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04.異世界は俺に優しくない

 足場の悪い森の中を、俺は必死に逃げていた。


「のおおあああああああ!無理無理無理っ!こんなん無理いいいいいいい‼」


 何からって?亀からだ。

 チュートリアルクエストこと、薬草の採取のため俺は、街の外に広がる森へ意気揚々と向かったのだが………。

 なかなか見つからない薬草を求め、おっかなビックリ森の浅い場所を探索していた。

 6株見つけて、残り約半分まできた時だった。

 そいつは唐突に現れた。メキメキと木々を薙ぎ倒す音と共に、軽トラック程の大きさの亀が。


「………………」

「………………」


 お互いにとって予想外の遭遇に、俺と亀は見つめあった。

 そして互いを認識しあった、次の瞬間。


「ぅ……ひゃああああああああああああ‼」


 俺は一目散に逃げ出した。

 手に持っていた薬草をぶちまけて。

 だが相手はいくらでかくとも所詮は亀。

 全力で走れば余裕で振り切れると思ったのだが、何と亀は俺に負けない速度で追ってきた。

 それはもう、兎が余裕こいて寝てる暇もない速度で木々を薙ぎ倒し。

 今もなけなしの体力を振り絞り走るが、いっこうに距離が離れない。


「いやほんとマジで無理!マジで無理!ごめん無理いいいいいい‼」


 かと言って撃退するにも俺は丸腰な訳で。

 所持金も無いので、最初(はな)から武器など買えないが。

 草摘み位なら装備がなくてもなんとかなる、と高を括ってたのが仇になった。

 チュートリアルはどこへいったのか。


「ああ!コイツ、ダッシュタートルか!?」


 そうだ、掲示板でチラッと見た奴だ。

 ………確か1匹50万エール。

 これで50万!?

 ハード過ぎやしませんか異世界様!

 ろくすっぽチュートリアルさえ満足にさせてくれないとは。


「くっそ、こうなりゃ自棄だ!」


 亀を撹乱するために俺はジグザグに森を駆け抜け、時には木に張り付いて姿を隠し、見つかりまた逃げるを繰り返し…………。

 どうにかこうにか亀を撒き、へとへとになりながらルディアーゼの街へ逃げ帰えることができたが。

 ────依頼失敗。

 初の依頼はあえなく失敗…………。

 まさか、これは違約金の発生か!?

 無一文の俺が怯えながら、重い足どりでギルドへ報告しに顔を出した。

 しかし、どうやら薬草の採取は常時貼り出されているものらしく、これに限って違約金はないとのこと。

 それでも依頼の失敗は失敗な訳で、ふところは極寒。

 無一文の俺はその日、宿にも泊まれず飯も食えず、腹を空かせたまま広場のベンチで寝転がり。


「ハードが過ぎるぞ………異世界」


 そのまま異世界初日の夜を明かした。



 ───翌朝、ベンチにて。


「昨日は運が悪かった。そう、運が悪かったんだ。そして俺も出来る準備を怠っていた」


 俺はそう言い自分を励ましながら、右手をスライドさせた。


「……出ないか」


 首を傾げつつ、何度か繰り返すもやはり出ない。


「やっぱり起動キーみたいなのがあるのか。昨日は無言でも出たから、口に出す必要はないはずだ」


 オープン……出ない。

 お願いオープン……違うな。

 ステータス…………。


「うん、これか。そんな気はしてた」


 一度ディスプレイを消し再度ディスプレイを出し、あっていることを最終確認する。


「問題なし。それじゃあ、確認していきますか」


 初めての依頼と言うことで舞い上がり、ぶっちゃけ昨日は確認することを忘れていた。

 チュートリアルを前に、自身のステータスチェックなど昨今では当たり前なのに。


「ステータス……は基準がよく分からん。職業はガーデナーで……ん?」


 何気なくガーデナーと記載された文字に触れると、新たに小さなディスプレイが現れた。


「おぉ、スキル‼」


 これがクソ女神ベルが言ってた力か!

 職業ガーデナーだから余り期待は出来ないが、ないよりはましだろうと…………。


【グロー】

 効果:植物の成長を促進させる。


 …………………えーと。


「それだけ!?しかも、これだけ!?」


 そう、俺のスキル欄にはこれしかなかった。

 むしろ、実は期待を裏切って欲しかったくらいだ!


「あー…そう言えば、ベルの奴が地球での徳をー…とか言ってたな。花屋に引っ張られた感じか……いや待て、まだ悲観するのは早いぞ」


 このスキル欄の空欄、そして世界にはLv.がある。と言うことは、Lv.を上げれば新たなスキルがってことに…………。


「植物成長させて、どうやって魔物倒してLv.上げるんだよ!」


 俺的にはもっとこう、植物を操って鞭に……的な物を期待してたんだが。ガーデナー、庭師には荷が重すぎた様だ。

 少し落ち込んだことで視線が下がり、俺は見つけてしまった。


【女神の呪い】

 効果:幸運値が100~-200へ女神の気まぐれで変動。


 そして、そこにも不吉な空欄が…………。

 俺は反射的にステータスの幸運値を見直した。


「幸運値60、これは良い……のか?」


 まぁ、マイナスじゃないから大丈夫だろう。

 まさか昨日のダッシュタートルとの遭遇は、コイツが仕事をしたのでは?

 俺はさっと手をスライドさせ、ディスプレイを消した。

 何でもかんでも【女神の呪い】の所為にしていてはダメだ。

 そう思ったのだが、不意に肩に衝撃が…………。

 鳥のフンだった。

 俺はディスプレイを開いた。


「なんだ、幸運値たった-5か……………んのクッソ女神イイイイイイイイ‼」


 早朝の広場に、俺の心からの雄叫びが響いた。



 ───薬草採取のリベンジのため、俺は2度目となる森へ訪れていた。

 道中ステータスの幸運値をチェックしながら歩いていた時に、-10になった瞬間に馬フンを踏んだ以外は順調だ。

 馬フンを踏んだのも、俺の前方不注意による事故だ。

 絶対に【女神の呪い】の所為ではない。

 ………ないったらない!

 俺は辺りを見回しながら慎重に、うろ覚えな記憶を頼りに森の中を進む。


「確かこの辺りだったはずなんだが…………お、あった」


 そこは俺が見つけた中で、森の1番浅い位置にある薬草が生えた場所。

 なぜここに来たかと言えば。


「頼むぜ俺のスキル……『グロー』!」


 昨日摘み取ったばかりの、地面から少し顔が出た程度の薬草の根本に向い、手をかざしながら俺はスキルを発動。

 すると、薬草はみるみる内に俺が摘み取る前の姿へと戻った。

 それはまるで、植物の成長を早送りで見ている様に。


「やばい、これやばい!俺、魔法使いみたいだ!これだよこれ、俺が求めてた異世界‼」


 …亀で嫌と言うほど異世界は味わったが、人間、忘れることも大事だ。

 華やかな俺の描いていた異世界魔法とは違うが、これも魔法は魔法だ。


「『グロー』……『グロー』……『グロー』……『グロー』……」


 調子にのった俺は、薬草を成長させては摘み取り、成長させては摘み取りを繰り返した。

 だが次第に薬草の成長が目に見えて悪くなっていき。

 10回目辺りでついに、薬草はしなしなの冷蔵庫の奥深くで眠っていた葉野菜の様になってしまった。


「なるほどな」


 徐々に状態が悪化したことから、恐らくスキルの失敗ではない。

 だとするならば、これは薬草周りの土の栄養が枯渇したのだろう。

 俺は薬草横に生えた雑草を引きちぎり、


「『グロー』……やっぱり」


 雑草はひょろひょろのか細い有り様。


「6、いや5回ぐらいが目処だな」


 過剰採取は周囲の薬草根絶に繋がる。

 これからもお世話になる薬草様には元気でいてもらいたい。

 それに奥へも行きたくないし。

 俺は周囲を警戒しながら近場にある薬草の生える場所を周り、途中で新たな薬草を見つけた物を入れ計5株から採取した。

 摘み取った薬草は全部で30株、6万エールになる。

 俺は脱いだパーカーで薬草を大事に包み街へと戻った。

 街に戻った俺は直ぐにギルドへ行き、薬草を納品し達成報酬を受け取り。

 そのまま流れるように食堂へ向い、


「すいませーん!ここで1番ボリューミーな物を!」


 1日ぶりの飯だ。

 運ばれてくるなり、俺は無我夢中で口の中へとかっ込んだ。


 初依頼の達成をその時、俺は実感した。



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