし、3つのPlanetの映像ウインドウを投影した。
「一見、生命にとっては死であり、停滞の時期であるスノーボールアース。実は多くの恩恵ももたらしております」