春のテーマ決定とセクシーブラウス姉さん④
-2年前・大学祭-
8号館・惑星生物学研究棟
「ここでいいんだよな」蘭子さんよ。
ぽたり。貯水しきれなかった汗が、うつ向いた短髪の頭から垂れ落ちた。
1日のうちで、最も影が丸っこくなる時間帯。僕は大学祭で賑やかな大学の外れ、理工学研究棟エリアを歩いていた。
夏休みは1ヶ月前に過ぎ去ったというのに、その残滓が感じられる程度には暑い秋晴れ。
太陽が眩し過ぎる。モグラでも、吸血鬼でもないのだが、さっきから日にあたる度に死にそうになる。ちなみに前者は昨日蘭子に否定された。
「モグラが太陽に当たったくらいで死ぬわけないでしょーが。地上で死んでるのは、たまたまネコとかに襲われたやつだっつーの」
「正史、モグラがサングラスかけたキャラがでてくるアクションゲームのやり過ぎじゃない?」
メイン画面で実行中のゲームが正にそれだったので、蘭子の正しい追求に対して、何も言い返せなかった。まんまみーあ。
昨晩のサッカーサークルのタイムライントークでも、蘭子は雄弁だった。
-タイムラインSTART-
・ラーメン大好き蘭子ちゃん「明日、我が惑星生物学科、日本語圏以外の子にもわかるように言うと、Departmentment of Planet Biologyでは」
・正史「mentが多すぎだバカ」
・ラーメン大好き蘭子ちゃん「Department of Planet Biologyでは、学園祭に合わせて、オープンラボをやります。ってか、今日もやっていたんだけどね。まだ研究室入って、研究を始めていない私が言うのもあれだけど、世界で一番面白い学問であるプラネットバイオロジーの片鱗に触れることができる貴重な機会です!理学部じゃない人もぜひぜひ来てください!!!」
・名無しのサッカー坊主A「へ〜」
・名無しのサッカー坊主B「行けたら行く」
・名無しのサッカー坊主C「それよりみんな1年生がやってるフランクフルト屋行ってやれよ」
みんな、どうしようもなくなったら行く。と行った感じだな。蘭子ドンマイだ。このサークルはサッカー大好きな、脳まできんに君がデフォルトなんだ。
・ラーメン大好き蘭子ちゃん「みんな反応悪いわね〜」
・ラーメン大好き蘭子ちゃん「こうなったら、あの写真上げちゃお」
・ラーメン大好き蘭子ちゃん「えい」
タイムラインに蘭子が今日のオープンラボで撮った写真がアップロードされた。写真には、オープンラボを見に来た若い学生さんたちが、説明している女学生を取り囲んでいる光景が映しだされていた。
「!!」
白いブラウスに白衣をまとった女学生は、顕微鏡を覗き込みながら、手元のサンプルをいじくり、来場者に説明している。ただ特筆すべきところはそこではなく、まわりの男子高校生の視線を集めている、第二ボタンまで外れた豊満な胸元。あろうことか実験机に乗せられたそれは、手元の円柱状のサンプル容器を保定するのに使われていた。
・ラーメン大好き蘭子ちゃん「倍プッシュ!」
そういって蘭子は胸元に拡大した画像(2倍、5倍、10倍)をアップロード。TANIMAがタイムラインを埋め尽くした。
・名無しのサッカー坊主A「あ〜、俺明日ヒマだな〜。ひまでひまでオープンラボ行かないと死ぬはコレ」
・名無しのサッカー坊主B「前から惑星生物学に興味ありました」
・名無しのサッカー坊主C「俺のフランクフルトが」
筋肉というかスパムからできてるんじゃないか、こいつらの脳みそ。
・ラーメン大好き蘭子ちゃん「手段は選ばない蘭子ちゃんなのである」
そう言い残して、蘭子は爆弾的宣伝を終えた。
・ラーメン大好き蘭子ちゃん「あっ、ちなみに正史は絶対参加だから。この前惑星生物学興味あるって言ってたのに、今日行かなかったでしょ」
-タイムラインFINISH-
と思ったら、最後に忠告。
あー、このためにいきなり宣伝してきたのか。
うん、セクシーブラウスな先輩には興味ないが、惑星生物学に興味があるって話していたし、蘭子がわざわざ宣伝してたわけだし、行こうか。決してあのTANIMAに惹かれたわけではない。だんじてない。ぜったいない。たぶん、ない。