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勇者は二度世界を救う  作者: 柊千鶴
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家出少女ー3

「う、うわあああああ!」


「ちょ、ちょっと! 逃げるんじゃないわよ! あんた私の護衛でしょー―――――!」


 少女は男に向かって声を上げるが男は遠くに逃げていく。少杖を振り回し信じられない、と地面を蹴った。ゴブリンはこちらの都合などおかまいなしに襲ってくる。少女は男とは逆方向に走り出しどこか隠れる場所はないかと必至に探し、少し走ったところで洞窟が見えた。危険かもしれないが少しの間身を隠すのなら大丈夫だろう、少女はそう判断し洞窟の中へと逃げ込む。

 

「ハアッ……ハアッ……」


 信じられない、前金として金貨1枚払ったのにゴブリンにあったと途端逃げ出すなんて! あの男次あったらたたじゃおかないんだから!!

 少女は洞窟の奥に隠れ、ゴブリンをやり過ごそうと身をひそめる。息を整え壁を背にし座り込むと目を瞑る、不意に刺すような痛みが足に走った。思わず手で足を抑えようとするとひんやりとした感触が手のひらに伝わる。


「デイグスネーク!?」


 少女は慌てて立ち上がり、痛むを足を庇いながら洞窟の奥へとまた走り出した。





「……こりゃ下手に動かすとかえって危ねえな」


 積み上がった岩を軽く拳で叩く。天井はまだ小さな石がパラパラと落ちている、無理に動かせばテオやエルマ、少女の天井にも亀裂が入り落ちてきてしまうだろう。テオは岩をどかすのは諦め違うルートで洞窟を出ることに決めた。


「おーい、お嬢さん? 聞こえるか?」


 テオは少女に声をかける、が少女は震える手で杖を握りしめ俯いて答えない。

 

「お嬢さん?」


「……うるさいわね!!」


 少女に再度声をかけると怒鳴り声がかえってきた。少女はキッとテオを睨むと洞窟の先へと進んでいく。テオとエルマもここにいても仕方ない、と思い少女の後ろを歩く。しばらく歩くと少女が振り向き杖を振ります。


「ついてこないでよ!!」


「いや、ついて行ってるわけじゃないんだが……」


「じゃあ違う道に行きなさいよ!!」


「今のところ見た感じ一本道ですけど、出口の道は貴方が塞ぎましたよね?」


 少女はぐ、と言葉を詰まらせる。さすがに言い返す言葉もないようだ。テオはエルマの頭をポンと軽く叩くと優しく少女に言う。


「なあ、いい加減変な意地を張るのはやめないか? 最初に言ったように俺たちは護衛にきたんだ」


「……」


「頼まれた以上、お嬢さんを放っておくわけにはいかないのさ。それにこうして一緒にいる、協力してここから出ようぜ、な?」


 少女はしばらく黙って立ち止まり、胸の前で両手を握りしめ、テオと目を合わせた。勝気な表情で自分の髪を後ろに流しながら言う。


「……わかったわ、護衛するならしっかりしなさいよね。足手まといはもういらないから」


「……」


 エルマが心底イラッとした顔をしたがテオが苦笑いで肩を叩きたしなめる。

 また喧嘩されたらたまんねえからな……


「私はリゼ・フロベール。名門フロベール家の天才魔法使いよ」


 リゼは片手を胸に当て自慢するように着ていた黒いローブを翻す。よく見ると服は上質な布を使ってあるようだ、杖は鉄か何かで作られているようで、杖の先に大きな宝石のようなものがある。

 自分で天才って言うのか……


「自分で天才って言うんですか……」


「こらエルマ、シッ!」


 テオはエルマの口を手でふさぐ。エルマは特に何も言うつもりはないが不満は残っている。テオの手を叩いたことの謝罪と助けた礼を言ってない、それに出口を塞いだこともだ。ムスッとした顔でリゼを見ている。

 こんな人が天才ならそこら中にごろごろ転がってるでしょうね……師匠も何でこんなのを構うのか……


「フロベールってのは聞いたことがあるな、優秀な魔法使いが何人もいるっていうやつか」


「あら、知ってるのね」


「少しだけどな」


 自分の家を知っているのが嬉しいのかリゼは顔をほころばせる。少しとげとげしさがなくなりリゼの雰囲気が柔らかくなった。ようやくまともに会話ができそうだ、テオはその様子に安心し話を続ける。


「私はその中でもさらに優秀なの、いずれシアノーダ国最高の魔法使いになる女よ! 今のうちに覚えておくことね!」


「へえ、そりゃ楽しみだな」


「……」


 テオとリゼの後ろを歩くエルマはぷう、と頬を膨らませ拗ねた顔でとぼとぼと歩いている。

 さっきまで態度が悪かったのに、いきなりこんな仲良くなるなんて。本当ならもうルルネットに着いてるはずなのに、全然楽しくない。かといってあの時は助けようとは思っていた、魔物に襲われていたが生きてたとき間に合ってよかったと思ったのに。口を開けば上から目線のオンパレード。

 はあ、とため息をつき地面をみる。すると妙な跡を見つけた。しゃがんで跡を指で触ってにおいを嗅ぐ、かすかに鉄のにおいがした。つまりこれは血の跡だ。黒ずんでいるのは時間が経っているからだろう、だがまだ湿っている。ここで誰かが今さっき襲われたということだ。


「師匠、ここに……」


 しゃがんでいる間にテオとリゼはかなり先を歩いていた、エルマは呼び止めようとした瞬間、体が宙に浮いた。ナイフに手をかけるがそれより先に天井の穴の中に引きずり込まれエルマの姿はその場から消える。テオはエルマの声に反応し振り向いたが、そこにエルマの姿はない。


「……エルマ?」


 返事はかえってこなかった。ここまで歩いて道はまだ一本しかない、違うルートから行ったというのはありえない。そもそもエルマが勝手にテオの傍を離れることがまずないだろう。声だって振り向く直前まで聞こえていた。


「おいエルマ、どこだ」


「ちょ、ちょっと」


 テオは急いで来た道を戻ると天井に妙な穴が空いていた、穴がある場所の地面は黒い跡がある。


「この穴……さっき通ったときはなかったよな?」


「わ、わからないわよ……やだ、まさか魔物に攫われて……」


 リゼは顔を青くし天井に空いた穴を見上げる。真っ暗で奥は何も見えず風の音が響いている。


「デイグスネークじゃないわよね、ゴブリンでもないし、えっえっ……どうするのよ!」


「落ち着け、リゼ。エルマなら大丈夫……」


「きゃっ!」


 慌てているリゼの後ろの地面が盛り上がる。テオはリゼの体を抱え地面から出てきて弾丸のように飛びかかる。テオはその物体の突進を避け片手で剣を抜き二度目の攻撃に備える。リゼは頬を赤くしていた。

 現れた敵は蟻のような魔物だった、体は鉱物でできているような固そうな体と足、大きさは目測1メートルはあるだろう。そこら中から何十匹の蟻の魔物が湧き出てきた。


「な、なによこの気持ち悪い蟻……」


「ガンアントだ、リゼあいつは炎魔法はきかねえから注意しろよ」


 ガンアントの群れから一際大きなものが奥から歩いてくる。青く光る体が苔の光に反射し輝きを放っていた。


「ギ……ギィ……エ、サ。と、トドケル」


「餌ですって!?」


「なるほど……エルマはこいつ等のリーダーのとこだな」


 今このガンアントは届ける、と言った。つまり最初に餌を食う権利のあるやつがいるわけだ。こいつがリーダーじゃないなら別の場所で餌を待っているのだろう。

 エルマが連れて行かれた場所はガンアントの本拠地、住処にいる。


「喋れるのはお前だけか? なら他の奴は殺しても構わないな」


「こ、この数よ!? しかもこんな狭い場所で……」


「リゼは下がってな、俺がやる」


 剣を大きくその場で振る。洞窟内に強風が巻き起こった、リゼは手を顔の前に出し前髪を抑える。剣を振った場所の地面が大きく抉れた。

 剣の風圧だけで、地面を抉った……!? リゼは目を見開いた。

 テオは無数の蟻に向かって不適に笑う。剣をガンアントに向け片手で挑発するように指を曲げた。


「こいよ、蟻共。全部駆除してやるからよ」


 

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