ちゃんと渡せない人
「のん」
電車の中。旅路に疲れて、一眠りしていた子を揺すって起こしてあげる。
「着いたぞ、起きろ」
「ふぇっ?」
寝起きの辛い時に急かせるよう、降りる仕度をさせる。
カバンを持って、開く自動ドアを潜る。
「のん。俺、忘れ物した」
「えぇっ?」
「お前が寝すぎなのが悪い。棚の上に置いてあるから、とってこい」
「広嶋さん!のんちゃん、届かないですよ!」
「いいから!椅子にでも、足を乗せろ。お前のカバンは持ってやる」
そうやって、また座席のところへ、嫌がっても行かせる。ぷんぷんっと怒る子。待ってあげる人は、周囲の迷惑も気にせず、自動ドアを閉めさせず、優しく立って待つ。
「あれかな?」
背伸びをしても届かない。靴を脱いで、椅子の上に立って、そこからまた背伸びをして忘れ物をとった。
思ったほど重くなくて、大きいだけのもの。
紙袋で、上に乗っていた荷物の中身が見えた。ちょっと、ビックリして床に転げそうになった。目を丸くして、靴を履きなおして、
「あ、あの」
「電車、発車するぞ」
駅員に怒られながらも、2人は足早にここから離れていく。
少女は紙袋の中が見えて、不思議にも嬉しい気持ちが沸く。
「これ、この……」
「お前にやるよ。お前が今、もってるしな」
返品はダメだと、ちょっと満足気な顔。してやったりの顔で。
顔を赤くなっても、文句が出る。
「ズルイです。もっと、ちゃんと渡せないんですか?」
「そっか」
反省のない声の後、
「じゃ、ちゃんと、今、渡すから許してくれな」
そうやって、彼はまたもう一つ。カバンの中から、またプレゼントを手渡した。
両手が塞がった2つのプレゼントにやっぱり
「もう、ズルイですよ」
今度のは文句になれなかった。




