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07.類は友を呼んじゃう

 もうお馴染みとなってきたギルドの食堂兼酒場。

 その一角で、俺は今日もオラオーラ片手に仕事前の一杯。


「カァー、この暴力的なまでの炭酸が」


 そんな俺に背後から声が掛かる。


「アオバ、今日はどの依頼をするのだ?」

「ルル、お前なに言ってんだよ。今日も薬草摘みに決まってんだろ」

「今日もか………まったく、お前と言うやつは」


 このやり取りもここ最近、お馴染みになりつつある。

 ルルとは────あの全身甲冑だ。

 振り返ればその全身甲冑が、呆れながら首を振っていた。

 ダッシュタートルを2人?で倒して以来、ルルにずっと付きまとわれている。

 逃げても逃げても、ガッシャンガッシャンと後を着いてくるのだ。

 ダッシュタートルと言えば、後受け依頼と言う裏技を使い、その討伐報酬の50万エールを折半して分配した。

 あれだけの戦闘で25万エールもと考えるか、命懸けで25万エールぼっちと考えるか………。

 俺は断然、後者だった。

 薬草換算にして130株集めれば良いこと、とどうしても考えてしまう。

 報酬も分け合い、これで綺麗さっぱりおさらばと思った俺に。


『これも何かの縁だろう。私はマジシャンの上級職のウィザードをしているルルだ。これからよろしく頼む』

『いえ、結構です』

『なに、遠慮しないでくれ。数少ないルディアーゼにいる初心者ではないか、これからも力を合わせて頑張っていこうではないか!』


 俺の言葉をどうやら都合よく湾曲して受け取ったルルは、以後まったく話を取り合ってくれないまま現在にいたる。


「てかルル、そんなに違う依頼がしたいなら1人で行ってこいよ。俺は決して、まったく止めたりしないぞ」

「い、いや、それはだな………」

「大丈夫だ安心しろ。ポンコツでも奇跡が起きて何とかなる、かもしれない。ポンコツでも………たぶんな」

「ポ、ポンコツ、ポンコツと何度も言ってくれるが!アオバ、お前だって」

「ああ、もちろん俺は戦闘に関して自他共に認めるポンコツだ。ついたあだ名は薬草屋。でも俺には薬草採取がある。それで、お前は?」


 そう、俺は自分の非戦闘員っぷりを自覚している。

 だがルルは違う。文字通り下手に高火力な魔法を使えるため、機会さえあれば出来るものと思っている節がある。


「わ、私だって触れれさえすれば」

「ダッシュタートルからさえ逃げてたのに?」

「……………………」


 完全に論破されたルルは、黙り込み俯いた。

 これは………来るな!


「わーーーーー!!」


 ルルは奇声を上げると、俺へ掴み掛かろうと手を伸ばす。

 言い返すことが出来ずに実力行使に出るとは、まるで子どもの様だ。

 こうなることを読んでいた俺は、鞘付きの封印されしショートソードでルルの手を弾く。


「本性を現したな、ポンコツ甲冑!」

「お前と言うやつは、お前と言うやつは!あーーーー‼」


 ギャーギャーやりあい始めた俺達を、周りの者達はちらりと見た後、いつものやつかとすぐに興味を失う。

 俺は繰り出される手をショートソードで弾き、叩き、弾く。

 掴まれる訳にはいかない。掴まれたが最後、俺の敗北が決まってしまう。

 ルルの辞書に手加減と言う文字はない。

 魔力のコントロール技術を持ち得ない、真のポンコツなのだから。

 いつもなら限界を感じた俺が走って逃亡をはかるのだが、今日は違った。


「もしもし、そこのお2人さん。忙しそうなところ申し訳ないのですが、少しよろしいでしょうか?」

「「なにか?」」


 ルルの右腕を足で押し返し、左腕をショートソードで受け止め、何とか掴まれないように踏ん張る俺と、それを力で強引に突破しようとしていたルルが、そのままの体勢で同時に振り向いた。

 そこには、2人の少女が並んで立っていた。

 その内の先程話し掛けた方の少女が申し訳なさそうに。


「…………あの、話し辛いのでいったん休戦していただけませんか?」


 俺とルルは顔を見合わせて、ゆっくりと互いに離れた。




「僕の名前はパンドラ。この子はリーフ」

「おー?リーフだ!」


 俺の横に何故かルル、そしてテーブルを挟んでパンドラとリーフが席についた。


「ところでパンドラ。僕って言ってるけど、もしかして男の子?」

「さぁ、どちらでしょうか」


 にこにこと楽しそうにパンドラが笑う。

 パンドラはボーイッシュな女の子にも見えるが、男の娘と言われても不思議ではない容姿をしている。

 分からないから聞いたのに、問いで返されても困る。


「………で、話しとは?」


 俺はこの話題をスルーすることにした。


「そうでした。少々お尋ねしますが、あなたが薬草屋さんですか?」

「え?ちが───」

「そうだ。こいつが薬草屋と呼ばれている者だ。アオバ、嘘は良くないぞ嘘は」


 華麗にしらを切るつもりだった俺の言葉をさえぎり、ルルが腕を組ながら言った。

 ルルのやつ、初めて会った時のことをまだ根に持ってやがるな。


「そう怒るなよ。あの時は悪かったって…………少しは思って…あぶなっ!」


 横から無造作に伸びてきたルルの手を間一髪で躱し、手首を掴んでそれ以上の暴挙を食い止める。

 ここは早く切り上げねば、俺の命が危ないので話を進める。


「それで、俺が薬草屋なら何なんだ?」

「それなんですが、あの……是非とも僕たちもパーティーに加えてもらいたいのですが」

「だが断る‼」

「ええ!?」

「何度も言わせんなよ………断ると言ったんだ!」

「何で恥ずかしそうなんですか………。それで、理由を聞いても?」

「理由ってもな、そもそも俺は仲間を募集したことはない。なのに、今はこのポンコツに付きまとわれて絶賛苦労の真っ最中だ………っと、この!」


 ポンコツに反応し、ルルの手に更に力が込められたのを強引にねじ伏せる。


「僕たち、これでも2人とも上級職なんですよ?お役に立てると思うんですが」

「ああ、こいつも一応上級職だぞ。…………ポンコツだがな!」


 くっ………そろそろ押さえてられなくなりそうだ。


「ちなみに、2人のご職業は?」

「僕がマギで、この子がセージです」


 セージと紹介されたリーフが何も言わないと思えば、彼女はいつのまにか注文した枝豆を、必死に鞘から取り出しているところだった。


「む?万能型の魔法職に、セージと言えば補助系の代名詞ではないか」


 なるほど、そんなに優秀な職業なのか。

 俺は立ち上り、ルルの背後に立つと肩を叩いた。


「お疲れ様」

「ん?」

「短い間だったが、お前のことは………たぶん忘れない」

「????」


 何を言われているのか理解していないルルのために、俺はパンドラを指差した。


「万能型の魔法職。性別不明だが、恐らく優秀」


 続いてルルを指差し。


「魔力コントロール不能な3回の制限付き魔法職。性別不明な上、確実にポ───」

「わ、私は女だ!」

「え?そうだったのか。まぁでも、今はそこは大して関係ないから」


 そう、性別などこの際どうでもいいのだ。


「ここに、魔法職が3人います。1人は補助系なので置いといて、今はマギとウィザードな。優秀なマギと、ポンコツなウィザード。仮にパーティーを組むとして、残念なことに魔法職が2人になります。さぁ、ここまで言えばさすがに分かってくれるな?」

「ア、アオバ……じょ、冗談、だろ?」


 心配そうにこちらを見詰めるルルに、俺は哀愁をふくんだ優しい笑みを浮かべて、そっと肩に手を置いた。


「お疲れ」

「わあああああああああああ‼」


 ルルは叫びながら顔を手で覆い、テーブルへと突っ伏した。

 それを満足げに見届け、俺はパンドラとリーフへと向き直った。


「と、言うわけで、俺は仲間を募集してないんだ」

「ええっ!?どう言うわけですか!?今の話の流れでは、その方を追い出して僕たちがパーティー加わるんじゃ?」


 意外に腹黒いな、こいつ。


「違うよ?」

「ええっ!?」


 俺は初めから一貫して言ってるではないか、仲間は募集していないと。


「この突っ伏してるのも、厳密に言えばパーティー仲間ですらない。ただのストーカーだ」


 パンドラが無言で、突っ伏しているルルを見つめる。


「それに、俺も冒険者になって日が浅いからな。むしろ2人の足手まといになるぞ?」

「それなら大丈夫ですよ?僕たち2人も冒険者になりたてですから」

「は?え?いやいやいや、それでもマギとセージだろ?上級層とは言わないが、この街の中堅層辺りならひっぱりだこだろ」

「この子を見て、もう一度それが言えますか?」


 そう言い、パンドラは枝豆に夢中だったリーフの顔を上げさせた。


「おー?パンドラどうした?」


 食べ終わった枝豆の皮で遊んでいたリーフが、不思議そうに俺とパンドラを交互に見比べる。

 俺はパンドラに何も言えなかった。


「ご感想は?」

「お前も、苦労してるんだな」


「はは……魔法の腕は確かなんです。ただ、まぁ…バカと天才は紙一重と言いますか、少しだけバカよりなんです」

「…………パンドラ、それぶっちゃけバカって言ってね?」

「……魔法の腕は…確かなんですよ?本当です、それは信じて下さい」


 パンドラは目を逸らしながら言った。

 ……………否定は、しないんだな。


「うん、やっぱり無理‼」

「そ、そこを何とかお願いします!」

「いやパンドラ、よく考えろ。後衛職3人に非戦闘職1人って、どう考えてもバランス悪すぎるだろ」

「大丈夫です!薬草屋さんがリーフの補助魔法で強化して貰って囮になり、僕が魔法で止めをさします」

「俺が囮な件について!」


 これはダメだなやつだ。

 俺がここから逃げる算段を考え始めた矢先、今まで突っ伏していたルルが復活した。


「アオバ、私にいい案があるのだが、聞いてもらえるだろうか!」

「却下で」

「ええっ!?」


 どうせろくな案じゃない。

 だがルルは、そんな俺の態度にめげずに続けた。


「このままではいつまでたってもお互い平行線だろう。ここは平和的に、多数決をとろう!」

「おい、ルルこの野郎!ちょっとま────」

「この4人でパーティーを組んだ方が良いと思うものは挙手を!」


 ルルは俺に意見を言わせまいと早口で捲し立てると、勢いよく手を上げた。

 そして当然、パンドラも便乗する。


「………?はーい!はーい!リーフもはーい!」


 リーフは何が何やら分からぬままに、突然手を上げたルルとパンドラを見て、真似して手を上げた。

 なんてこったい。

 これでは、平和的な民主主義の皮を被った───


 単なる数の暴力ではないか!


 ああ、ちくしょう!


「私はルル、職業はウィザードだ。これからは仲間なのだ、敬称はいらないからルルと呼んでくれ。」

「では、僕もパンドラでお願いします」

「リーフはリーフな!」


 おい、お前ら勝手に自己紹介始めるんじゃない!

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