08.おためし!
結局、数の暴力に屈した俺のせめてもの妥協案として、依頼受けることになった。
パンドラとリーフと一緒に、お試し魔物討伐である。
そのため、俺たちは森とは逆にある平原を進んでいた。
「なぁ、パンドラ」
「なんですか薬草屋さん?」
答えるパンドラはローブにとんがり帽、手には身の丈ほどの杖を持ち、まさに俺が思い描いていた魔法使い像そのものな格好だ。
「だからその名で呼ぶなって。次その名で呼んだらこの剣の錆びにするぞ………。で、本当に、本当に大丈夫なんだろうな?」
「まったく…くす…アオバは心配性ですね。安心してください、リーフの腕は本当に確かなんです。大船に乗ったつもりでいて大丈夫です!」
パンドラが力説する最中、その横を歩くリーフに目をやる。
「ふふーん、ふーんふーん」
どこで拾ったのやら、木の棒を振り回しながら鼻歌を歌っている。
………コレが大船だと言うのだから、そこはかとなく不安だ。
今回の討伐目標は、貼り出されていた依頼の中で1番ましな、セキトリと呼ばれる鳥形の魔物なのだが。
なんだか、とても親しみをを感じる名前なのがなんとも。
この魔物、冒険者の間ではお小遣い稼ぎとして有名らしい。
討伐報酬も1匹1万エールと、お安い値段設定になっている。
しかし小遣い稼ぎと言っているのは、皆ルディアーゼで活動する猛者達。
まったく、これっぽっちも信用ならない情報ソースなのだ。
「やべぇ……胃が痛くなってきた」
「安心しろアオバ。いざとなったら、私の魔法が火を吹くぞ。大船に乗ったつもりで任せてくれ」
「うるさいポンコツ船。そう言うのは、魔力コントロールを出来てから言えよ」
「ポ、ポンコ………ポンコツ船…」
ルルは俺の言葉により、早くも撃沈。
「まぁまぁ、僕もいるので大丈夫ですよ。これでもマギです、魔法の威力には自信があります」
「パンドラはな、本当にすごい!」
リーフが説明してくれるが、ドカーンやバーンと擬音ばかりでよく分からない。
「なぁ、ところでリーフって何歳?」
「リーフか?あーおー………パンドラ、リーフ何歳!?」
「12歳ですよ。再来月で13歳になります。ちなみに僕は今年で15になります」
「だって、アオバ。ちゃんと分かったか?」
リーフさんや、自分の歳くらい覚えような。
それにしても、リーフは12か………ロリですね、アウトです。
だがパンドラも15の癖に、リーフと身長はあまり変わらない。
むしろ胸なんかは、もしやリーフの方が………。
「大丈夫ですアオバ。僕の成長期はすぐそこまで来ています。そうなれば、僕もバインバインのナイスボディーです」
パンドラはエスパーなのか!?
「てか、パンドラはやっぱり女の子なのか?」
「さぁ、どちらでしょうか。確認してみますか?」
パンドラが似合わないしなをつくり、悪戯っぽく笑う。
落ち着け俺、落ち着いてよく考えろ。
見た目はリーフとどっこいだが、年齢で言えば俺の1つ下。
もしパンドラが男の子だった場合、ああそうかで終わる案件。
だがもし、もし万が一女の子だったならば………ありがとうございます。
俺の心は決まった。
「よし、そこまで言うなら見───」
「あ、セキトリいた!」
俺の欲望を遮り、リーフが声を上げた。
………………ガッデム!
だが魔物を目の前に、浮わついてばかりはいられないからな。
俺たちは少しでも身を隠すため、その場にしゃがむ。
リーフが指差す先、そこにはまるまるとした鳥がいた。
「………パンドラ、あれって」
「シコ、と呼ばれるセキトリの妙技です」
妙技って、あれどう見ても四股ですよね?
ちょうどセキトリが片足を高々と上げ、その足をふり下し地面を踏みしめているところだった。
続いて逆の足を…………。
「それでは作戦を確認します。アオバが囮、リーフが補助、僕がとどめで行きます」
「なぁ、私はどうすれば」
「ルルは万が一備えて待機していて下さい」
「わ、私にも何か役割を!」
何やら必死なルル。
どうやら先程のポンコツ船が利いているらしい。
そんなルルにパンドラは力の籠った瞳を向け。
「ルル。ルルはここぞと言う時の最終兵器、最後の要です!ですから後でどっしりと構えていてください」
ルルは意図も簡単に機嫌を良くした。
「そ、そうか!なるほどな、パンドラはよく分かっている!アオバ、お前もパンドラを見習うべきだ」
「ルルはすげーのか?すごいのか!?やるな!」
おいおい、ポンコツとバカのお2人さん。
君たちの後で背を向けて震えている奴がいるんだが。
緊張感の欠片もあったもんじゃない。
「さて、そろそろやりますよ」
パンドラがそう言うと、盛り上っていたバカとポンコツも静かになる。
いきなり空気変えるなよ、めちゃくちゃ緊張してきた。
何せ戦闘スキルもない俺が1番槍、囮なのだから。
「………本当に大丈夫だろうな?」
「アオバは疑い深いですね。本当に大丈夫ですって。それに、いざ本当にどうしようもなくなったら地面に倒れて下さい。セキトリは倒れた相手は狙いませんから。セキトリに襲われ重傷者は出ているものの、死者は未だ聞いたことがありませんし」
そこまで来たら、もう相撲だろ。
「…………分かった。頼むぞリーフ」
「おおー!任せた!」
「そこは任せろだろ」
「任せろ!」
「………行ってくる」
俺は一抹の不安を覚えながらも、意を決して腹這いで近づいていく。
そしてついに、セキトリとの距離が10メートルほどに迫った所で、俺は勢いよく立ち上り。
「おらあああ!セキトリ、こっちだこっち!」
囮役としての仕事を果たすため、俺は腹から声を張った。
するとセキトリは奇声を上げながら、頭を低くした体勢で。
「ッキョイー!ッキョイー!」
摺り足で近寄ってくる。
やばい、「はっきょい」にしか聞こえない。
しかもこいつ、摺り足の癖に…………!?
「ちょ……ちょちょ……速ッ!?リーフ、補助魔法!補助早く、早くお願いしますっ!」
そのまるまるとした立派な体躯が、すすーっと大した足音もなく近づいてくる恐怖。
気づけば、俺は背を向けて逃げ出した。
「リーフ!リーフさん、早くー!」
「アオバ、リーフに任せた!」
「違う、リーフに任せろ!だろおおおおお‼」
「あー、そうな。………リーフに任せろ!」
「てか、そんなのいいから早く!!」
「うん、アオバ行くぞ!『クイックアップ』ッ‼」
リーフが魔法を唱えると、俺の身体がふわりと光を帯びた。
半信半疑だったが、確かに身体が軽くなり、走る速度が格段に上がった。
「おぉ!?リーフすげぇな、これなら行ける!」
「そう、リーフはすげーからな!」
このままパンドラの準備が整うまで、逃げ切れば俺の勝ちだ。
後衛組が控えている場所から、俺はなるべく離れた所を走り回った。
どの程度引き離したのか、俺は走りながら後ろを確認したのだが。
おかしいな、あまり離れていない。
あれ?目の錯覚か、セキトリも光を帯びている気がする。
…………………。
「おい、リーフ!おま、セキトリにも補助魔法掛けただろっ!?」
「おー………リーフ、どうやらミスってたな。ごめんなさい」
「リイイイイイイフ……ぶべ、ぶほっ!?」
気を逸らした俺に、セキトリの突っ張りと体当たりが襲った。
「おおおおおおおいってぇ………」
弾き飛ばされた俺は、土や草まみれになりながら地面にうずくまり痛みを堪える。
まるでぶつかり稽古だ。
素人がやっていいものじゃない。
だが痛みに悶え苦しむ俺に、追撃はやってこない。
どうやらセキトリは、ターゲットを後衛組に変えたようだ。
倒れた相手には手を出さないとか、なんて素敵なスポーツマンシップ。
俺の役目は終わった。
これだけ時間を稼げば、パンドラの準備もさすがに整っているだろう。
────と、パンドラ達の方に目を向ければ。
「ルル、ほら、今こそ最終兵器の出番です!時間を稼いでください!」
「待てパンドラ、さすがに私も2匹をいっぺんに相手するのは厳しい!」
「大丈夫です!ポンコツでも少しは時間稼ぎになります!」
「おい、お前までも私をポンコツと言うのか!?」
後方から、新たなセキトリが現れていたようだ。
……………何やってんだあいつら。
お互いに押し合い圧し合い、セキトリどころではなくなっている。
「あ」
パンドラとルルがいっぺんに投げ飛ばされ宙を舞う。
そしてパンドラの上にルルが重なって落ち、それは見事なボディープレスが決まった。
パンドラは動かなくなった。
「こい!さあ、来るんです!リーフが相手だ‼いひひひひ」
声のしたリーフを見れば、自身に補助魔法を付与したのか、凄まじい速度で俺を追っていたセキトリを翻弄している。
てか、完全に遊んでいた。
自前の甲冑とパンドラが落下のクッションになったお陰で、軽傷のルルが立ち上りセキトリへと挑み掛かった。
「掴みさえすれば私の魔法で……あああああああああ!?」
「ッコッター!」
だがルルのくり出した手は、あっさりとセキトリの翼で叩き落とされ、2度目の体当たりの餌食に。
しかし地面に倒れたルルは、なおも果敢に立ち上り、再度セキトリへ向かう。
それを何度も、何度も、何度も……。
あの甲冑、相当硬いんだろうな。
「……………」
それを見て、俺は腹這いで移動を開始した。
スポーツマンシップ?
何それどこに売ってるの?
その日、俺のショートソードの封印がついに解かれた。
成果はセキトリ3匹。
背後からの奇襲ばんざい!