10.ご指名ですよっ!
「おおっ!?70も…今日は昨日と違っていい日な気がする」
カメレオンオレメカから逃げ帰った翌日。
オラオーラ片手に何気なく開いたステータスが、幸運値70という好数値を示していた。
正直、朝の占いで1位くらいにしか思えないけど。
俺の目の前に、その元凶達がいる。
「……おい、もうお前ら俺に関わるなよ」
「何故だ?私たちはパーティーではないか」
「そうですよアオバ。何を今さら言ってるんですか」
「リーフたちはパーティーなのかー。へー……知らなかった!?」
「だよな、俺も知らなかった。てか、認めた覚えが俺にはないんだけど」
こいつらと居たら、幸運もへったくれもない。
全て吸われている気がするのは、俺の気のせいか?
「アオバ、今日はどの依頼をするのだ?なんなら私が見繕ってやるぞ」
ルルがそんなバカな事を言い出した。
おい、俺が数秒前に言ったことを復唱してみろ。
「だから、俺はお前らとパーティー組むつもりはない」
「この街にいる、数少ない初心者仲間ではないか!」
「知るかよ。それに、俺は今日は薬草採取に行くから。ついて来られても足手まといだ」
「稼ぎたいならもっと報酬の良い………」
ルルの声がどんどん小さくなっていく。
その原因は、俺が出した握り潰した様なシワが目立つ1枚の紙。
厳密には、領収書の様な物のせいだ。
「そうだ、俺は金が欲しい。何故かって?俺のコツコツ貯めてた金が、昨日無くなったからだ」
俺がそう言うと、ルルとパンドラがあからさまに顔を逸らした。
「おいおい、どうしたんだ2人も?俺の目を見て、ちゃんとお話ししようぜ」
俺は更に紙をルル達の方へ寄せる。
「あ、アオバ…そのだな……」
「え、えーとですね……」
「なんだ、2人も言えないのか。そうかそうか……なら俺が言ってやる!昨日の依頼失敗の違約金を、金の無いお前たちの代わりに俺が全部立て替えたからだ‼」
その額、何と150万エール。
違約金は報酬の10分の1が規則だと、昨日初めて知った。
………そんなの知りたくなかった。
4人で割れば、1人頭37万5千エール。
それくらいは参加していた者として、少し不本意だが払う意思はあった。
それすら持ち合わせていなかった、目の前の3人。
首を竦めている2人に、なおも俺の口は止まらない。
「毎日コツコツ貯めた金だったのに!……あげく所持金が足りなくて、まだ活躍の場が1度しかなかった俺のショートソードは売っ払われるし。ねぇ、何で俺のなの?お前の杖は!?その甲冑は!?パーティーだのなんだの言うなら、まず金を返してからにしろ!」
「なー」
「リーフもだ‼」
肩で息をしながら言いきった俺に。
「あのー……」
そこには見てはいけないものを見てしまった様な、困り顔の受付のお姉さんがいた。
「あ、はい」
ヤバい、ちょー恥ずかしい。
一気に頭が冷えた。
「えーと、それで何か?」
「あ、はい。ハナサキさんのパーティーに指名依頼が来ています。厳密には、職業ガーデナーのハナサキさんにです」
指名されるほど活躍している覚えはないのだが。
…………………ん?
「パーティー?」
「はい、昨日パーティー申請がありましたよ?」
俺は、透かさずこの問題の根源と思われる、人物達へと振り向いた。
案の定、ルルとパンドラは振り向いた瞬間に、白々しくもテーブルに顔を伏せ寝たフリをしやがった。
そんな2人を見て、リーフが真似して顔を伏せたが触れないで置こう。
話がややこしくなる。
「おい、そこのポンコツども。これはどういう事だ」
「「………………」」
あくまでも寝たフリを貫くつもりらしい。
ならば、こちらも好きにさせて貰おうか。
「どうやら昨日の依頼の疲れが残っている様なので。俺に、と言うことは、1人でも大丈夫でしょうか?あと、パーティーの解散手続きはどうすれば?」
俺の言葉に、2人がピクリと反応する。
「パーティーの解散申請でしたら、窓口で随時受け付けています。ですが…」
なんだ、そんな簡単に解散出来るのか。
ほっとひと安心したものの、言いよどんだ事が気になる。
「それで依頼の方は?」
「依頼なんですけれども、内容が内容だけに、本来ならハナサキさんだけでも大丈夫なのですが。依頼主の方から、パーティーでとの指定も含まれていまして」
受付のお姉さんはそう言い、依頼用紙を手渡してきた。
それを受け取り、内容を確認した俺は。
「起きろポンコツども!お客さまは全員での参加をご所望だ‼パーティーで受ける最後の依頼に行くぞ‼」
──俺たちは、地図を頼りに依頼主の待つ屋敷へと向かっていた。
依頼を受けた際、受付のお姉さんからはくれぐれも失礼のないように、との忠告を受けた。
確かにこの内容なら、そう言いたくなる気持ちも分かる。
[屋敷の庭の手入れ]
依頼内容:荒れ果ててしまった庭の修復、修繕。及びお手入れ。
必須職業:ガーデナー
必須条件:パーティー全員での参加
報酬:400万エール
屋敷に住み、庭の手入れに400万エールをぽんと出すような人物が依頼主なのだ。
俺は不安でならない。
依頼を受けるための必須条件とは言え、コイツらと一緒に行くのだから。
「これでアオバからの借金を返せば、パーティー続行ですね」
パンドラ、俺は返してから言えと言っただけで、このままパーティーを続けるかはまた別の話だ。
「なーなー、重くないのかー?」
「あぁ、私はいつも鍛えているからな!」
顔見せしたら、出来ればその足でコイツらは帰って貰いたい。
「浮かれるのは良いが、失敗したらまた40万エールの借金だぞ。俺ももう手持ちがないから、次こそはその杖か甲冑、失敗したら売り飛ばすからな」
嘘ではない、俺は本気でやるつもりだ。
それを感じ取ったのか、ルルとパンドラは明らかに行動を改めた。
「あ、あと、どれくらいで着きますか?」
「地図によれば、もう少しって所だな」
「そそ、そう言えば、依頼主の名はなんと言うのだ?」
出来るなら出来るで、初めからそうやって欲しいと思うのは、俺の我が儘なのだろうか。
「そう言えば、俺も見てなかったな。えーと……」
俺は依頼書を読み返し、見たまま伝える。
「シュテルド…バンレン……ラクスト?」
なんだこの長くて言いにくい名前は。
そう思って依頼書から顔を上げた先で、ルルとパンドラが固まっていた。
リーフ、ルルをガンガンするのはやめなさい。
「おい、どうしたんだよ2人とも」
するとパンドラが凄い剣幕で迫ってきて。
「しゅしゅしゅ、シュテルドと言えば、ここルディアーゼの領主、シュテルド辺境伯家じゃないですか!?」
溢れんばかりに目を見開いて、パンドラが叫ぶ。
伯爵様からの依頼だったのか、通りで金払いも良いわけだ。
「そうか、辺境伯からの依頼なのか…そうかそうか…はああああああああああっ!?」
俺には意味が分かりません。
なぜこんな、初心者駆け出し丸出しの俺たちを指名したのか。
なにこれ、俺はどうしたら良いんだ?
いや、依頼をこなせば良いのか。
もしや、何かの陰謀に巻き込まれてる?
なかばパニックを起こしていた俺の肩に、ルルの手が添えられ。
「アオバ、悪いことは言わない。この依頼は断ろう」
「やはり、ルルも何か陰謀を感じるのか?」
「ん?あ、いや、そうではない。ただなんと言うか、その、あまり乗り気になれないと言うか」
どこか歯切れの悪いルル。
確かにルルの言う通り、何か裏を感じなくもない依頼だ。
だが、金額を考えると断るには惜しい。
内容的にはそこまで難しいことではない。
………そうか。
「ははーん、分かったぞルル。お前、俺たちに依頼を断らせて、後で1人で受けるつもりだな。だがこの依頼には、ガーデナーが必須だと言うことを忘れてるぞ!」
「い、いや、そう言う訳ではないのだ!ただ私は……」
「おー、何だこれは!?でっけーなー‼」
リーフの大声に振り向くと、そこには大きな屋敷。
口論している間に、目的地に着いたらしい。
「残念だったなルル、どうやらここが目的地だ。お前1人に美味しい思いはさせるか!」
「あ、待て!?良いから私の話を!」
ルルの制止を聞かず、俺は屋敷のインターホンを押した。