番外編01「アスレイアの旅立ち・前編」
番外編01「アスレイアの旅立ち・前編」
「こんのぉっ……胸のサイズがなんだ! おっぱいのデカさで人が計れるかっ、業火滅却陣!!」
目の前に広がる草原に、空間を隔離するような光が現れた。
次の瞬間、激しい爆炎と轟音がその内部を破壊し尽くすように巻き起こる。
わたしの使えるもっとも広範囲に作用し威力もある魔法に、目の前は一瞬にして草も生えぬ荒野へと産まれ変わる。
「ふぅ……。あー、スッキリした」
「もう、アスレイアちゃん、スッキリしたーじゃないよ~」
「って、ミュイ? なんであなたがここにいるのよ」
わたしの名前はアスレイア・サークレット、14歳。
60年前までは開拓村の最前線であり、今ではただのひなびただけの小さな村に産まれた、将来は大魔師になること間違いなしの天才魔法使い。
ちなみに目の前にいるおっぱいオバケは、わたしの幼馴染で同じく14歳のミュイ・ガントレット。
……なぜ、同い年なのにここまで発育に違いが出ているんだろう。
身長がミュイに負けているのは……まぁ、悔しいけど別に良い。でも身長の差以上に、胸囲の差の方が大きいってどう言うことなの?
同じ村に住んでいるから、食べているものだってほとんど同じはずなのに……!!
「ね、ねぇアスレイアちゃん。そんなにおっぱいばかり見られると、ちょっと怖いんだけど……」
「ごめん。ちょっともぎたくなっただけだから」
「えっ、じょ、冗談だよね~?」
「…………」
「や、やめて、無言でそんな目で見ないでぇぇぇぇっ」
わたしが本気でそんなことをすると思っているのか、涙目になるミュイ。
なんでだろう、納得がいかない……。さすがに、幼馴染相手にそんなことはする気はないのに。
精々さっきやったみたいに、腹いせに地形の一部を変えるくらいよ?
ちなみにどうでも良い情報だけど、わたしのサークレット家とミュイのガントレット家は親戚だったりする。
3代くらい前が兄弟だったのかな?
まぁうちみたいにあまり大きくない村だと、村人のだいたいが親戚みたいなものなんだけども。
「それで、わたしに何か用?」
「あ、うん~。おじさんとおばさんが呼んでいたよー」
「うえ、悪い予感しかしないわね……。いったい何の用なのよ」
「さぁ、私は特に聞いていないかな~」
わざわざミュイを使って呼ぶくらいだし、お小言とかかな?
最近は村の仕事を無視して、こうやって魔法の練習をしているし。
そう、魔法の練習。決してただの八つ当たりではありません。あしからず。
「ま、しかたないし行くか……。そういえばロックの奴は?」
「ロック君なら、村の自警団の人に剣を習っているよ~」
「ふーん」
このロックって言うのは、ミュイと同じくわたしの幼馴染の1人だ。
ロック・ブーツ、15歳。
ちなみにこの村では、同年代はわたしたち3人しかいない。
一応1年早く産まれていることで何かと歳上ぶるんだけど、正直まだまだ子供だと思う。
「あ、そう言えば昨夜、またあなたの部屋にロックが入り込んでいたでしょ? 声が外まで漏れていたわよ」
「えっ、ほ、本当~……?」
「本当。ちょうど魔法の練習で家の前を通りかかったから、そのまま消音を使っておいたけど……もう、親にはバレているんじゃないの?」
「あぅぅ、恥ずかしいよぉ……」
あらまぁ、顔を真っ赤にしちゃって。しかも動くたびに、たゆんたゆんおっぱいが揺れるのが憎たらしい。
でもこの子は可愛いのよね……ロックのバカが好きになっちゃう気持ちもわかるわ。
そう、幼馴染のミュイとロックは、実は恋人同士でできちゃっている。
しかもミュイがこの男好きするようなスタイルだし、ロックはロックで盛りのついた動物同然で、毎日のように励んじゃっているのよね。
別に幼馴染がどんな関係になろうとわたしの知ったことじゃないんだけど、さすがに目の付く場所とか、声の届く場所でされると腹ただしい。
でもまぁ、この2人は近いうちに結婚するんだろうけど。
そのときは、わたしも素直に祝福しようと思う。でももうちょっと節度を持ってくれないかなぁ……本当に、マジで。
「そ、そういえば、アスレイアちゃんには好きな人とかいないの~?」
と、ミュイが恥ずかしいのを誤魔化すかのように、突然そんなことを聞いてきた。
好きな人……ねぇ。
「ロック以外に同年代の男が周りにいないのに、そんなこと聞く?」
「……っ!? い、いくらアスレイアちゃんでも、ロック君はダメ~っ!」
「安心して、ロックのことなんて別に何とも思っていないから。というか、わたしの好みじゃないし」
なんてことを言っても、男の人の好みなんて特にないんだけどね。それよりも、今はわたしには魔法の方が大事だから。
将来は絶対に大魔師になる。そのためには、男なんかにうつつを抜かしている暇はない。
そんなことを考えて、わたしはふと空を見上げた。
「……アスレイアちゃん? お空を見てどうしたの~?」
「ん、ちょっと昔のことを思い出しただけ」
それは、今から6年前のこと。まだわたしが8歳だったときに、出会ったとある人のこと。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「よーく見ていなさいよ。氷塊落下!!」
突然、空に大きな氷の塊が現れた。
それが地面を押しつぶすかのように落下してくる。
「わぁ……! すごい、どうやったのこれ!」
「あはは、これが魔力によって世界の理を操る魔法というものさ。すごいだろ?」
「うんっ、すごい!」
8歳だったわたしは、初めて目の当たりにした魔法のすさまじさに目を輝かせて頷いた。
魔法というのは、実は使い手がそれほど多くない。
人間は誰しも少量の魔力を持っている。だけど、それを操る術を持たない人が多いのだ。
ましてやこの様な大規模な魔法を使えるほどの魔力を持つ人間はさらに少ない。
だからこそ、魔法を使える人はエリートなのだ。
この村に、そんなエリートである魔法使い……わたしの師匠が訪れたのは、ほんの偶然。
旅の途中に食糧を紛失してしまい、腹ペコになりながらなんとか一番近くにあったこの村にたどり着いた……というのが真相だ。
居心地が良かったのか、なぜかそのまま何日も滞在しており、こうしてわたしと一緒に遊んでくれることも多かった。
「ねぇ、お姉ちゃん。どうやったら魔法って使えるようになるの?」
「うーん、そうだねぇ。アスレイアにはまだ早いかな~」
「えー、どうして~っ」
あ、ちなみに師匠は女の人だった。
当時で大体20代の後半くらいだったはずで、この年齢でここまで魔法を使えるのは一握りの人だけで、すごいんだと自慢していたっけ。
まぁこの当時の師匠より、今のわたしの方がすごいんだけど!
といっても、今のわたしがいるのはそもそも師匠のおかげなのよね。
「それよりも、今日はミュイやロックと遊ぶ約束があったんじゃなかったのかい?」
「あっ、そうだった……。むぅ、でも魔法も教えて欲しいし……」
「ふぅ……しかたない。じゃあ、アスレイアに1つテストをしてみよう」
「テスト?」
そう言って、師匠はそこら辺で拾った石ころをわたしに手渡してくる。
「私がこの村を出て行くまでの間に、この石を割ることができたら魔法を教えよう」
「ほんと!? こんなの、ハンマーを使ったら簡単だよ?」
「あはは、確かにハンマーを使えば簡単だね。でも道具は使っちゃダメだ」
「うーん……じゃあ、岩にでも投げてぶつけてみるね。それでも割れると思うし」
「それは道具を使うと同じじゃないかな? 岩という物を使っているんだから」
「お姉さん、それはヘリクツだと思う」
頬を膨らませるわたしを見て、師匠は笑い出した。
そして、わたしの頭をぽんぽんっと撫でてくる。
「割る方法は詳しく言えないけど、手のひらに乗せたまま……っていうのが条件だ」
「手のひらに? 道具も使わないで割れるわけないよ」
「本当にそうかな? ちょっと見ていてごらん」
自分の手のひらに石ころを乗せて、わたしにもよく見えるようにかがむ師匠。
それを黙って見ていると、不意に、がわたしの目の端を何かが掠めたような気がした。
「えっ……」
小さく声を上げること数秒して、パキンっと小さな音を立てて石が割れてしまう。
「ほらね、割れた」
「……ほんとだ」
「アスレイアがこれをできるようになったら、魔法を教えるよ。ほら、ミュイ達が待っているから遊びに行っておいで」
「う、うん……」
師匠に背中を押され、数歩ミュイとロックがいるだろう方へ足を動かす。
今のをどうやったのかを聞きたくても、教えてくれないのはわかっていた。
だからさっき渡された石ころを握りしめる。
「できたら魔法を教えてくれるの、約束だからね!」
「ははは、できたらね。それとあと数日で私は村を出るつもりだから、期限はそれまでだよ」
「わかった! 明日までに割ってみせるから!」
わたしは師匠にそう答えて、駆け足でミュイやロックとの待ち合わせ場所へ向かう。
遊ぶ約束? もちろん、顔を合わせるなり謝って反故にさせてもらったに決まってるじゃない。
思い出してみれば、ミュイとロックの雰囲気が怪しくなり始めたのってこの日からかも。
もしかしてこの歳から、わたしが一緒じゃないのを良いことにいけない遊びをしていたんじゃ……。
ま、まぁ、そんなことはどうでも良いわ。本当は良くけど、しょせんは他人事だし。
わたしは大急ぎで家に帰ると、1人で部屋に閉じこもって石との睨めっこを開始した。
「ふつう、手のひらの乗せていただけじゃ割れないよね……?」
上から、横から、いろんな角度から石を観察。
もちろん、そんなことでわかるはずがないんだけど。
「うーん……やっぱり、魔法的な何かを使ったのかなぁ。でもどういうこと?」
頭を抱えながら、8歳なりの頭脳でいろいろな可能性を考えてみる。
火の魔法をぶつけた? 火傷しそうだし、火なんて付いていなかった。
水の魔法をぶつけた? 師匠の手も割れた石も濡れていなかった。
土の魔法で粉砕した? 一番ありそう。
風の魔法で切った? そもそも風で石を切れるのかが謎。
わたしの知らないすごい魔法を使った? これもありそう。
「魔法を使えないから教えてってお願いしているのに、魔法じゃないと割れないとかずるい!」
そこでわたしは、何かおかしいと首をかしげてしまう。
「でも、そんな意地悪するかなぁ。なんか違う?」
魔法を教えたくないから、絶対に無理なことを言う。これは普通にありえると思う。
だけどそこまで捻くれていないのなら、これはきっと魔法を使わずにできることなのだ。
まだ幼いわたしでも、それくらいのことは考えることができた。
でも、だからといってその方法がわかるわけじゃない。
「ん~……むぅ……むむむむ……。というか、魔法ってなんなんだろ?」
ふと込み上げてきた疑問。
このときはまだ、ただすごくて派手なモノ、くらいにしか思っていなかった。
「わたし、魔法のこと全然知らない……。1度調べてみた方が良いのかな?」
これが魔法を使うためのテストなのだから、そこにヒントがあるかもしれない。
「うん、そうしよう! お母さん、お母さん」
わたしは母親に魔法の本でもないか聞こうと、台所へと向かう。
まぁ、無駄足だったんだけどね。
こんなひなびた村に、魔法に関係するような書物とか逸話があるわけないし。
あれば1人くらい魔法使いがいてもおかしくないし。
そして結局、わたしは何もわからないまま、また石ころと向き直る。
「うーん……どうしたらこれ、割れるのかな」
試しに、割れろ割れろと頭の中で念じてみる。
当然小石はぴくりともしない。
今度は穴が空くほど見つめてみる。
もちろんだけど穴なんて空かないし、割れるわけがない。
「もーっ、どうすれば良いのよぉ! いっそのこと、お姉さんの寝込みを襲って無理矢理聞き出してみようかなぁ」
もちろん、そんなことをすれば魔法で返り討ちにあうのは間違いないんだけど。
「魔法、魔法、魔法かぁ……お姉さんはどうやって使っていたっけ?
たしかこう……手をかざして、魔法の名前を唱えて、えいっ! って感じ?」
見よう見まねでやってみる。
そこで、ふとあることに気が付いた。
「そう言えば、お姉さんが魔法を使っているときに何かキラキラって光っていた気がする」
今ならわかるけど、それは身体から放出された魔力そのものだった。
自分自身の持つ魔力を操って指向性を持たせ、世界の理に働きかけてその事象を具現化する。
その過程を経るさいに、魔力がキラキラと光るのだ。
もっとも魔法を使う才能を持つ人だけがそれを知覚できるので、ほとんどの人は見えないし、そんなことすら知らないけれども。
当然、当時のわたしもそんなことは知らないため、ただひたすらに首をかしげてしまう。
「お姉さんが石を割るときにも、何かが目の端っこをよぎった……気がする。あれってなんだったんだろ」
結局、この日は何もわからず、いつの間にか寝落ちしまうわたしだった。
そして翌日。この日は朝から、師匠のことをつけ回していた。
「えっと……アスレイア? さっきからどうして私の後をつけてくるのかなー?」
「気にしないで。観察しているだけだから」
「か、観察って……まぁ良いけど。それであの石ころは割れたのかい?」
「まだ。鋭意努力中」
「努力中なのに、こんなところで油を売っていても良いの?」
「もちろん。これも必要なことだから」
そう答えるわたしに、師匠は何とも言いがたい表情を浮かべていた。
ちなみに嘘はついていない。あのとき視界の隅によぎったものが何か関係あると思い、それを調べようとしていたのだ。
で、調べるためには魔法使いである師匠を見張れば良い……と、子供ながらに考えた。
「はぁ……そうやって後をつけ回されると落ちつかないんだけどなぁ」
「じゃあ、お姉さん。もう1回あの石ころを割るのをやって見せて。見たら自分1人でトレーニングするから」
「わかった。じゃあ、もう1度見せてあげるから、よーく見ているんだよ」
「うんっ」
石ころを拾い、手のひらに乗せる師匠。
わたしは、その手のひらで起こることを見逃すまいと凝視する。
すると、前の日に見たよりもはっきりとそれを見ることができた。
魔法というのは、確信することが大事だと以前に言われたことがある。
確信を持って行使しなければ、世界の理に働きかけて、奇跡とも言える現象を実現することができないと。
このときのわたしは確かな確信を持っていた。
そこには何かある。そしてその何かが石を割ったのだと決めつけていた。
だからこそ、そこで起きた奇跡を全て見ることができた。
「わぁ……そっかぁ、やっぱりあのとき目の端に映ったのが原因だったんだ!」
「へ? ちょっと、アスレイア」
「お姉さん、ちょっと見てて。これならわたしでもできそうな気がする!」
「いや、だから待ちなさい、もしかして何か見えて──」
「えいっ!!」
ずっとポケットに入れて持ち運んでいた石ころを手のひらに置いて、手に意識を集中してみる。
師匠は、身体から出した変な光──魔力なんだけど、それを石ころにまとわせていた。
そしてそれを石ころの中に浸透させて、内側からそれを壊していた。
正直見ていただけでそれがわかるわけがないし、どうやれば良いかわかるものではない。
でもわたしは、自分もそれができると確信していた。
だってそうでしょう? ただ師匠がやったこととまったく同じようにするだけなんだから。
そしてわたしが確信していたとおり、石ころはパキッと軽い音を立てて真ん中から2つになってしまう。
「やった、できた!」
「ちょ、ちょっと待った! アスレイア、今なにをやったの!?」
「え? 何って、お姉さんがやったのと同じことだよ?」
「同じって……も、もう1回! もう1回やって!」
「えー。ちゃんとできたのに、お姉さんずるい」
「そうじゃなくて! いいから、はい、もう1度っ」
拾った石ころを、そのままわたしに握らせてくる。
しかたないのでもう1度同じことをしてみせた。
ただこれで2度目。コツを掴んだのか、さっきよりも簡単に石は割れる。
4つに。
「なっ……なんで4つに割れているの!? 全然同じじゃないじゃない!」
「あ、うん、なんかできる気がしたからやってみた」
「やってみたって……普通、こんな簡単にできないんだけど。私だって、師匠にこのテストを出されてできるまで30日くらいかかったのに……」
なぜか、師匠が複雑そうな視線でわたしを見ていた。
わたしは首をかしげて、そんな師匠のことを見返す。
「1つだけ聞くけど、私がお手本を見せたときに何が見えた?」
「なんか変な光みたいのがお姉さんから出て来て、石を包み込んで中に入っていって、中でビシッ、バシッて暴れていた感じ?」
「そこまで見えていたの?」
「うん。だからお姉さんみたいにやればできるんだなーって思って、まったく同じようにやってみたの」
「そ、そう……。この子、天才って奴……? はぁ、嫌になるわね、これは……」
「……お姉さん?」
「ううん、何でもないわ。はぁ……」
何でもないと言いながら、盛大にため息をつく師匠。
だけどすぐに苦笑を浮かべながら、わたしの頭を撫ではじめる。
「……それで、約束どおり魔法は教えてくれるんでしょ?」
「しかたないね。というか、こうなってしまうと、かえってちゃんと教えない方が危なっかしくてしかたないわ」
「それじゃあ……!」
「私がこの村を出ていくまでの数日間だけど、ちゃんと教えてあげる。そのかわり、今から私のことは師匠と呼びなさい」
「うん、師匠!」
こうして、わたしは師匠に弟子入りすることになった。
それから師匠が村を出て行くまでの間に、魔力の扱い方、魔法とは何なのか、やってはいけないことなどを耳が痛くなるくらい聞かされ、申し訳程度にいくつかの魔法を教えてもらうことになる。
そしてあっという間に別れの日がやってきた。
「アスレイア、ちゃんと魔法の練習は毎日やるのよ。それとむやみに人に向けて魔法は撃たないこと。注意したことは全部しっかり守りなさい」
「はーい」
「本当にわかっているの? もう……」
「もちろんだよ。魔法は悪い人やモンスターにしか向けないから大丈夫」
「いや、それで大丈夫ってわけじゃ……はぁ、まぁいいか。
アスレイア、君は天才って言っても良いくらい圧倒的な魔法の才能を持っている。それをしっかり伸ばしなさい。
君ならきっと、将来は……そうね、称号としてのじゃなく真の意味での大魔師と呼ばれるようになるかもしれない。
私はそんな成長したアスレイアといつか再会するのを楽しみにしているよ」
「うん、まかせて! 絶対に師匠よりもすごい魔法使いになるから!」
「はは……精々頑張ってね。多分、10年もしないうちに追い越されるとは思うけど……先に大魔師になって待っているわ」
師匠はちょっとだけ寂しそうにそう呟き、手を振りながら旅に出てしまった。
これからいろんな場所をめぐって、様々な物を見て回るつもりらしい。
大魔師になるには魔法の腕だけじゃなく、様々な見識や知識が求められるそうだから。
なにより大魔師とは人を助けるものだから、世界を旅して困っている人のためになることをするのだそうだ。
「大魔師か……。うん、わたしもいつかなりたいな」
わたしは遠ざかっていく師匠の背中を眺めながら、いつか自分も旅立つことを夢を見ていたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇