春のテーマ決定とセクシーブラウス姉さん⑤
「秘球館〜ちきゅうのはじまりをまなぶところ♡♡♡〜」
オープンラボを惑星材料研究室、惑星工学研究室の順に見学した後に現れたのは、原色ピンクでデコレーションされた如何わしい看板と、中をシークレットにする暖簾が吊るされた、惑星発生学研究室展示入り口だった。
顔を手元のパンフレットに向ける。入り口を見る。もう一度手元を見る。
蘭子がサークルのタイムラインにアップロードした地図も確認。
全3研究室から成る惑星生物学科は、理工学研究エリア・8号館、3階に位置しており、今回のオープンラボは、同じフロアのエレベーターすぐ横の教室にて開催することになっている。
エレベーターに近い側から、惑星材料研究室、惑星工学研究室、惑星発生学研究室の並びで展示が行われている。
なので、この地方にありがちな大人向けのテーマパークを彷彿させるコレが、最後の見学ゾーンで間違いないはずなのだが…、躊躇われる。
同じく、動線したがって他の教室を回ってきた思春期終わりかけの女子高生たちも、入ろうか戸惑っている。
「…これって、ねぇ?」
「入っていいとこなのかな?」
オープンキャンパスのメイン層すら戸惑わせる展示。だいじょうぶか?
「ぴろりーん」
携帯にメッセージが届いた。差出人は蘭子だ。
さっきから「行った?」「場所わかる?」と催促メッセージが10分おきに届いてくる。
「着いた。2/3見終わったから残りのブースも見てくる」と返信。
「ふぅ、入るか」
僕が入らないと、後ろの女子高生たちがさらに警戒してしまいそうだし。そんなネガティブキャンペーンをした日には「宙下一品(大)・暗黒物質マシマシ・ちょい時空ねじれ、を食い切るまで帰らせんっ!」とか蘭子に言われ、100%の確率で実行に移される。
そんな未来はごめんなので、僕は秘球館こと、惑星発生生物学研究室のオープンラボに足を踏み入れた。
教室の中は電灯が消されていて全体的に暗かったが、ほのかに明るかった。
教室の壁一面、いやすべての壁という壁に、小さな光を中央に灯した真っ黒な空き缶、のようなものが敷き詰められていた。壁面型のプラネタリウムを見ているようだった。
よく見ると、現代地球のような青い星、出来たばかりの地球のような赤い星、白く光り輝く月、青白く燃えるリゲルなど、映像でしか見たことがないものが、手のひらサイズにミニチュア化され、黒い物質が充填された缶の中でフヨフヨと浮いていた。
こういうモノを扱う分野とデバイスがあるのは知っていた。知っていたけども、実物を見た僕はその感想をうまく言葉にできず、入り口で立ち尽くしてしまった。動けなかった。これが…Planetなのか。
「キミは…Planetを見るのは初メテ?」
気がつくと、暗くてはっきりと見えはしないが、隣に白衣を着た女性が立っていた。このラボの人かな?
「はい、初めてです。他の学科なんで。こういうのをやってる人たちがいるのは知ってはいたんですが」
僕は、ラボの人ではなくPlanetの方をぼうっと見つめたまま、話しを続けた。
「知識として持っていたモノより…、ずっと、おもしろいデショウ?」
ラボの人は僕の腰に手を回して、少し押し、もっと近づいて見るように促した。ドキッとしたが、僕は促されるままに壁に向かい、青く光る惑星が浮かぶPlanetのエリアに顔を近づかせた。
「この子達は今も生きてるし、惑星発生を続けてイルノ。一つ一つが宇宙で、私たちは選ばなかったけど、それはそれで完成している宇宙もあるの」
そう言いながらラボの人は僕に顔と体を近づけた。青い光がラボの人のフォルムを暴露し、その輪郭が僕の視界を埋め尽くしたあたりでやっと気づいた。白衣に、白いブラウスに、第二ボタンまで外れた豊満な胸元。
目の前のラボの人は、蘭子がタイムラインに上げていた、セクシーブラウスな先輩だった。
先輩はその青い目で僕をまっすぐに見つめながら、僕の両手をきゅっと握り、誘うように唇を動かした。
「この後、もっとすごいのが見れるけど、見テク?」
僕は条件反射で、脳内で財布の残金を数え始めてしまった。何の条件だ。