闇の世界
二時間後、仁川たちは戻ってくるとやっぱり「検査どーだった!?」なんて聞いてきた。これは私が認めたくないだけだから…神様、許してください。私は皆に嘘をついてしまいました。
「皆そんなに心配しなくても大丈夫だよ!ただの疲れだったから」
仁川たちはほっとする。……ごめんなさい皆。
「ふぁあ……おはよーございます皆さぁん」
ようやくミルクとシルクが目を覚ました。皆は案の定二人の取り合いを始めたので苦笑する私、二人も満更でもないと言った顔だ。と、そこで藤原が小声で話し掛けてきた。
「黒羽、思ったんだけど……俺たち別れないか?」
そっと藤原の顔色を伺ってみると真剣なのがよくわかった。そっか……。
「うん、藤原がそーゆーなら私は構わないよ」
藤原が迷惑に思わないように私は笑顔を作るけど、内心動揺していた。仁川言われたから?それとも私の事は元からあまり好きじゃなかったから?勉強忙しいから?なんて様々な疑問が浮かんでは口に出せずに消えていく。悲しいけど、なんとなく気付いてもいたから何も…言わない。
「じゃあ藤原、これからは友達。よろしくね」
面会終了時刻ギリギリまでいた仁川たちもようやく帰り、個人の病室に三人が残った。私とミルクとシルクの三人である。さっきまで皆と楽しくお喋りしてたミルクはうつむき、シルクは窓辺に座っている。二人とも何が言いたいのかは何となくわかった。
「ミルク、シルク。パラレルワールドにはいつ出発するの?」
ミルクは黙り込み、代わりにシルクが答える。
「次の満月の夜」
私は苦笑する。
「まるでよくある冒険物語の始まりみたい」
ミルクとシルクも笑ってくれたし今日はもう寝よう。
朝4時を少し過ぎた頃、私は起き上がる。昨日はすぐに寝ようと横になったけど眠れなく、二人が寝静まった頃にスマホでケータイ小説を読んでいた。それでも寝れなくて小説を書いていたら朝になってしまい、結局一睡もしていなかった。空がまだ眠っているこの時間は好きだ。静かで心地良い。そういえば今日は家に帰ることになっていたかな?もう少しここで小説のネタ探ししたかったんだけどなーなんて考えた。
その後、私は家に帰り、その日は友達からLINEが送られてくることもなく何事もない一日だった。
そして数日後の満月の夜。集まったのは仁川と藤原と鈴音と汐里、野桜、そして私の6人だけだった。皆予定が入っていて来れなかったのが理由で、ミルクとシルクは仕方ないと無理強いしなかった。
「それじゃあ書きますね!」
ミルクは長めのチョークを手に取ると学校の校庭の中心に大きな魔方陣を描き始めた。迷いのないその書き方は今までにどれだけその仕事をしてきたのかがわかる。きっとその度に泣きそうになるのを堪えていたはずだ。ミルクは描き終えるとチョークを魔方陣の外に置いて皆に入るように言った。私は言った。
「ネト友たちは?」
シルクが答えた。
「もう先に行ってる。あっちの世界の一部にバリア張ってその中で待ってる」
私はわかった、と一言口にすると皆と一緒に魔方陣の中に入る。
「それでは始めます。皆様、手を繋いで輪になってください。あちらの世界に着くまでは……私達の指示があるまでは絶対に離さないでくださいね?」
そう忠告するとミルクとシルクは魔方陣の中心部で向かい合い、ぶつぶつと小声で何かを言った。キーンと耳が痛くなるような音と共に……私達6人は光に吸い込まれていった。
「……黒羽様」
ミルクの声にゆっくりと目を開ける。
「暗い……ここが異世界?」
ミルクの方に視線を向けると静かに頷く。藤原は言った。
「もう手を離しても大丈夫?」
ミルクは、はい!と元気よく答え、シルクに抱きついた。
「今回は誰も分裂せずに来れましたねー!」
「人数がシナリオより少なかったからだよ」
シナリオ……?前もそんなこと聞いたな、確か夢の中で天使と悪魔に。
「んで白崎のネト友とか言うやつらはどこだよ」
仁川は不機嫌オーラを出しながら問う。シルクが答えた。
「これから案内するよ」
そう言って皆の先頭を無言で飛んでいくシルクに、私たちも黙ってついていった。案内されている間は誰も、一言も喋らないので私は辺りを観察し始める。(私達の世界とほんとそっくり、だけど全部黒いし、空はどす黒い紫で、そこらじゅうに落ちているのは得体の知れない緑色の物体……)とにかく気味が悪く吐きそうになるような臭いも辺りを包んでいた。(なんか、怖い)チラリと皆の方を見れば私と同じように辺りを見渡しては顔を歪めていた。そのような光景を無視して飛んでいくシルクはしばらくしてとまった。
「ミルク、やって」
「わかりましたー」
一言だけ口にしたシルクはミルクと場所を交代し、ミルクはそっと目を瞑る。と同時にミルクの体から光が漏れだし目の前に扉が現れる。皆このような不思議な光景に慣れたせいか誰も驚くことは無かったが、不可思議な事が起こる度に私は『綺麗だ』と思った。
「さあどうぞ!」
ミルクがそう言って扉を押し開けた。ゆっくりと開いていく扉に向かって皆の背中をシルクがおしながら言った。
「早くして、じゃないと攻撃されちゃうから」
皆は黙って従うばかり、何も言わないのは何故だろうか…私にはわからない。そんな事考えながら私はさっと扉を潜り抜けた。
サアァァア───……。木々が風に吹かれ、緑の大地へと足を踏み入れた私達6人は呆気に取られていた。先程まで見ていたあの暗い闇の世界とは裏腹に、緑に包まれたこちらの世界。私達が元いた世界よりももっと美しく自然豊かな世界が広がっていた。しかし、私達が入ってきた扉が消えたその場所は、薄く透明な壁があるのが見えた。よく見るとこの場所は随分と狭くて小さいし何より生き物がおらず静かだった。私達の考えていることを察してか、ミルクが口を開く。
「ここは闇の世界にいるモノ達から隠れるために作った船、パルスです。言ってしまえば、移動する島の様なものです。ちなみに名前の意味は知りません(笑)」
クスクス笑いながらチラリとシルクの方をみたミルクに、吊られてシルクに視線を向けると、真っ赤になったシルクが言った。
「し、しかたないだろ!一々こちらの船がどーのって言うの面倒だってあいつらが言うから!!」
私は首を傾げて問う。
「あいつらって?」
ミルクがまだ笑いながら言った。
「先にご案内いたしますね!話はそのあとです!」




