3
8月10日
夏祭り最終日。ああようやく、ひたすら焼きそば焼いてた日々からの解放!
今日は材料余分一掃ということで大セール。明日からは連休だからがんばります。
素朴なお祭りだけど、田舎町だから、町中の人が集まってくる。いつもの商店街とは違う客層なので楽しい。
ラストひとつの焼きそばを店頭に置いたとき、男女が同時にそれを手に取った。連れとかではなく、ちょうど左右から同時にパックを触ってしまったかんじ。
浴衣姿の二十歳ほどの女性と、それより背の低い少女、じゃなくて、声は男の子。よく見ると以前本屋さんでエロい注文をしてきたあの美少年だった。女性VS子供、どちらが譲るかな?と思ったら、男の子がにっこり笑って、「さーいしょーはグー」とやりだした。女性も笑って参加。女性が勝って、スッキリ楽しそうな顔で焼きそばを購入していった。
彼と一緒にいた友達が、「梨太、お前のほうが手が下だったぞ」と言うと、「彼女、僕が手を伸ばし始めてから駆け寄ってその上に置いたんだよ。はらぺこ女子の可愛さに敵うものなし」と。それじゃまるで、わざとじゃんけんにも負けたみたい……。
友人たちは「負け惜しみを」などと言って、ゲラゲラ笑っていた。
彼らが去ってずいぶん経ち、だいぶお祭りが静かになってきたころ、売り切れ御免の札の向こうで座ってスマホをいじってた私がふと顔を上げると、そこに背の高い男の人が立っていた。
一目見たら忘れられない超絶美形、このあいだいきなりダッコ&高い高いされたあのひとだ。
固まる私、そのままじっとしている青年。……もしかして、やきそば、食べたいの?
「あの……売り切れです……」
私が言うと、そのまま、視線をわたしの膝の上にやる。ちょうどそこに、自分用にと前もって取り分けて置いたやきそばのパック一人前があった。
「あ、これ、あの、私の……」
「……そうか……」
表情は何も変わってないのだけど、空気が……。しゅん、という効果音が空中に浮かんでいた。
「……あ……あの……」
「…………」
「……さ……さんびゃくえんです……」
私の言葉に、やっぱり表情はなにも変わってないのだけど、空気が、ぱあっと喜び咲いた。
無言のままお金を払い、ありがとう、と丁寧に言って去っていく。
……ふつう、ああいうときは遠慮するのではないだろうか……
やっぱり変な人だ。