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勇者は二度世界を救う  作者: 柊千鶴
1/5

始まり

おっさんが好きなのでおっさん無双がしたい、そんな小説の予定

 木々の生い茂る森、道から外れた誰も入らないような森の奥にひっそりと木で造られた家がひとつ。周りには鳥や野うさぎが元気に跳ねている。動物の鳴き声の中にさくさくと草をかき分け、家に近づいていく男が現れた。半そでから伸びるがっしりとした腕、ざんばらに切られた黒髪、歳は若いとはいえない。

 鳥が一斉に空に飛んでいく。さらに何かが尋常じゃないスピードで人影に襲いかかる。茂みから姿を現した何かは猪に似ていた。だが猪にしては毛の色が紫で牙の他に鋭い角が生えている。

 男は腰に差してある剣で突進してくる猪を見事に真っ二つに斬った。男は眉ひとつ動かさず、汗一滴もかかず己の腕力のみで猪を殺した。まだびくりと痙攣しとめどなく赤い血を噴き出している猪を横目でみた後、男は何事もなかったように剣を振り血を飛ばしてから鞘に戻し木の家に入っていく。


「あ! 師匠お帰りなさい!」


入るとひょっこりとオレンジのサイドテールの髪を揺らして少女が顔を出した。


「ご飯できてますよ、食べましょう」


 急かすように少女が男に腕を引っ張りテーブルに連れていく。テーブルの上にはふかふかと柔らかそうな出来たてのパン、コーンスープにサラダが置いてある。男は残念そうな顔で椅子に座る。


「なんだ、肉はないのか……エルマ~」


「ありませんよ、知ってるんですから私。師匠がこっそり夜中つまみ食いしてるの」


 コップを置きながらエルマと呼ばれた少女は目を細めて男を見る。男はごまかすように笑いながらスプーンを手に取りスープを飲む。

 男の名はテオ・アーレンバリ、かつて魔王を倒した勇者である。

 今から数十年前、世界は魔王に支配されかけていた。凶暴な魔物たちが国や街を襲いどんどんと浸食していく中、魔王を倒すため6人の才能溢れる若者が集められた。数年に及ぶ戦いの末生き残ったのはテオのみ。見事魔王を倒しテオは崇め称えられたが、それは少しの間だけ。魔王を倒すほど強大な力を持ったテオを皆恐れるようになってしまったのだ。実際テオの力は剣術も魔法も誰もが敵わないと思うほど強く、恐れた王はテオを抹殺するよう命令を出した。テオはまだ赤ん坊のエルマを連れ追手を死なない程度に痛めつけ森でひっそりと生活を始めることにしたのだ。


「外に出たならお肉買ってきてくればいいのに」


「酒はしっかり買ってきたぞ!」


「私は飲めないじゃないですか……お土産もないんですかー」


 冗談まじりエルマがパンをむしりながら言う。テオはエルマを弟子として育て、今では自分には劣るが強く育てられたと自負している。エルマは今年で10歳、魔王を倒してからちょうど10年経ったということだ。テオが最後のパンを手に取ろうとしたとき、遠くから悲鳴が聞こえてきた。


「おいエルマ、なんか言ったか」


「何も言ってません、けど……」


 テオとエルマは悲鳴が聞こえてきた外に目を向けた。


「聞こえたよな、誰だ? ったく、冒険者か旅人か……この森に入ってくるなんざ腕に自信があるようで」


「師匠、どうしますか?」


 テオは髪を乱暴に掻くと立ち上がり剣を持って外に出て行く。エルマは急いで自分の部屋から肘から手の長さほどのナイフを持ってくると森の中に入っていくテオの背を追いかけた。


「お前は家にいなさい」


「師匠がいくなら私もいきます!」


「しゃーねーな……」


 本気で戻れとは言っていないがテオだけで事が足りる。エルマもそれをわかっているがテオが戦うのなら様子だけでも見たいと思っているのでついて行く。テオは悲鳴の方向に走っていく。平原を駆ける馬のように森の中を走った。当然エルマもテオのすぐ後ろについて行けるだけの速さで走っている。テオが足を止め茂みに身を隠し、植物系の魔物と戦っている人の姿を見た。


「あの鎧……シアノーダの兵士じゃないですか」


 忌々しそうにエルマが兵士を睨み付ける。シアノーダは国の名前、テオの処刑を命じた王の国。エルマは何度かシアノーダから刺客が送られてきたのをみたことがある。テオからも大体の事情は聞いていた。


「師匠を殺しにきたのでは」


 すらりとナイフを抜き今にも兵士を殺そうとするエルマを手で制し、様子をうかがう。テオを殺しに来た割には兵士が少ない。たった5人だけだ。しかも3人は酷い怪我を負っている。仲間が途中で魔物に殺された可能性もあるが、もう10年も経っているのに仲間を犠牲にしてまで奥へ進んでくるだろうか。


「くそっ! 俺が引き付ける。お前達は逃げろ!」


 兵士のリーダーらしき男が指示を出し魔物に斬りかかる。魔物は毒々しい真っ赤な花びらを咲かせ何本ものツタを鞭のようにふるって兵士を吹き飛ばしている。斬ったそばからツタは新しく生え再生してしまう、真ん中の花を攻撃しなければ意味がない。


「……見殺しにすんのは後味がわりいな、エルマ、怪我人治してやれ」


「ええっ……師匠がそういうなら……」


 渋々といった感じでナイフをしまい立ち上がる。

 兵士は魔物に倒されていく仲間を見て唇を噛んだ。この森はそこらの魔物よりも数段強い魔物が生息している。そのことは兵士もわかっていたがどうしても行かなければならない理由があった。


「ハアッ……ハアッ……」


 嫌な汗が頬をつたう。先ほど毒の花粉を吸いこんでしまい、体が重くうまく動けない。息が荒くなり目が霞んでくる。だが自分が負ければ皆死んでしまう、花粉を吸った仲間が倒れ、動ける者はツタの攻撃を防ぐので精一杯だ。何とかギリギリの状況を保っているが、このままでは――


「上だ!!」


 気づいたときにはすでにツタは兵士の眼前まで伸びていた。しまった、よけることもできずただ顔に向かってくるツタをただ眺めていた。だが突然後ろから低い男の声が耳に届く。


「おらよっ!」


 ツタは宙に飛んだ。ツタを斬り、足に力をいれテオは一気に花の傍まで踏み込む。まわりのツタが花に近づくのを拒むように何重にもツタを花のまわりに巻き付ける。残ったツタがテオの体を突目では追えないほどの速さで突こうとする。突然現れた男に驚いていたが、兵士は思わず声を上げた。


「危ない!」


「大丈夫ですよ」


 兵士の隣にエルマが立っていた。兵士はいきなり現れた少女にびくりと肩を揺らした。立て続けに人が現れ、毒も回ってきたのか情報を整理することができない。エルマは困惑している兵士の顔に手をかざすと呪文を唱えた。


「リカバー」


 兵士は喉が詰まるような苦しさに襲われていたが、エルマの魔法によって毒が完全に体が消し去りいつも通り呼吸ができるようになった。エルマは呼吸が正常になったのを確認すると

 

「ほら、兵士さん。あの人を探しに来たんでしょう」


 兵士がエルマから男の方へ視線を向ける。男はちょうど花に巻き付けたツタをたった一回の攻撃ですべてのツタを斬っていた。無防備になった花を守るツタはない、テオは大きく横に剣を振り花を根本から断ち切る。ほんの一瞬の出来事だった。兵士は目を白黒させながらテオを見ている。テオはエルマの隣にいる兵士の方に振り向き笑う。


「さて、何の用だ」


 ごくりと兵士が唾を飲み込み、掠れた声で小さく呟いた。


「あなたが……勇者テオ・アーレンバリ……」





ちまちま世界観について説明できたらと思います。

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