山石歩美の業務日記1
純然たるおまけ。こちらを読まなくても本作を理解するのに支障はありません。
7月2日
今日から、アルバイト開始。
高校を出てから一年ニートの私を、親が伯父に投げ捨てやがった。
自治会長である伯父からは、地元商店街の売り子であるとだけ聞いて来たけど、ようするに売り場の欠員補充なのね。
今日はとりあえず商店街全体の掃除をやった。腰がいたい。十九才にして腰痛。
帰りに、かりんとうまんじゅうを買う。1個30円。オマケして3つくれた。
まあ、とりあえず明日も頑張ろう。
7月4日
今日ははじめての店舗ヘルプ。本屋さん。
欠員の理由はバイトのぎっくり腰。そう聞いたときに逃げればよかった。
7月7日
店内ポップを書かせてもらう。これ、楽しい。
ヒッキーニートらしくオタクであり、本が好きだというと、店長が店員書評を書いてみないかって。嬉しい。
ヘルプ期間はあと3日、頑張って読む&書くぞ!
7月9日
書棚整理をしていたら、お客さんから声がかけられた。振りかえってみてビックリ、めちゃくちゃ可愛い男の子だった。近くの男子校の制服着てなかったら女子にしか見えない。腐女子、満場一致で『受』だ。
目も髪も栗色でまんまる。あんな風に生まれたかった。でもかけられたセリフで二度目のビックリ。
「すみません、『人妻凌辱トゥエンティフォー』置いてますか?トゥエンティフォー、は24時って書くんですけど」
って!顔色ひとつ変わってないし!!
そんなタイトルは覚えがないし、高校生には売れませんって言ったら、戸口の壁に隠れてた男子二人を振り返って、
「柴田明宏ー溝口啓介ー、人妻凌辱トゥエンティフォー無いってー!どうしよう、罰ゲーム、ジュース奢るとかじゃだめー!?」
「名前よぶなよ!」
だって。男子校らしい悪のりに笑ってしまったけど、この美少女じみた彼の、見た目と言動のギャップが可笑しくてたまらなかった。
あとで店長に聞いたら、常連で、いつもすごく難しい本を買うんだって。またギャップあるなぁ。
7月10日
昨日の男の子がまた来た。私服も可愛い。私の顔を見つけて、昨日のことをちゃんと謝ってくれた。
いい子だなぁ。
悪い友達に付き合わされたのだろうなと思ったら、「ほんとにタイトルがあって持ってこられたらどうしようかと思った。僕、人妻系はちょっと。せめて未亡人じゃないとなぁ」と……
うう、ギャップ。
7月11日
本屋さん最後の日。
明日からは、かりんとうまんじゅう屋さん。
売り子さんだ!しかも、スタッフは食べ放題だって。楽しみ。
7月15日
かりんとうまんじゅうなんか二度と見たくない。
7月16日
暑い!
こんな暑い日なのに、長袖長ズボン、さらにニット帽まで被ったひとが来た。
サングラスまでかけてるから、なんかもうほんとに変なひと。
彼はキョロキョロして、私を見つけて、まずかりんとうまんじゅうを4つ買い、本屋さんの位置を聞いてきた。見かけによらずきわめて良識的なひとらしい。
教えてあげると、だいぶ離れたところにいた連れに向かってかけよっていった。
遠くて顔はよく見えなかったけど、背が高くて足がながぁ〜かった。